全部お任せしますの一言が怖い日もある

全部お任せしますの一言が怖い日もある

全部お任せしますの一言が怖い日もある

優しさに見えてプレッシャーな言葉

「先生に全部お任せします」――この言葉、一見すると信頼されているようでうれしい。だけど、実はこの一言がずしりと肩にのしかかってくる。司法書士の仕事は、ただ書類を作るだけじゃない。依頼人の人生に関わる重大な選択の場に立ち会うことも多い。そんなときに「全部任せます」と言われると、こちらとしては「本当にこれでいいのか?」と悩みが深まる。相手の望む未来を想像しながら、自分の判断に委ねられた責任の重さに、眠れない夜もあるのが正直なところだ。

「全部お任せします」が心に刺さる日

ある日、相続登記の相談に来た高齢の女性がいた。「先生に全部お任せしますから」と微笑みながら言われた瞬間、なんだか胸がざわついた。ご本人は信頼のつもりでも、私の中には「この人、本当にこの内容でいいと思ってるのか?」という疑念が湧く。形式的に処理することもできたけれど、何度も説明し直し、何がご本人にとって最善なのかを一緒に確認していった。時間も労力もかかる。でも、それをしないと後で後悔するのは、たぶん私だ。

判断を預けられる怖さとは

一番怖いのは、後から「そんなつもりじゃなかった」と言われることだ。とくに登記や契約の内容は専門的で複雑。だからこそ、こちらも説明は尽くすけれど、最後の決断は依頼人の意思であってほしい。判断を丸投げされると、まるで他人の人生を代理で選んでしまうような恐怖がある。司法書士としての責任感はもちろんあるが、あくまで私はサポート役。主体は依頼人であってほしいと、心の中で何度も思っている。

責任感が裏目に出る瞬間

「こっちがベストだと思ったから」と先回りした提案が、あとで裏目に出たこともある。例えば、不動産の持分割合。法的には問題なくても、感情的な摩擦を生むケースがある。相手の表情や沈黙の中に潜む本音を読み取れなかった自分を責める。たとえ丁寧に説明しても、「先生がそう言ったから」と言われれば、それまで。自分の正義感や気遣いが裏目に出ると、どうしようもない虚無感に襲われる。

誰かの人生を背負うということ

昔、野球部でキャプテンだった頃、仲間のエラーも最終的には自分の責任だと感じていた。でも、あの頃はチームで支え合えた。今は違う。たった一人の決断が、その人の未来を大きく変えてしまう。そんな場面に何度も立ち会ってきた。小さな選択が大きな結果を生む。それがわかっているからこそ、「任せます」の一言に、笑って応えられない自分がいる。

信頼なのか放棄なのか

「お任せします」と言われた時、信頼されていると受け取るべきか、それとも判断を放棄されているのか。その境界は非常に曖昧だ。私を信じてくださっている方もいる。それはありがたい。でも中には、自分では考えたくない、決断したくないからという理由で丸投げする人もいる。その見極めが難しく、毎回「この人の本音はどこにあるのか」と探りながら対応する。

丸投げに感じてしまう理由

どうしても「先生に任せるんで」という言葉に、違和感を覚えてしまうのは、もしかしたら私が不器用なだけかもしれない。でも、何も資料を持たず、相談内容すら曖昧なまま来られると、「こちらの判断でなんとかしてくれ」と言われているようで、やるせない気持ちになる。信頼というより、責任の押しつけに感じてしまう瞬間がある。

プロとして割り切れない葛藤

プロとして最善を尽くす。それは当たり前のこと。でも、相手が納得していないと感じながら進める仕事には、どこか不安が残る。「プロなんだからちゃんとして当然でしょ」と言われると、それまでかもしれないけれど、やっぱり人間だから、どこかで支えがほしい。割り切れたら楽かもしれないけど、それができない性格だから司法書士をやっているのかもしれない。

ミスしたときは全部こっちの責任

最悪なのは、「任せた結果が気に入らない」と言われること。文句を言うなら、せめて一緒に悩んでほしかったと、思ってしまう。信頼を裏切ったくないという気持ちで頑張ったのに、最後に「こんなはずじゃなかった」と言われたら、どこに気持ちを持っていけばいいのか分からなくなる。結局、ミスの責任も精神的な負担も全部こちらが背負うことになるのだ。

そんなに完璧じゃない司法書士の本音

たまに思う。私は何のためにこの仕事をしているのかと。誰かの役に立ちたい、そう思って司法書士になったはずなのに、気づけば「ミスをしないこと」が最優先になっている。責任は果たす。でも、心のどこかで「もっと依頼人と一緒に悩んで、一緒に決めたい」と思ってしまう。完璧じゃない。でも、だからこそ誠実でいたい。そんな矛盾を抱えながら、今日も机に向かっている。

一人で背負うには限界がある

正直なところ、今の働き方には限界を感じている。田舎の事務所で、事務員さん一人とやっているから、全部の責任が自分にくる。忙しいときは電話を取りながら書類も作って、依頼人の話も聞いて、とにかくマルチタスク。そんな中で「全部任せます」と言われると、少しだけ心が折れそうになる。分担できない責任が積み重なると、ふとした瞬間に爆発しそうになる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓