登記所の静寂
法務局に舞い込んだ一通の手紙
窓口業務が落ち着いた午後、机の上に置かれた封筒に目が止まった。差出人は不明、宛名は達筆な毛筆で「司法書士シンドウ様」。封を切ると、中には「地下三階の記録を調べてほしい」とだけ書かれた手紙が入っていた。
封印された地下三階の噂
「地下三階なんてありましたっけ?」とサトウさんが眉一つ動かさずに尋ねる。実際、法務局の公式な案内図に地下三階の記載はない。ただ、昔から「封印された階」が存在すると噂だけは残っていた。
依頼人は話さない
怪しい相続登記の申出
その日の夕方、突然訪れた初老の男性が土地の相続登記を依頼してきた。だが、その土地は既に誰かが所有しているはずの場所だった。登記情報を調べても該当なし。存在するのに、記録がない。
サトウさんの鋭い違和感
「この地番、登記簿から消されてますね。というか……最初から存在しないように加工されてる」サトウさんがPCの画面を覗き込みながらそう呟いた。普通の登記なら、そんな消し方はありえない。
鍵は昭和の記録簿
電子化されなかった登記簿の存在
昭和中期以前の登記情報の一部は、まだ紙の台帳として保管されていると聞いたことがある。デジタル化されなかった記録たちが、法務局のどこかに残っているかもしれない。
職員が口をつぐむ理由
窓口の職員に尋ねても、どこかはぐらかされた。「そのような記録室は……現在は使用されておりません」と繰り返すだけ。その目は明らかに、何かを恐れていた。
地下へと続く階段
封鎖された扉の先に
倉庫室の奥に不自然な一枚の扉を見つけた。古びた表示板には「B3」とだけ書かれていた。錆びついた鍵を開けると、湿った空気と共に薄暗い階段が現れた。
古びたロッカーと一冊の台帳
地下三階の部屋は思ったより整然としていた。埃をかぶったロッカーの中から、一冊の分厚い台帳が出てきた。見出しには「昭和四十七年 特別管理記録」と書かれている。
記載ミスか改ざんか
筆跡と印影が語る真実
その台帳には、例の土地の登記記録が確かに存在していた。しかし、申請人の名前や日付が不自然に書き換えられた痕跡があった。しかも捺印は、旧司法官のものであった。
昭和四十七年の失踪事件
さらに読み進めると、当時の登記官がその年の冬に失踪していたことが記されていた。彼の最後の仕事がこの登記だったのだ。記録は彼の手書きで止まっていた。
サトウさんの推理
土地名義が語る複数の裏側
「これは誰かが土地を乗っ取るために、登記ごと存在をなかったことにした可能性がありますね」サトウさんの目は鋭い。「でも完全には消しきれなかった。だから地下三階に残った」
やれやれ司法書士の出番か
「やれやれ、、、」ぼくは思わず声に出してしまった。昭和の記録と現代の司法が繋がるなんて、まるでサザエさんのエンディングで波平が急に刑事になるような無茶な展開だ。
記録にない最後の登記
地下三階に隠された真の目的
依頼人の正体は、失踪した登記官の息子だった。父の無念を晴らすため、記録を掘り起こそうとしていたのだ。あの土地には、戦後密かに国から払い下げられた経緯があったという。
封印の先に見えた家族の因縁
結局、その土地の登記は再調査の上、法務局が訂正処理を行うことになった。依頼人は父の名誉を取り戻し、ぼくたちは地下三階の存在をそっと心にしまった。「次は地下四階かもしれませんね」と言うサトウさんに、ぼくは笑って返した。