「楽な仕事でしょ?」と言われて、笑ってごまかした日。

「楽な仕事でしょ?」と言われて、笑ってごまかした日。

「楽そうでいいね」その一言が突き刺さる日

ある日、久しぶりに会った知人に「楽な仕事でしょ?」と笑顔で言われた。悪気がなかったのはわかる。でも、胸の奥にズシンときた。こっちは朝から晩まで書類とにらめっこして、間違えれば責任は全部こちら持ち。精神的な緊張感がずっと続く職業だ。そんな日々を知らない人から「楽そう」と言われたとき、どう返せばいいか、もうわからなくなっていた。

一日中書類と格闘してるって、想像できないらしい

司法書士の仕事は、表面だけ見れば静かで落ち着いているように見えるかもしれない。でも実際には、書類の記載ミスひとつで補正、最悪やり直し。相続関係なんて一つ間違えたら家族トラブルに発展することだってある。朝から登記申請書の作成、午後には相談対応、合間に電話対応。トイレもまともに行けない日もある。そんな裏側を誰かが想像することなんて、ほとんどない。

登記も相談も、ミスできないプレッシャーばかり

「登記って、ただ書類出すだけでしょ?」と軽く言われることもある。でも実際は、依頼内容の背景を読み取り、法律に照らして適切な手続きを判断する必要がある。しかも、法務局によってローカルルールが違うこともあるから、経験と勘も必要。間違いが許されないから、常に緊張している。それでも外からは、「椅子に座ってるだけ」に見えるのだろう。

“ただの代書屋”って思われてる空気、地味にキツい

未だに「司法書士って何する人?」と聞かれる。説明しても「代書でしょ?」で片付けられる。法律知識も責任感も必要なのに、周囲の認識はその程度。努力が見えにくい職業であることはわかっている。でも、せめて“楽”だなんて言わないでほしい。そう思っても、口には出せず、ただ笑ってやり過ごす。

士業のくせに、なぜかラクして稼いでると思われがち

「士業=儲かる」という誤解は根強い。中には儲かっている先生もいるだろうけど、地方で一人事務所をやっている私は、そんな世界とは程遠い。営業も雑務も全部自分でやる。請求書を作る時間すら惜しい日だってある。

年収を聞かれても、答える気力すらなくなる

世間話の延長線上で「年収どれくらい?」なんて聞かれることがあるけれど、正直、そんなことに答える気力もない。言ったところで「そんなもんか」か「意外と稼いでるね」かのどちらかで、こちらの労力や苦労に話が及ぶことはまずない。数字だけを見て人の価値を測る空気に、疲れきってしまう。

「先生って儲かってるんでしょ?」の破壊力

この言葉を笑顔で言われたとき、内心で何度も深呼吸した。「先生」なんて呼ばれながら、日々ギリギリの経営をしている身としては、その言葉の軽さが痛い。自分だけが頑張っていないような気持ちにさせられる。現実は、経費に追われ、顧問先が一つ減るだけで胃が痛くなるような日々だ。

正直、事務員の給料出すのが毎月ギリギリです

うちには事務員が一人いるけれど、正直、毎月の給与を払うのも簡単ではない。ボーナス?夢の話。それでも、彼女がいてくれるおかげで事務所がなんとか回っている。それなのに、外からは「人を雇ってるなんて儲かってるね」なんて言われる。収支を全部さらけ出したくなるときもある。

それでも「楽です」と笑ってしまう自分が情けない

否定するのも面倒で、つい「まあ、楽ですよ」と笑ってしまう。そんな自分に帰り道でがっかりする。楽じゃない。むしろ、毎日が綱渡り。でも、それを言ったところでわかってもらえる気がしない。だから、つい笑ってごまかす。

否定しても疲れるだけ、って割り切りが染みついて

最初のころは「そんなことないですよ」と説明していた。でも反応は「へえ〜」で終わるのが関の山。理解を得ようとすること自体に疲れてしまって、今はもう、表面的に流すようになってしまった。心の中で「わかってもらえないな」と思いながら。

“言い返さない優しさ”が、ただの諦めに変わっていく

言い返せば角が立つ。だからこそ黙って流してきた。でも最近、その“優しさ”が自分の気力を奪っている気がする。本当は、心の中では誰かにわかってほしいと思っているくせに。優しさという名の仮面を被ったまま、今日も誰にも気づかれずに日が暮れる。

「じゃあ代わりにやってみます?」って言えたら楽なのに

思わず言いたくなるときがある。「じゃあ、代わりにやってみます?」って。だけどそんなことは言えない。相手が悪いわけじゃない。きっと私も、他人の仕事をそんなふうに軽く見てしまったことがある。だからこそ、黙ってしまう。

本音は言えない。言ったところで通じない

言葉にしたところで、それが相手の心にどう届くかはわからない。むしろ「面倒くさい人だな」と思われるだけかもしれない。そう思うと、最初から黙っていた方がいいと結論づけてしまう。そして、何も変わらない日々がまた続いていく。

一人きりの現場に、愚痴をこぼせる相手はいない

事務員にさえ、本音を見せられない。彼女にまで気を遣わせたくないから。気づけば、愚痴の一つすら誰にも言えないまま、夜が来る。独身の気楽さなんて幻想だ。誰にも話せない時間が積もっていくだけの現実がある。

それでも今日も机に向かう理由

それでも、やっぱり仕事は嫌いじゃない。苦しいし、しんどい。でも、誰かの役に立てたと実感する瞬間がある。それがある限り、なんとかやっていける。笑ってごまかした日も、結局はまた明日も仕事をするのだ。

地味で報われなくても、誰かの役に立てる実感がある

登記が無事に終わり、「助かりました」と笑顔で言ってもらえるとき、やっていてよかったと思える。その一言で、今日一日の疲れが少し和らぐ。誰かの人生の節目に関われるこの仕事は、やっぱり誇らしい。そう思えるときだけは、自分を少し認められる。

同じように頑張ってるあなたに、そっと伝えたいこと

もしかしたら、あなたも「楽でいいですね」と言われてモヤモヤしているかもしれない。そんなときは、私のように笑ってごまかしてもいい。でも、心の中ではちゃんとわかってるはず。あなたは、ちゃんと頑張ってる。誰にも言われなくても、自分だけは知っている。それで、十分なんだと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。