日付が変わるのが当たり前になった日常
気づけば、カレンダーの数字が変わってから家に帰ることが増えた。いや、増えたというより、それが「普通」になっていた。昔は「今日は遅くなるな」とか、「たまたま忙しいだけ」と思っていた。でも今は、「帰れる日」がイレギュラー。午後10時にパソコンを閉じられると、「早く終われた」と思ってしまう。司法書士の仕事は、スケジュール通りに終わらない。自分が思っているより、日々は他人の都合で動いている。
「今日は早く帰るぞ」と毎朝思っている
朝のコーヒーを飲みながら「今日は定時で帰ろう」と何度思ったことか。だが、その意気込みは昼過ぎにはだいたい崩れる。相談が長引き、電話が鳴り、謄本が思いのほか出てこない。出し直しの登記申請、郵便の確認、そして机に山積みのファイル。午後6時の段階で終わりが見えたことなんて、ここ数年はない気がする。「定時」とは、自分にはもう存在しない言葉なのかもしれない。
昼間の自分は、夜の自分を裏切る
午前中の自分は、どこか希望に満ちている。「今日はちゃんと終わらせて、家で湯船に浸かってやるぞ」なんて思っている。でも夜になると、疲れ切った自分が「またこんな時間か」とため息をつく。まるで昼の自分と夜の自分が別人で、昼の自分が嘘をついていたかのようだ。どうして、こうも簡単に「約束」が破られるのだろう。自分にさえ、誠実に向き合えなくなってきている。
19時を過ぎても電話が鳴る現実
「もう業務時間外なので…」なんて言えるわけもなく、19時以降にかかってくる電話に応じてしまう自分がいる。「今しか話せなくて」と申し訳なさそうに言われたら、こちらも断れない。むしろ、その気遣いに逆に罪悪感すら覚えてしまう。誰かの人生の大事な手続きに関わっている、という意識があるからだろう。でも本音を言えば、もう少し自分の時間を大事にしたい。
依頼者は夜にしか動けない、それもわかる
相手も働いている。日中は会社員、夜しか連絡できない。その事情は重々理解しているつもりだ。こちらだって「困っている人の役に立ちたい」と思って始めた仕事だ。でも、夜まで仕事を続けているうちに、だんだん自分が壊れていく感覚もある。電話を切った後の静寂が、とてつもなく虚しく感じることもあるのだ。
ひとり事務所の責任と限界
うちの事務所は、僕と事務員さんの二人きり。事務員さんは本当によくやってくれている。でも、最終的な判断は全部こっち。責任も、間違いも、トラブル対応も、全部自分に跳ね返ってくる。気がつけば、仕事を抱えすぎて、誰にも相談できなくなっている。小さなミスが大ごとにならないよう、常に緊張している。そんな日々が、もう何年も続いている。
誰かに任せたくても、任せられない
信頼している事務員さんとはいえ、全てを任せられるわけではない。登記の内容によっては、こちらが細かく確認しないといけない案件も多い。効率化を考えたこともあるけど、結局「自分がやったほうが早い」という思考に陥ってしまう。人に任せるには、任せられるだけの体制と時間の余裕が必要なのだ。だけど今の状態では、そのどちらもない。
事務員は一人、自分は三人分
書類作成、相談対応、電話応対、郵送物チェック、申請業務…すべてを自分でやっていると、本当に「自分が3人いれば」と思う。事務員さんが帰った後、ひとりで黙々と作業を続けることも多い。外が暗くなり、オフィスの明かりだけがやけにまぶしい。「これでいいのか？」と疑問を感じながらも、手は止められない。
手を抜いたら回らないけど、心はすでにすり減ってる
サボったら誰かに迷惑がかかる。そんな思いから、無理を続けてきた。でも最近は、体も心もギシギシと音を立てている気がする。何かが壊れる前に、何かを変えなければいけない――そう頭ではわかっていても、毎日の忙しさに流されて、変えられないまま、今日もまた「帰れない夜」がやってくる。
急ぎの登記に追われる毎日
「至急でお願いします」と言われれば、断ることができない性分だ。「なんとかします」と言ってしまってから、机に戻って後悔することもある。結局は、自分で自分の首を絞めている。でも、その登記が無事終わった時の安心感や、依頼者からの「ありがとうございました」に救われてしまうのだ。だからまた、無理をしてしまう。
「明日じゃダメですか？」が言えない理由
「明日でもいいですか？」と聞きたい場面は山ほどある。でも、その「明日」が他人の人生を左右する可能性があると思うと、簡単には言えない。「この人にとっては、今日が大事な日なんだろうな」と思えば、無理をするしかない。司法書士という仕事の重みを感じながら、またひとつ夜を越えていく。
「帰れない日々」に何を見出すか
何のために働いているのか？ そんなことを考える夜もある。でも、ふとした瞬間に、依頼者の笑顔や感謝の言葉を思い出すと、「これでよかったのかな」と思う。たしかに疲れているし、自由な時間も少ないけど、それでも誰かの役に立っているという実感がある。それが、今の自分をつないでいる。
やりがいがあると言い聞かせる自分
「これはやりがいのある仕事だ」「社会の役に立っている」と自分に言い聞かせながら、日々の疲れをごまかしている。でも時々、それすらも虚しくなることがある。やりがいよりも、まずは休みがほしいと思ってしまう夜。そんな弱音を吐ける場所があれば、もう少し心が軽くなるのかもしれない。
でも本音は「ちょっと疲れた」
誰かに「頑張ってますね」と言われても、素直に喜べない自分がいる。本音は、「ちょっと疲れたんです」。この一言が言えないまま、また一日が終わる。自分の気持ちを押し殺して、前向きなフリをしている。それが今の自分の日常だ。
それでも誰かの「ありがとう」が支えになる
結局のところ、自分を支えているのは、誰かの「ありがとう」だったりする。「助かりました」「お願いしてよかったです」――そんな言葉が、今日の残業を意味のあるものに変えてくれる。不思議なものだ。言葉ひとつで、疲れも少しだけ軽くなる。
見えない報酬に救われる瞬間
お金じゃない、評価でもない。たったひとことの感謝が、僕を次の日へと押し出してくれる。見えない報酬のために、また夜遅くまで働いてしまう。それが良いことかどうかは、わからない。でも、そうやって今も、自分なりの正しさを信じて生きている。
