法務局の帰り道に浮かぶこと
毎日のように通う法務局への道のり
地方で司法書士をしていると、法務局はもう第二の職場みたいなもので、週に何度も足を運ぶことになる。とはいえ、その道のりが気分の良いものかといえば、そうでもない。車を走らせながら、ふと溜息が漏れる。依頼者の申請がうまくいくか、補正が返ってこないか、書類にミスはなかったか。頭の中では常に確認作業がぐるぐるしていて、運転に集中しろと自分に言い聞かせながらも、気が休まらない。
ルーティンだけど気が重い
法務局へ行くこと自体は仕事のルーティンで、別に珍しいことではない。でも、毎回どこかで緊張している自分がいる。完璧に整えたつもりの書類でも、なにかしら指摘が入るんじゃないかという不安がつきまとう。新人の頃は補正に慣れていなくて、一件戻ってくるたびに胃が痛くなった。今では多少の補正なら「はいはい」と受け流せるようにはなったけど、やっぱり完全に慣れるということはない。
駐車場が空いているかで一日が左右される
法務局の駐車場、あれがまた狭い。数台分しかなくて、時間帯によっては満車のことも多い。朝イチで行って停められた日はちょっと嬉しくなる。逆に空いてなくてグルグル周辺を回る羽目になると、妙に腹が立つ。「なんで俺がこんなことでイライラしてんだ」と思いながらも、貴重な時間が削られていく焦りが余計に気持ちを乱す。些細なことだけど、こういう積み重ねが仕事のストレスになるんだよな。
窓口対応のちょっとした一言に傷つく日
法務局の職員さんも忙しいのはわかってる。でも、こちらが丁寧に出しているつもりの書類に対して、「あーこれ、またですね」とか、ちょっとした嫌味っぽい言い方をされると、心の中でガクッとくる。こっちは必死なんだよ、と言いたくなるけど言えない。元野球部の先輩に言われた「黙って耐えろ」を思い出してグッと飲み込むけど、事務所に戻るころにはその一言がぐるぐる頭の中を回ってる。
帰り道でよく考えること
用事を終えて車に戻る。エンジンをかけても、すぐには発進しない。しばらくぼーっとしてから、ようやくアクセルを踏む。帰り道は、不思議といろんなことを考える時間になる。仕事のこと、人生のこと、自分の将来のこと。道中にある川沿いの道を走っていると、気持ちが少しだけ柔らかくなる瞬間もある。でもその分、現実がぐっと迫ってくる。
この仕事、いつまで続けられるのか
正直なところ、この仕事を定年まで続けられるのかとふと不安になる日がある。登記の制度はどんどん変わっていくし、電子化も進んでいる。最近ではAIの話まで出てきていて、「これ、いずれはAIに取って代わられるんじゃ…」なんて冗談とも本気ともつかない不安を感じる。自分のスキルがいつまで通用するのか、その焦燥感が静かに、でも確実に心に広がってくる。
もし違う道を選んでいたらどうだったか
大学時代、他にもいろんな選択肢があったはずだ。でも「手に職を」と思って司法書士を目指した。それはそれで間違ってはいなかったと思う。でももし会社員になっていたら?サラリーマンで週末に趣味を楽しむ生活もあったのかも、と妄想する。結婚して子どもがいて、休日は草野球をやっていたかもしれない。そう考えると、今の自分の孤独さが余計に身に染みる。妄想だけどね。
独り言が多くなる午後の時間
法務局から戻って事務所に入ると、静まり返った空間が待っている。事務員さんは仕事に集中していて、こちらもなんとなく話しかけづらい。電話のベルが鳴っていない時間は、独り言がぽつぽつと出る。自分でも「あ、また言ってる」と思うけど止められない。独身のせいか、人としゃべらない時間が続くと、言葉が勝手に漏れてくるらしい。
事務所に戻っても気は晴れず
気持ちを切り替えて業務に集中しようとしても、法務局での出来事が尾を引いてなかなかうまくいかない。あの職員の言い方、あの依頼者の態度、そういうのがずっと心に残って、集中できない。「こんなんでいいのか?」と自問自答しているうちに、どんどん時間が過ぎていく。結局、業務が遅れて、また自己嫌悪。悪循環だ。
待っているのは山積みの案件
机の上には未処理の書類が山積みになっている。どれも期限が迫っていて、後回しにできない。優先順位をつけようとするけれど、どれも重要で頭が混乱する。クライアントの信頼を裏切らないように、慎重に進めなければならない。だけど、「もう一人誰かいれば…」という愚痴が思わず漏れる。雇う余裕はないし、責任を他人に任せる勇気もない。
事務員さんには弱音を見せられない
事務員さんはとても真面目で、日々の業務をきっちりこなしてくれている。その姿を見るたびに、自分が弱音を吐くわけにはいかないなと感じる。だけど、誰かに「もう無理」と言いたい日もある。話し相手がいないって、本当に孤独だ。仕事の悩みを共有できる人がいるだけで、だいぶ違うと思う。でも、自分が選んだ道だからと、また飲み込んでしまう。
ふと立ち止まって見上げた空に思う
帰り道、事務所に着く直前で空を見上げることがある。天気がいい日は特にそうだ。雲の流れを眺めながら、「まあ今日もなんとか乗り切ったな」とぼんやり考える。誰に褒められるでもないし、報われた実感も薄いけど、それでもまた明日は来る。それならもう少し、ゆるくでも頑張っていくしかないのかもしれない。
しんどいけど嫌いじゃないこの仕事
文句ばっかり言ってるようだけど、それでもこの仕事を辞めたいとは思っていない。大変だけど、やりがいはある。依頼者に「助かりました」と言われたときは、本当に報われた気持ちになる。その一言のために頑張っている、と言っても過言ではない。たぶん、司法書士という仕事が性に合ってるんだと思う。根っからの野球部体質なのか、「耐えてなんぼ」と思ってしまう節がある。
依頼者の安心した顔に救われる瞬間
登記完了の連絡をしたとき、「ありがとうございます、本当に助かりました」と言われることがある。電話越しでも、その安堵が伝わってくる瞬間。ああ、この人の役に立てたんだなと実感する。そんなとき、自分の存在価値をほんの少しだけ信じられる。そういう一瞬があるから、しんどくても続けていけるんだと思う。
頑張ってる司法書士仲間の存在
SNSでつながっている司法書士仲間が、日々の業務のことを投稿しているのを見ると、妙に励まされる。「あ、みんなも大変なんだ」と思えるだけで、少し心が軽くなる。直接会うことは少ないけれど、同じ土俵で戦ってる仲間がいると感じられるのはありがたい。ひとりじゃないって、やっぱり大事なことなんだと、法務局の帰り道に思う。