“それだけでいいんで”に潜む地雷――司法書士が何度も騙された言葉

“それだけでいいんで”に潜む地雷――司法書士が何度も騙された言葉

“それだけでいいんで”に潜む地雷――司法書士が何度も騙された言葉

「それだけでいいんで」の甘い罠

「それだけでいいんで、お願いできますか?」この言葉、何度聞いたか分かりません。最初は軽い依頼に見えても、結局“それだけ”で済んだ試しがない。司法書士の仕事は、書類一枚、電話一本が大きな時間の浪費につながる職種です。「ついでに」「あと少しだけ」と言われるたびに、自分の業務がどんどん後ろ倒しになっていく。その“たった一言”の裏に、どれだけの地雷が埋まっていたか…。思い出すだけで胃が重くなります。

最初は小さなお願いだった

よくあるのが、登記の相談のあとに「この書類、郵送してもらえますか?それだけでいいんで」というパターン。郵送だけならと思って受けると、「ついでに法務局で受け取って」「役所にも提出しておいて」と頼みが膨らむ。最初の一歩を許したがために、雪だるま式に業務が増えていく。まるでサービス残業の自動更新。結局、自分の本来業務を夜に回す羽目になり、疲れだけが溜まっていくのです。

「ついでに…」の連鎖が始まる

「それだけでいいんで」と言う人に限って、「ついでに」と言い足してくるのが常です。「今度市役所に行かれることあります?ついでに…」「銀行にも提出があるんですが…」と、こちらの移動や時間を当然のように計算に入れてくる。善意で対応すると、こちらの善意を「無料オプション」と勘違いされる。「ついでに地獄」は一度踏み込むと抜け出せません。

依頼人は悪気がないのがまた厄介

依頼人は、基本的には悪気がありません。そこがまたややこしい。「これくらい普通でしょ?」という感覚があるから、こちらが断ると冷たい人間だと思われてしまう。中には「そんなこともやってくれないんですね」と言う人までいます。結果、こちらは“冷たくて無愛想な士業”の烙印を押される。自分の評価を守るために我慢して引き受ける、その繰り返しに疲れ果ててしまいます。

どこまでが“それだけ”なのかの境界線

一体どこまでが“それだけ”なんでしょうか。登記申請書の作成?添付書類のチェック?代理提出?「ちょっとお願い」の中には、数時間かかる業務が含まれていることも珍しくない。事前に「この業務は有料です」と伝えたとしても、「いや、そこまではお願いしてない」と言われる始末。曖昧な表現に逃げられるたび、契約や言葉の定義の大切さを実感します。

見積もり外の作業が常態化

「それだけで」は見積もりの外側から忍び寄ってきます。こちらが明示していない隙間に入り込んで、当然のように“サービス”化していく。最初のうちは「まぁ、いいか」と思って受けていたものの、毎回それが続くと、本来の業務時間が侵食されてしまう。まるで水漏れのように、知らぬ間に大きな損失になっているんです。

「親切心」と「利用される」は紙一重

司法書士という仕事は、信頼が命です。だからこそ、親切でいたいという気持ちは常にある。でも、その親切心が「この人は何でもやってくれる」と誤解されると、一気に負担に変わる。気づけば「断ったら関係が壊れる」と思い込んで、無理な依頼まで受け入れてしまう。境界線を引く勇気がなければ、親切心はただの“搾取される原因”にしかなりません。

仕事が増えるのはいつも“ついで”から

本業をしようとしているのに、電話一本で方向が変わる。「ついでにこれもお願い」と言われたら最後、自分のリズムが崩れ、昼ご飯も後回し。予定していた業務が押し出され、夜遅くまでかかってしまう。仕事が多いわけではないんです。「誰のために働いてるんだっけ?」と自問する日々に、ただただ疲弊するばかりです。

書類一枚のはずが一案件に膨張

「書類一枚だけなんですが…」という言葉にも注意が必要です。実際には、その一枚を作るために裏取りや添付書類の確認が必要で、結局1〜2時間かかる案件になることもあります。軽い口調に乗せられて「すぐできますよ」と引き受けると、自分が困ることになる。「手軽に済む仕事」なんて、実務ではまず存在しないのが現実です。

無料対応の積み重ねが自分の首を絞める

一つひとつは小さな時間ですが、それが積み重なると自分の自由時間や健康に直結してきます。休日も「これだけなら」と対応してしまった結果、休んだ気がしない。顧客満足を追求するあまり、自分の生活や健康を蔑ろにしているようでは、本末転倒。気づいたときには、燃え尽きる寸前でした。

断れない性格が災いする

自分でも分かっているんです。断ればいいだけの話。でも「感じ悪い人だと思われたくない」「依頼を切られるのが怖い」そんな気持ちが先に立ってしまって、口では「はい、できますよ」と言ってしまう。結局、誰のための仕事なのかが見えなくなって、自分を責めるばかりです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。