ふとした瞬間に襲ってくる空しさ
朝から晩まで書類に向き合い、登記を仕上げ、郵便局へ走る。それでも帰り道、コンビニの袋をぶら下げながらふと思う。「今日、自分の仕事って誰かの役に立ったのかな？」と。司法書士という職業は、社会的には重要な役割を果たしているとされている。でも実際に日々の業務の中で、それを肌で感じる機会は多くない。感謝されるどころか、何かあると真っ先にクレームが来る。そんな日が続くと、だんだんと心がすり減ってくる。役に立っていないとは思わないけれど、「実感が持てない」というのが本音だ。
登記が終わっても感謝の言葉はない
不動産の登記が無事終わったとき、依頼者から「ありがとうございました」と言われることもあれば、何も言われずにサラッと終わることもある。むしろ、「これだけかかったのか」「思ってたより高いね」と、費用の話だけで終わることもある。こちらもビジネスとしてやっているので、料金に納得いかない気持ちは理解できる。でも、感謝の一言があるとないとでは、心の疲れ方が違う。人間は機械じゃない。どこかで「報われている」と感じたいのだ。
必要な仕事だけど評価されにくい
司法書士の仕事って、基本的には「トラブルが起きないようにする」ためのものだ。だからこそ、うまくいって当たり前、何か起きれば責任を問われるという構造になっている。これは正直、精神的にしんどい。例えるなら、目立たないけれどチームの守備を支えるキャッチャーのような存在だ。ミスがなければ誰も気にしない。でも、ひとたびエラーをすれば非難される。そんなポジションで働いていることに、時々やりきれなさを感じてしまう。
誰でもできると思われているのかもしれない
「パソコンとプリンターがあれば自分でもできるんじゃないの？」そんな風に言われたことがある。登記の手続きにかかる労力や、法的な知識の積み重ね、慎重な確認作業のすべてを見ようともせず、そんな一言で片付けられると、なんだか自分の存在が否定されたような気持ちになる。司法書士の仕事は見えにくい。でも、だからといって軽んじられていいわけじゃない。誰かの大事な手続きを支えているという誇りが、揺らいでしまう瞬間だ。
日々のルーティンに埋もれていく自分
朝出勤して、郵便物を確認して、メールに返信して、登記申請書を作成して……同じような作業の繰り返しに、ふと「これ、いつまで続くんだろう」と思ってしまうことがある。特に感情が動かないまま終わる日が続くと、仕事に対する意味が見えにくくなってしまう。自分は誰かの役に立っているはずなんだけど、それがよくわからなくなってしまうのだ。
忙しいのに心は満たされない
不思議なことに、忙しければ忙しいほど、心が空っぽになっていく感じがする。やることは山ほどあるのに、充実感は薄い。それはたぶん、「こなしているだけ」になっているからだ。「ありがとう」や「助かりました」という言葉があれば、たった一つの仕事でも満たされることがある。でも、そういう言葉がなければ、どんなに数をこなしても、虚しさが残ってしまう。
数字にも記録にも残らない働き方
営業職のように、成果が数字で見えるわけでもない。飲食業のように、お客さんの笑顔が見えるわけでもない。司法書士の仕事は、あくまで“書類の世界”だ。法務局に提出して、完了通知が届いて、はい終わり。たしかに、社会には必要な仕事かもしれない。でも、それを“自分がやった”という証拠は、どこにも残らない。ただのルーティンの一部として消えていく。そんな気がして、寂しくなる。
誰のためにやっているのか見えなくなるとき
人と関わる仕事のはずなのに、顔の見えない依頼者とのやり取りが増えると、自分のしていることがどこにつながっているのか見失いがちになる。登記情報も、書類の送付も、メールのやり取りも、どれも人の暮らしや生活に直結しているはずなのに、その手応えを感じられない。画面の向こうに誰かがいるのはわかっていても、それが“誰”なのか、実感としてわかないのだ。
書類に向き合う時間が長すぎて人の顔が見えない
画面に向かってキーボードを叩き、登記簿をにらみ、ミスがないかを確認する。そうしているうちに、一日が終わる。依頼者とは電話一本、もしくは郵送だけのやりとり。直接顔を合わせる機会が減った今、なおさら人とのつながりを感じにくくなった。人の人生の節目に関わっている仕事のはずなのに、自分の存在が“事務処理の一部”みたいに感じられてしまうのは、やっぱりつらい。
パソコンと登記簿の間で生きている感覚
なんだか、自分は書類の世界で生きているだけの存在になってしまったような気がする。パソコンを開いては法務局のサイトを確認し、登記簿とにらめっこをして過ごす毎日。そこに人の感情はほとんどなく、あるのは正確さと迅速さだけ。必要とされていることはわかる。でも、それが“自分”でなくてもいいんじゃないかという不安が、ふと湧いてくる。
電話の声だけがかすかな人間関係
たまに依頼者と電話で話す時間が、妙にありがたく感じることがある。「あ、やっぱり向こうには人がいるんだな」と。世間話ができるほどの余裕はないけれど、それでも少しでも相手の温度が感じられると、それだけで救われる。不思議なもので、そういう日には仕事も少し軽く感じるのだ。
事務員にも伝わらない「頑張っている自分」
一人で事務所を回していると、誰かに自分の頑張りを見てもらうことも少ない。事務員さんがいるとはいえ、任せる仕事は限られているし、こちらが抱えているプレッシャーまではなかなか伝わらない。むしろ、余裕がなくてピリピリしていることを責められてしまうこともある。誰かに「よくやってるね」と言われたいだけなのに、それすら難しいのが現実だ。
労いの言葉よりも先にミスの指摘がくる
「昨日の申請、ファイル名が違ってましたよ」そんな一言から一日が始まると、それだけでどっと疲れてしまう。ミスはちゃんと直さなきゃいけない。でも、少しくらい「お疲れ様です」と言ってからでもいいんじゃないかと思う。小さな言葉一つで、気持ちは大きく変わるのに、それがなかなかもらえないというのが、ひとり事務所のつらさかもしれない。
孤独感と責任感のはざまで揺れる日々
「自分がやらなきゃ」という思いと、「自分ひとりで抱えきれない」という現実。その間で揺れながら、毎日をなんとか回している。元野球部だったころは、仲間と励まし合って乗り越えられた。でも今は、マウンドに一人で立っている気分だ。責任も結果も全部自分。そんな日々が、時々、重たく感じるのだ。
