書き出しの一文が浮かばなかった朝
机に向かったのに、何も書けない朝がある。パソコンを立ち上げてもメールチェックすら手がつかない日だ。そんなある朝、「未来の自分に手紙でも書いてみるか」と思い立った。冗談のつもりだったけど、意外とその思いつきに救われた。誰かに話すほどでもない、でも抱えきれない思いが自分の中に溜まっていたんだと、便せんを前にして初めて気づいた。書くことがなくてペンが止まるんじゃない、書きたいことがありすぎて、どれから書けばいいかわからなかったんだ。
手紙を書こうと思ったのはなぜか
きっかけは、本当にどうでもいい会話だった。コンビニのレジで「今日も暑いですね」と言ったら、「もう7月ですもんね」と笑顔で返された。その笑顔に、なんだか泣きたくなった。別に嫌なことがあったわけじゃない。ただ、その一言で「俺、なんのために働いてるんだろう」と思ってしまった。家に帰って冷蔵庫を開けて、缶ビールを手にして、ふと手紙を書いてみたくなった。未来の自分に、今の自分の正直な声を残しておきたくなった。
「もう限界かも」と思った出来事
ある日、依頼人から「先生に頼んでよかったです」と頭を下げられた。でもその言葉が重荷に感じた。「俺が頑張らなきゃいけないんだな」と思うと、急に呼吸が浅くなる。実はその前日、事務員が体調不良で休み、すべて一人で対応していた。電話も書類も、誰にも頼れない。終わってみれば何とかなったけど、夜には鼻血が出た。疲れだろう。未来の自分に、こんなことがあったと伝えておきたいと思った。
誰にも話せない疲れと孤独
「大丈夫?」と誰かに聞いてほしい。でも、聞かれると泣いてしまいそうで怖いから、自分からは誰にも言えない。仲間もいない。話し相手もいない。野球部の仲間と久々にLINEしたが、みんな家庭を持ち、充実した顔をしていた。こちらは、深夜のコンビニ弁当と書類の山。「司法書士って、人の人生に関わる大事な仕事だ」って言われても、孤独の重さに押し潰されそうな日もあるんだよと、未来の自分に正直に伝えておきたかった。
便せんに向かう手が止まらなかった
書き始めたら、意外と止まらなかった。最初は数行のつもりだったのに、3ページにわたって書いていた。書けば書くほど、言葉があふれてくる。自分の心がこんなにも言いたいことだらけだったなんて、正直驚いた。日々、誰かのために丁寧に書類を仕上げているくせに、自分のこととなると全く無頓着だったんだなと思った。文字にしてようやく、自分の気持ちに気づけた。
今の自分を正直に書いてみる
「今日は朝からだるかった」「昼に食べたカップ麺がしょっぱすぎた」「依頼人からの電話に出るのが怖かった」そんなことも全部書いた。仕事のことも、恋愛のことも、家族のことも。誰にも見せない前提だから、正直になれた。何もかっこつける必要がない。未来の自分なら、きっとわかってくれると思った。うまくいかない日々が続くけど、それでも踏ん張ってる今の自分を、未来の自分には誇らしく思っていてほしいと思った。
苦しさと優しさが混じる文章
書いた内容を読み返して、自分でも驚いた。「こんなに優しかったっけ?」と思うような言葉が、ところどころにあった。「今日はしんどかったけど、明日は少しマシだといいな」とか「たまには頑張らなくてもいいと思う」とか。人に向けた言葉じゃなく、自分に向けた言葉ってこんなに優しくなれるんだなと感じた。いつも人には気を使っているつもりだったけど、自分にはずいぶん冷たかった気がする。
未来の自分へ届けたいメッセージ
書いた手紙の最後に、こんな一文を添えた。「生きてるだけで偉い。よくやってる。」これは、未来の自分への励ましであり、今の自分へのエールでもある。司法書士として毎日書類と向き合い、人と向き合い、責任を背負いながら過ごしていると、自分の存在がどこかに置き去りになってしまう。そんな日々の中で、自分自身を忘れないためにも、未来の自分へのメッセージが必要だった。
「頑張ってるか?」って聞いてみた
手紙の中で一番書きたかったのは、「頑張ってるか?」という問いだった。過去の自分からそんなふうに声をかけられたら、どんな気持ちになるだろう。きっと、「うん、なんとかやってるよ」と答えるんだろうな。そう思うと少し安心する。未来の自分も、今と同じように悩みながらでも前に進んでいてくれたらいい。そうじゃなくても、また一通書けばいい。手紙は、自分へのバトンだ。
変わっていないかもしれないけれど
正直、10年後の自分が大きく変わっている気はしない。たぶん、相変わらず独身かもしれないし、事務員と二人でバタバタ仕事してるかもしれない。でもそれでもいい。変わらない自分を責めないでいてくれたらいい。あのとき手紙を書いた自分は、そんな未来でも受け入れる覚悟をしていたんだ。理想じゃない現実でも、自分が納得しているなら、それでいい。
自分にしかわからない戦いのこと
誰にだって「自分だけの戦い」があると思う。表には見えないけど、歯を食いしばって毎日を生きている。司法書士の仕事も、周りからはわからないストレスや責任がある。手紙は、その「見えない戦い」を言葉にすることで、自分を労う手段になる。自分の戦いは、自分だけのものだ。でも、その戦いを言葉にすることで、未来の自分が今の自分に感謝できるかもしれない。
もし結婚してたらどうしてるかな
ちょっとだけ、夢も書いた。もし、結婚していたらどうしてるかなって。奥さんと一緒に夕飯を作ってるだろうか。子どもがいたら、野球を教えてるかもしれない。でも、今は一人だ。それはそれで悪くない。夢が叶わなくても、希望があるだけで少し楽になる。未来の自分が笑っていてくれたら、それだけで十分だ。
独身の今だから書けること
独身の今だからこそ、書けることがある。「一人って、案外自由で楽しい時もある」とか「誰にも気を使わずに寝れるって最高だな」とか。孤独は確かに寂しいけど、自由をくれる側面もある。未来の自分がもし誰かと一緒にいたら、きっとこの自由の価値も知っているはず。だから、今この瞬間の気持ちを忘れずにいてほしいと思う。
誰かと分かち合える日の想像
ふとした時に、「誰かにこの手紙を読んでもらいたいな」と思った。誰かと過ごす時間、分かち合う日々、そういう未来があるなら、きっと手紙がその橋渡しになる。自分の気持ちを残しておくことで、未来の自分だけじゃなく、未来の誰かと気持ちをつなげることができる気がした。言葉は、時間も人も超えるんだなと感じた瞬間だった。
手紙を書いたあとの気持ちの変化
書き終えたあと、少し泣いた。でも、それは悲しみの涙じゃなかった。解放されたような、不思議な感覚だった。頭の中が少し軽くなり、「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えた。手紙には不思議な力がある。言葉にすることで、心の中が整理されていく。司法書士として書類に向き合う日々だけど、自分自身に向き合う書類も必要なのかもしれない。
心の整理という副産物
手紙を書くという行為は、まさに心の整理だった。普段、書類の中では感情を排除しているからこそ、感情を素直に綴るこの行為がとても新鮮だった。心の中にたまっていた澱(おり)を、少しずつ言葉にしていくことで、気持ちが整っていくのが分かった。まるで部屋の掃除みたいに、気づいたら心が少しすっきりしていた。
感情を言葉にすることで軽くなる
不安、焦り、寂しさ、怒り。どれも書いていい。どれも書いたら、少しだけ軽くなる。誰にも読まれないと分かっているからこそ、心の奥底まで掘り下げていける。司法書士の仕事では「事実」がすべてだけど、自分の気持ちには「感情」もあっていい。その感情を認めてあげることで、自分自身が少し楽になる。
「仕事を辞めたい」が少し和らいだ
実は、書き始める前は「もう辞めようかな」と何度も思っていた。疲れたし、報われないし、誰にも褒められないし。だけど、手紙を書いてみたら、「もう少しだけやってみよう」という気持ちが生まれた。逃げたくなる気持ちは正直だ。でも、その気持ちを吐き出したら、少し冷静になれた。手紙を書くことで、自分と対話ができた気がする。
また書いてみようと思えた理由
正直、手紙を書いてもすべてが解決するわけじゃない。でも、自分の声を聞いてあげられたという実感が、今の自分を少し強くしてくれた。だからまた、時間があるときに手紙を書いてみようと思う。未来の自分が、迷った時や落ち込んだ時に読み返せるように。自分だけの記録、自分だけの励まし。それがあるだけで、孤独は少し和らぐ。
手紙は未来の自分への日記
誰かに見せる日記じゃなく、自分だけに向けた言葉。それが手紙のよさだと思う。何年か後に読み返して、「こんなこと考えてたんだな」と笑えるかもしれない。あるいは、「このときの自分、よく頑張ってたな」と涙するかもしれない。それでもいい。未来の自分と今の自分をつなぐ手紙。それが、これからも生きていくうえでの力になると信じたい。
「あの日」があったから今があると信じたい
未来の自分がもし、今より少しでも前に進んでいるなら、それはきっとこの手紙を書いた「あの日」のおかげだと思いたい。あの日、自分と向き合ったからこそ、今日がある。そんなふうに、過去の自分に感謝できる未来が来たらいいなと思う。だから今日も、便せんを一枚取り出してみる。何も書けなくても、それでいい。始めることに意味がある。