今日もまた事務所に引きこもり

今日もまた事務所に引きこもり

今日もまた、朝からひとりの事務所

朝、通勤ラッシュを横目に車を走らせ、誰もいない事務所の鍵を開ける。その瞬間、「また今日も始まったな」と心の中でつぶやく。地方の司法書士という仕事柄、人と会う日もあれば一日中誰とも話さない日もある。最近は後者のほうが多い。玄関を開けても、空気がよどんでいるような静けさ。照明をつけて、PCの電源を入れて、気づけばコーヒーを飲む手だけが音を立てている。誰にも必要とされていないような気がして、ため息がひとつこぼれる。

開けても閉めても誰も来ない玄関

事務所の玄関に設置したチャイムが鳴ることは少ない。書類を届けに来た宅配業者ぐらいだ。ポストにはチラシ、チラシ、たまに光熱費の請求書。それを見て、あぁ今月もちゃんと稼がなきゃとプレッシャーだけは一人前に感じる。近所の犬が通るたびに、自動ドアが反応して「ピンポン」と鳴り、それすらちょっとしたイベントに思えてくる。人恋しいというより、自分の存在が誰にも気づかれていないことに、軽い絶望を覚える。

ポストに入っていたのはチラシだけ

チラシの束をそのままゴミ箱に突っ込む。ときどき「司法書士のくせに、こんなチラシばかり受け取ってるのか」と自嘲する。昔は名刺交換の山ができた日もあった。だが今は、ネットでのやり取りが中心で、訪問者などめったに来ない。手書きの手紙ですら届かなくなったこの時代、紙で届くのはもう広告か請求書ぐらいだ。

「もう少しで忙しくなる」って、いつの話?

「今は閑散期だから」「これから忙しくなるから」と自分に言い聞かせて数ヶ月。気がつけば、もう季節が変わっていた。「こんなに暇なのに、なぜこんなに疲れているんだろう」と思うこともある。忙しいと疲れるけど、暇でも心がすり減っていく。この矛盾が、じわじわと精神を侵食してくる。希望だけで机に向かうには、もう年を取りすぎた。

パソコンと書類だけが会話相手

事務所に響くのは、キーボードの音とプリンターの印刷音だけ。黙々と申請書類を作り、登記のチェックをして、ミスがないか何度も見直す。人と会話しない日は、話し方を忘れてしまいそうだ。ときどき、PCのモニターに映る自分の顔が無表情で怖くなる。こんな顔してたっけ?と不安になる。

登記情報とにらめっこする日々

登記情報提供サービスの画面ばかり見ていると、画面の文字が頭に入らなくなることがある。気を抜けば、間違いを見逃してしまう。チェックの目が曇ると、後処理が恐ろしい。お客さんの信頼を損ねるミスは致命的だ。だからこそ緊張感を持ち続ける。でも、その緊張は一日中張り詰めっぱなしで、終業後にはぐったりしてしまう。

ミスを恐れて慎重に…でも疲れる

司法書士の仕事は「正確さ」が命。たった一文字のミスで、法務局に突き返されることもある。だからこそ、何度も確認し、見直し、印刷し直す。だが、完璧を求めすぎると終わらない。そして、やっと完成したと思ったら、どっと疲れが押し寄せる。事務員さんに渡して「ありがとう」と言われることで、なんとか今日も報われる。

確認ばかりで前に進まない

一歩進んで二歩戻る。確認、再確認、そしてまた確認。それが日常になっている。効率よりも正確さが求められる仕事だからこそ、時間がかかる。だがその一方で、進捗が見えないことで焦りも生まれる。終わらないタスクが山のように積み上がり、先が見えないと感じることも少なくない。

事務員さんのありがたさを痛感する瞬間

唯一の救いは、隣のデスクでせっせと働く事務員さんの存在だ。言葉数は多くないけれど、彼女がいるだけで事務所に少しだけ温かみが生まれる。仕事の内容よりも「今日、元気そうだな」と思えることの方が嬉しい。愚痴を言える相手がいるって、ありがたい。

誰かがいるというだけで救われる

人の気配があると、静けさが少し和らぐ。独り言ではなく、返事がある会話。それだけで心が軽くなる。仕事の内容も、彼女と共有していれば確認がスムーズになる。小さな報告や相談が積み重なって、「今日も何とかやれたな」と思えるようになる。人と働くって、こういうことだったんだと再確認する。

それでも伝わらないこちらの不器用さ

でも、感謝の気持ちを伝えるのは難しい。言葉にすると、なんだかぎこちなくなってしまう。ちょっとした差し入れも、気を使わせるんじゃないかと考えてやめてしまう。優しくしたいのに、うまくできない自分に腹が立つ。そしてまた、黙って仕事に戻る。

昼ごはんを買いに行くのも億劫になる

昼時になると、外に出るかどうか迷う。コンビニに行くのもめんどうで、机に突っ伏して昼寝で済ませてしまう日もある。「外に出たら誰かに会うかも」と期待しながら、誰にも会わずに帰ってくることがほとんどだ。結局、空腹と孤独だけが残る。

コンビニのおにぎりと缶コーヒーが定番に

食事は「手間がかからない」が優先される。コンビニでおにぎり2つと缶コーヒー。それでだいたいの昼は済む。カップ麺のスープは胃にしみるが、なんだか物悲しい。食べながらスマホを見るのが唯一の娯楽になっていて、気づけば午後も無言のまま過ぎていく。

明日もたぶん、また引きこもる

そして今日が終わる。「お疲れさまでした」と事務員さんが帰ってから、また静寂が戻ってくる。誰にも必要とされていないような感覚が押し寄せる中、それでも書類を一枚提出できたことが、わずかな達成感になる。明日もまた事務所に引きこもる。でも、ほんの少しでも「やってよかった」と思える瞬間を見つけながら、自分を保っていくしかない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。