封筒は配達されなかった
朝の書類と封筒一通
「納税通知が届かないって、どういうことですかね」 朝のコーヒーを飲みながら、俺は依頼人から預かった封筒を眺めていた。 消印があるにもかかわらず、封筒は開封されぬまま、きれいな状態で返ってきたのだ。
クライアントの不満と不信
「税金は払うつもりでしたよ。でも通知が来なかったら払えません」 依頼人はそう憤っていた。しかも延滞金まで請求されているとあっては、不満も当然だろう。 通知が来なかったのか、それとも届いたのに気づかなかったのか。真相は霧の中だった。
郵便局とのすれ違い
「確かに郵送しました」役所の職員は言う。 「配達記録は見当たりません」郵便局はそう答えた。 この二者の言い分の食い違いが、まるでサザエさんで波平とマスオが言い争っているようで、俺はこっそりため息をついた。
消えた封筒のタイムライン
発送日は確かに月初、配達予定日は翌日とされていた。 しかし、依頼人はその週ずっと家にいたという。 それなのに通知は届かず、ポストには何も残っていなかった。
サトウさんの冷静な分析
「封筒が届かなかったんじゃなくて、“届かせなかった”人がいるのかもしれませんね」 サトウさんは冷たく言い放った。 その目は、まるで怪盗キッドのように全体を俯瞰していた。
郵便受けの不在票とその裏
「不在票もなかったんですよね」 俺が呟くと、サトウさんは小さくうなずいた。 「不在票がないということは、配達員がそもそも配達をしていない可能性があります」
元野球部の勘が働く
「なんか、これ……昔の野球のトリックと似てる」 俺は高校時代の試合を思い出した。相手チームが送球ミスを装い、見えないところで走者を誘い出していた。 「外から見れば正常に見えるけど、裏では何かが動いてる感じだな」
やれやれ、、、と愚痴りつつ推理開始
「やれやれ、、、こういう細かい案件の方が神経使うな」 俺は机の上に広げた配達記録のコピーに目を通しながら、項垂れるように言った。 だが、記録の中にひとつだけおかしなことがあった。配達ルートに“存在しない建物番号”が記されていたのだ。
真犯人は隣人だった
封筒は、実は隣の家に誤配されていた。 隣人はそれを見て、単なる広告と勘違いしてゴミ箱へ。 後日、清掃員がその封筒を拾い上げ、不審に思い戻したのだった。
故意か過失か
「ポストが壊れていた?それが理由で誤配された?いや、それだけじゃないはずです」 俺は依頼人の家の郵便受けの写真を見ながら、呟いた。 配達員が別のルートを取った理由、それが“故意”なのか“過失”なのか、判断は難しい。
結末と示談の合意
最終的に、役所は延滞金を撤回し、通知の再発行を了承。 隣人も配達ミスに協力し、事なきを得た。 少しだけホッとした顔を見せた依頼人に、俺は納税の重要性を再度伝えた。
サトウさんの一言と後始末
「配達されなかったんじゃなくて、届けさせなかった。違い、わかりますよね?」 サトウさんは資料を閉じながら、静かにそう言った。 やっぱり彼女には敵わないな、と心の中で苦笑した俺だった。