登記簿が語らぬ真実
朝一番の訪問者
朝の珈琲を淹れたばかりだった。扉をノックしたのは、スーツの肩に微かに埃をまとった中年の男だった。 「父の土地が、他人の名前になっているんです」 その一言で、静かな月曜日が不穏な色に染まり始めた。
古びた登記簿の謎
依頼を受けて法務局へ走った。閉ざされた書庫のような空間、古い登記事項証明書に記された名前は——依頼人の父ではなかった。 いや、それどころか、関係のない赤の他人。 「これ、仮装譲渡か?」口にした瞬間、胃のあたりに鈍い重みが生まれた。
サトウさんの冷静な推理
サトウさんは黙って資料に目を通し、パタリと閉じた。 「現地、見てきます。あと、地積測量図のコピー取っておきますね」 指示してないのに全部やってる。こっちは“やれやれ、、、”と頭をかきむしるしかない。
やれやれの始まり
境界トラブルは野球でいえばフェアかファウルか、ギリギリの判定だ。 だが今回は違った。測量図と現地がずれている、明確に。 しかも、ずれて得をしているのは——件の名義人。
記憶の中の名前
登記簿にある司法書士の名を見たとき、心の奥で何かが引っかかった。 「この名前、どこかで……」 20年前の研修で一度だけ酒を酌み交わした男だ。彼の癖は、妙に角ばった署名。今回のそれと一致していた。
境界線の向こうに
現場へ向かうと、隣地の境界杭が撤去されていた。代わりに新しい杭が——お手製のようなものが、打たれていた。 「DIYでやるもんじゃないんですよね、境界線」 サトウさんが静かに言った。口調は淡々としているのに、なぜか怖い。
名義変更の裏側
市役所で印鑑証明の履歴を調べると、該当期間の記録がごっそり抜けていた。 これはおかしい。 いや、これは“やってる”。確信に変わった。
消えた印鑑証明書
区役所の窓口で、裏帳簿的に残っていた申請記録を見せてもらう。 「この日付、やっぱり怪しいです」 サトウさんが印鑑カード番号を追いかけると、依頼人の叔父の名前が浮かび上がった。
法務局の証言
「当時、変な登記多かったんだよね」 昔の法務局職員が煙草の煙を吐きながらそう言った。 「似たような署名の申請、3件くらいあった」 名義書き換えビジネス。そう呼ぶにはあまりに稚拙で、だが悪質だった。
犯人は身近に
依頼人の叔父がかつて借金で土地を失いかけていたことが判明した。 その後、不審な登記のタイミングと一致。 「動機、機会、手段。全部あるじゃないか……」
サトウさんの一撃
「この委任状、筆跡が違いますね」 彼女が差し出したのは、依頼人の父が実際に書いた年賀状と、問題の委任状の比較。 筆跡鑑定の結果が一致せず、偽造が確定した。
やれやれの結末
事件は警察に引き渡され、偽造と詐欺の容疑で叔父が逮捕された。 「やれやれ、、、登記ってのは、ほんとに嘘つかないな」 事務所に戻ると、サトウさんが言った。「来週こそ、ちゃんと休んでくださいね」 それはたぶん、優しさ——たぶん。