ホッチキスが唯一の返事をくれる夜

ホッチキスが唯一の返事をくれる夜

ホッチキスが唯一の返事をくれる夜

ホッチキスが返事をくれた夜に思うこと

「カチン」
静まり返った部屋に、ホッチキスの金属音が響く。夜の十時を過ぎても、暖房の効いた六畳一間には人の気配どころか、猫の通り道すらない。

沈黙の部屋に響くカチリという音

登記申請書類の製本作業。一発で決まると気分がいい。…が、それだけだ。あとは沈黙との勝負。
独り言を呟いてみても、返ってくるのはホッチキスの「カチッ」だけ。

喋らない日があると人間はどうなるのか

事務所で誰とも会話がない日もある。郵送、FAX、電話不通。しゃべらずに過ごした一日は、妙に疲れる。
元野球部の俺が、今や声を出すのはストレッチ時の「うーん」だけ。

音に話しかけてしまう習性

「おう、今日も元気か?」
ホッチキスに問いかけてから我に返る。「…やべぇな俺」
まるでサザエさんのタマと会話してる波平状態。返事はない。だけど、ちょっと救われる。

孤独と文房具の奇妙な関係

人はいつから文房具に心を許すようになるのか。
たぶん、寂しさの許容量を超えたときだ。

ボールペンよりホッチキスの方がマシな理由

ボールペンは気まぐれだ。書けなくなることもある。でもホッチキスは裏切らない。
カチッという音で「了解だ」とでも言ってくれる気がしてしまう。

一人暮らしの笑える日常と悲しさの境界線

冷蔵庫の中はコンビニのサラダと豆腐、あとは賞味期限切れの納豆。
「なんか今日も平和だな」
そう思えるだけマシか。悲しいのか笑えるのか、もう自分でもわからん。

サトウさんには絶対に言えないこと

彼女は優秀だ。頭の回転も速いし、俺が言わんでも察する。だからこそ、この哀れな独り言ライフは知られたくない。

事務所ではそれなりにしゃべってる

「この登記、明日までにやっときますね」
「助かる」
会話といえばそれぐらい。ふたりとも仕事人間なのか、気が合ってるのか無口なだけか。

仕事の自分と家の自分の落差

昼は士業。夜は一人芝居。落差がありすぎて、最近は自分でもどれが本物かわからん。

サトウさんの観察眼と私の空回り

たまに妙な視線を感じる。「シンドウ先生、話し相手いなさそうだな」って顔をしている気がする。
「やれやれ、、、」
視線が刺さる。推理漫画の探偵ばりに心を読まれてる感じ。

会話の相手がいないという現実

LINEは既読スルー、アプリは通知なし。
俺の会話の履歴、一番上がヤマト運輸だった。あの配達員、妙に優しかったな。

自分の声を聞くのがいちばんつらい

録音した自分の声を聞くとガッカリする。
もっと渋くて落ち着いた声だと思ってたのに、意外と高くて覇気がない。

司法書士としての声と男としての声

士業としては信用第一。でも、男としての声は誰にも届かない。

依頼人の前では頼られる声で

「先生がいてくれて安心です」
そんな言葉をもらうと、こっちはプロのスイッチが入る。だけど、それは本当の自分じゃない。

電話のトーンを変える悲しき癖

電話に出るときの「はい、シンドウ司法書士事務所でございます」はもはや演技。
もともと演劇部のやつがやりそうな芸当を、俺は生活のために使ってる。

サザエさんの波平になりきる瞬間

「カツオ〜ッ!」って怒鳴るわけじゃないが、
「もうちょっとしっかりしろよ、自分…」
そう心でツッコミ入れてる自分がいる。

独り言がどんどん長くなる現象

最近は「よし…いや、でも…いや、やるか…」
そんな独り言を3ターンくらい繰り返すようになった。
誰か実況でもしてくれんかな。

一人芝居とセルフツッコミの境界線

一人で台本読んでるんじゃないかってくらい、会話のシミュレーションがうまくなってる。
ただ、相手が現実にいないだけ。

それでも今日も紙をとめる

誰にも気づかれない夜の作業。だけど、確かに一枚ずつ、前に進んでいる。

ホッチキスという相棒の重み

百円ショップで買ったやつだけど、毎日使ってると愛着がわく。
「今日も頼むぞ、相棒」
カチン。裏切らない。

壊れたときの喪失感が異常

以前バネが外れて動かなくなったとき、本気で買い替えるのをためらった。
まるで相棒が殉職したみたいな気分。

文房具と孤独はよく似ている

無口で役に立つが、こちらが壊れそうでも気づかない。
文房具も俺も、そういう存在かもしれないな。

やれやれとつぶやいて明日へ

ホッチキスを片付けて、ふぅと息をつく。
「やれやれ、、、今日も一日終わった」
誰もいない部屋で、俺はそうつぶやく。
そしてまた明日、紙と静寂に向き合う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓