電子証明書の有効期限が切れていて提出できなかった日のこと

電子証明書の有効期限が切れていて提出できなかった日のこと

何気ない朝に待っていた落とし穴

その日は特に予定が立て込んでいたわけでもなく、少し余裕があるくらいのスケジュールだった。こういう日に限って、油断が生まれる。朝のコーヒーを一口すすりながら、パソコンを立ち上げ、何件かのオンライン申請を処理しようとしていた。いつも通りの業務ルーティン、何の問題もないと思っていた。ところが、いつもと違う表示が目に飛び込んできた。

普段通りに業務を始めたつもりだった

普段の私は「何が起きても動じない」を自負している。田舎の司法書士というのは、頼れる人が少ない分、自分の足で立つしかない。だからこそ、ミスはしないように日々チェックも怠らないつもりだった。しかしこの日は、電子証明書の有効期限が切れていた。たったそれだけのことで、提出しようとしていた登記が出せなかった。画面に「期限切れ」という表示を見た瞬間、全身の血がサッと引いた。

いつも通りが通用しなかった瞬間

「おかしいな」と思って数回試してみたが、エラーは変わらない。急いでマニュアルを確認し、更新手順を調べるが、その手続き自体にも時間がかかる。目の前にある仕事は迫ってくるのに、提出できない。焦りだけが増していく。まるでバッターボックスに立っているのにバットを忘れてきたような感覚だった。かつて野球部だった私としては、この例えがしっくりくる。試合に出る準備はしてきたのに、肝心の道具がない。そんな情けなさだった。

電子証明書という落とし穴

便利になった分、見落としやすくなった。それが電子証明書という存在だ。紙の時代なら、ハンコが薄いとか印鑑証明の期限切れとか、見た目に異常があった。ところがデジタル化された証明書は、気を抜くとすぐ期限が切れる。それに気づけなかった自分が一番の問題なのは分かっている。だけど、「見落とし」というのは本当に怖い。

更新期限の通知を見逃していた理由

数ヶ月前に通知は来ていたはずだ。メールボックスをさかのぼると、確かにそれらしき案内が届いていた。しかし、他の業務に追われていた私は、「あとでやろう」と思ったきり忘れていた。タスク管理アプリにメモしていたような気もするが、埋もれてしまったのだろう。事務員さんが気づいてくれたら、という期待も心のどこかにあった。でも、それも甘えだった。

忙しさにかまけたツケ

日々の業務に追われていると、目先のことばかりに集中してしまう。本来なら定期的にチェックすべき項目が、どんどん後回しになる。月末月初の処理や、不動産業者からの急ぎの依頼、役所とのやりとり…。言い訳を挙げればキリがない。けれど、どれも結局は「やっていなかった」に過ぎない。忙しいことと怠ったことは、別問題なのだ。

事務員さんも気づけなかった

うちの事務員さんは本当によく働いてくれる。文句も言わず、黙々とやってくれている。でも、電子証明書の更新は私の責任だ。彼女に「そこまで求めるのは酷だろう」と思いつつも、正直ちょっとだけ「なんで気づいてくれなかったんだろう」という思いもよぎった。これはもう、完全に自分の甘さ。でも、人間って弱い。誰かのせいにしたくなるものだ。

提出できなかったときの冷や汗

結局その日のうちに登記の提出はできなかった。お客様には、正直に事情を説明した。「電子証明書の更新ができておらず、今日中の提出ができません」と。内心は土下座したいくらいだった。けれど、お客様は「あ、そうなんですね。じゃあ明日で大丈夫ですよ」とあっさり言ってくれた。その優しさが、逆に胸に刺さった。

お客様にかけた迷惑と自責の念

もしかしたらその登記は、他の書類と一緒にまとめて処理する予定だったのかもしれない。もしかしたら、提出日の関係で税金や手数料に影響が出るかもしれない。そんなことを考えて、眠れなかった夜だった。何か重大な損害にはつながらなかったけど、それでも「信用」という意味で、自分の中に大きなダメージが残った。

怒られなかったのが余計にこたえた

怒られた方がマシだったかもしれない。人は期待していない相手には怒らない。逆に言えば、「この人はこういうミスをすることがある」と思われたら、何も言われなくなるのだ。それが怖い。期待値が下がることが一番の恐怖だ。私は司法書士という看板を掲げて仕事をしている以上、信頼を損なうことが一番怖いのだ。

過去の自分を殴りたい瞬間

冷静になって振り返れば、「あのとき更新していればよかった」「あのときチェックしていれば」と後悔だらけだ。でも、タイムマシンはない。せめてこれを教訓にして、未来の自分が同じことを繰り返さないようにするしかない。自分の失敗から学ばなければ、ただの無駄な失敗になる。意味を持たせるために、今日こうして文章にしている。

たった数クリックの手間を惜しんだ代償

更新作業自体は、実はものの数分で済んだ。それを怠ったばかりに、信用や自己評価に深い傷をつけてしまった。司法書士の仕事って、こういう「たったこれだけ」で成り立っている。逆に言えば、こういう小さな積み重ねが信頼を築くのだ。その重みを、改めて痛感した一日だった。

その日一日、仕事が手につかなかった

ミスした自分に落ち込み、何もかもがうまくいかない気がして、結局その日は生産性がゼロに近かった。人と会うのも億劫で、電話を取るのもつらかった。「なんで俺はこんなこともできなかったんだろう」と繰り返すだけの時間。誰にも言えず、独りで処理するしかない。地方の小さな事務所というのは、そういう孤独な場所でもある。

最後に伝えたいこと

こういった失敗は、誰にでも起こり得る。けれど、それをどう受け止めてどう次につなげるかが問われているのだと思う。私はもう一度、初心に立ち返って、目の前の業務を「当たり前」と思わず丁寧に向き合いたい。もしこの記事を読んでくださっている同業者の方がいたら、ぜひご自分の証明書の有効期限を今すぐ確認してみてほしい。誰かのミスが、誰かの備えになるなら、書いた意味があると思うから。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。