「遅刻」常習犯のレッテル──言い訳じゃ済まされない現実
「司法書士ってきちんとしてそう」なんてよく言われるけど、そんな幻想を持たれるたびに心苦しくなる。現実は待ち合わせに遅れる確率がやたら高い。自覚はしている。仕事に追われる身としては、分刻みで動いているつもりでも、気づけば時間をすっ飛ばしてしまっている。言い訳じゃなく、事務所の電話が鳴る、書類の押印がまだ、法務局が思ったより混んでいた……そういう小さなズレが重なって、気づけば約束の時間を過ぎてしまっているのだ。
毎朝の段取り地獄:出るまでが勝負
朝が一番忙しい。事務所に入った瞬間から、昨日の続きを片付け、今日のアポを確認し、電話に出て、郵便物を確認して──出発するだけで小一時間かかるのが常だ。以前、10時にお客さんとカフェで待ち合わせをしていたのに、9時に入ったFAXに返信していたら、もう9時50分。慌てて飛び出したけれど、到着したのは10時15分。汗だくで謝ったが、あのときの申し訳なさは今でも忘れられない。
事務所の電話は朝から鳴る
9時過ぎになると、事務所の電話が鳴り始める。「今日、登記終わってますか?」「昨日の件、急ぎで…」そういった確認の連絡は、こちらがどれだけ急いでいても、無視できない。電話対応を事務員に任せることもあるが、「先生に確認してほしい」と言われることも多い。朝一番の30分がすべて電話応対で消える日もある。
「ちょっとだけ」の書類確認が命取り
あと5分だけ、書類の確認をしようと思ったが最後。それが命取りになる。印鑑がない、補正が必要かもしれない、なんて心配が浮かび、ファイルをひっくり返していたら時間はあっという間に経つ。確認するのは悪いことではないが、その「ちょっと」が10分、20分の遅刻につながってしまうのだ。
裁判所・法務局・顧客先、すべてが分刻み
日々のスケジュールはまるでTetris。一つの予定が少しずれるだけで、後が全部崩れる。裁判所に書類提出、法務局に登記申請、その足で顧客宅訪問……すべてが時間ギリギリの綱渡りだ。特に地方では移動距離が長く、予想以上に道が混んでいたり、急に駐車場が埋まっていたりする。スマホの地図アプリを信じすぎて、「到着予定時刻」から10分ズレるなんてしょっちゅうある。
移動時間は読めないのにスケジュールはギチギチ
とにかく移動に余裕がない。「大丈夫、20分あれば行ける」と思って出発したら、道が混んでいた、信号に全部引っかかった、対向車が多くて右折できなかった、という細かい要因が重なると、平気で5分10分遅れてしまう。ギチギチに詰めすぎたスケジュールを後悔しても、もう遅い。
渋滞よりも「書類忘れ」の方が深刻な遅延理由
渋滞ならまだ納得してもらえる。しかし「書類を一部忘れてしまって、事務所に戻って取りに帰ります」となると、信頼はガタ落ちだ。実際、そういう経験がある。急いで戻って、お詫びして……もう何を言っても響かない空気が辛かった。
誰も責めないが、誰にも理解されない
一度や二度の遅刻ならまだしも、何度も続くと「この人、時間にルーズなんだな」と思われてしまう。でも、こちらとしては全力で走ってきている。責める人はいない。でも、理解してもらえることもない。そういう孤独な感覚に襲われることが、最近増えてきた。
お客さんとの待ち合わせで感じる罪悪感
お客さんとの待ち合わせに遅れると、こちらの立場がぐっと下がる。「あ、この人に頼んで大丈夫かな」と思わせてしまう。時間通りに行くのが当然、プロとして当たり前──わかっているのに、それが守れないとき、自分自身が許せなくなる。遅刻は信頼を失う最大の敵だ。
「すみません」より「申し訳ない」の重み
「すみません、遅れました」では足りない気がする。心の底から「」と頭を下げる。だが、相手の表情を見ると、気まずさと失望の入り混じった空気が伝わってくる。あの空気が一番辛い。何年やっても慣れないし、慣れてはいけないと思う。
家族や友人との約束は…そもそも作らなくなった
遅刻が多くなってから、家族や友人と約束をすること自体を避けるようになった。「また遅れるかもしれない」「どうせドタキャンになるかも」という不安が先に立つからだ。誰かと会うより、事務所で残務処理していたほうが気が楽──そんな風に考えてしまうあたり、もう終わってるのかもしれない。
プライベートを犠牲にしすぎて人間関係が希薄に
司法書士の仕事は責任が重い。その重さに慣れる代わりに、プライベートの人間関係はどんどん薄くなる。誘われても「その日はちょっと…」と断ることが増え、いつの間にか連絡も来なくなった。遅刻しないようにと意識するあまり、そもそも人と会う機会すら減ってしまっている。
事務員にだって迷惑をかけている
一緒に働いている事務員にも、当然迷惑はかけている。自分が出る予定の時間に遅れれば、その分フォローが必要になるし、予定の修正や連絡の手間も増える。彼女のためにも、もう少し時間管理を何とかしないと──と毎回思う。でも、改善しきれないのが現実だ。
自分の時間管理ミスは、スタッフの負担になる
「すみません、10時の顧客に連絡しておいてもらえますか?」そう言うたび、罪悪感に苛まれる。事務員にスケジュールを調整させてばかりで、彼女の業務も圧迫してしまっている。本来は自分がしっかり把握し、行動すべきなのに……。
「今日は何時に帰れますか?」と聞かれる切なさ
ある日の夕方、「先生、今日は何時に終わりますか?」と聞かれたことがある。彼女には彼女の生活があるのに、こちらのスケジュールに左右されてしまっているのが申し訳なかった。せめて「今日はちゃんと帰れますよ」と言える日を、もっと作りたい。
対策しても追いつかない現実と、それでも前向きに
タスク管理アプリも導入し、アラームも設定し、スケジュールも見直した。それでも、突発的なトラブルで全てが崩れていく。もはや「完璧」は無理なのかもしれない。だけど、相手の時間を大切にしようという気持ちだけは、なくしてはいけないと強く思っている。
リマインダーもToDoも完璧にしているつもり
Googleカレンダーにリマインダーを設定し、ToDoリストも常に更新している。でも、それでも漏れる。通知に気づかない、優先順位を間違える、そもそも予定外の出来事が起きる。機械的な管理だけでは、すべてを防ぐことはできないのだ。
それでも「突発」が全部を壊していく
「先生、今すぐ確認してほしいんですが!」という電話一本で、計画は全部吹き飛ぶ。突発の対応をしないわけにはいかない。だけど、それが原因で予定を遅らせてしまう。この葛藤が毎日ある。効率化なんて、理想論に思えてくる。
「遅刻しない人」にはなれないけれど
もう、自分は「遅刻しない完璧な人」にはなれないのだと、諦めに近い気持ちもある。だけど、せめて「遅刻しても真剣に向き合ってくれる人」にはなりたい。時間を守れない自分が、少しでも信頼されるように、謝るときは真剣に、そして次に活かすようにしたい。
せめて、相手の時間を大切にする努力はしたい
自分の時間を大切にするだけでは足りない。相手の時間を尊重する。それが、信頼の基本。完璧ではなくても、誠実でありたい。今日も、約束の5分前には着けるように、もう一度スケジュールを見直す。少しでも、遅刻しない人間になりたくて。