最後のサインはV

最後のサインはV

朝の契約書と奇妙な署名

依頼人が残した違和感

午前9時半。古びた応接室で、スーツの男が震える手で署名した。
「これで全部ですか」と彼が確認すると、私は「はい、登記には問題ありません」と答えた。
だが書類を引き上げたとき、サインの最後に妙な“V”の文字が目に留まった。苗字の最後にはVなんてないはずだ。

Vの文字に込められた謎

署名欄の末尾に、明らかに装飾とは違う形でVが残されていた。
一瞬、ベースボールチームで使っていた勝利のサインを思い出す。
「昔のクセですかね?」と軽く流そうとしたが、依頼人は妙に顔をこわばらせた。

塩対応のサトウさんと忘れっぽい私

やれやれ、、、また書類の山

事務所に戻ると、机の上には既にファイルの山が積まれていた。
「その書類、朝イチでチェックって言いましたよね?」と、サトウさんの声が刺さる。
「やれやれ、、、」と呟いて席についたが、気になって仕方がなかった。あのVが。

サインの筆跡が語ること

私は過去の登記資料と照合を始めた。
驚いたことに、同一人物の以前の署名には、Vはまったく存在していなかった。
筆跡は同じでも、今回だけに現れたV。それは何かのメッセージなのかもしれない。

死の知らせと法務局からの連絡

登記が通らない理由

翌朝、法務局から電話があった。「申請者が昨日、死亡していた可能性があります」と。
私は耳を疑った。だって彼は私の目の前でサインしていた。
「ちょっと、サザエさん時空でもこんな展開ないですよ」と思わず口にした。

事実婚の影と名前のズレ

調査を進めると、依頼人には戸籍上の妻とは別に長年の内縁関係にあった女性がいた。
登記上の名義変更が複雑になっていたのはそのせいだった。
そして、問題の“V”は、彼女の下の名前「ヴィオラ」の頭文字だった。

不動産の謎とVの正体

遺言書にはないもう一つのサイン

依頼人の公正証書遺言には、その女性の名前は一切出てこなかった。
だが、依頼直前に書かれた私への手紙が見つかった。そこには、彼女に譲りたいと明記されていた。
ただし、正式な効力を持つものではなかった。

元恋人が握る真相

事務所に現れた彼女は、涙ながらに語った。
「彼は最後に、Vの文字だけでも残したかったんです。自分の意志を示すために」
それを聞いて、私は納得した。あのVは遺言以上に強い、感情のしるしだったのだ。

司法書士が導いた結末

サインに託されたメッセージ

私は、法務局と相談の上、準備中だった民事信託を応用して財産の一部を彼女に渡す方法を提示した。
完全な勝利とは言えないが、彼の意志に最も近い形だと思った。
それにしても、人の想いは一文字にまで宿るのだなと痛感した。

最後に輝くVと消えた動機

登記完了の通知が届いた日、私はそっと控えの書類を眺めた。
そこにはやはり“V”の文字が、寂しげに、それでも誇らしげに残っていた。
「やれやれ、、、司法書士ってのは、時に探偵よりよっぽどややこしいな」と独りごちた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓