孤独な誕生日、司法書士という職業の現実
誕生日。多くの人にとっては、家族や友人、恋人から祝ってもらえる特別な日なのだろう。でも私にとっては違う。年々、「おめでとうございます」と言ってくれるのは、うちの事務員さんだけだ。しかも毎年、気を使ってくれて、コンビニのロールケーキをそっとデスクに置いてくれる。ありがたい。とてもありがたい。でも、だからこそ胸に沁みる。心のどこかで「俺、これでいいのか？」と問いかけてしまう。
毎年同じ光景：ケーキと「おめでとうございます」
ロールケーキ、ろうそくなし、メッセージカードもなし。だけど、事務員さんの「おめでとうございます」が本当に優しくて、つい涙腺が緩んでしまうこともある。もちろん事務的な意味ではない。きっと彼女なりの気遣いなのだと思う。だけど、その「たった一人」にしか祝われない現実を、どうしても前向きに受け止めきれない。
事務員さんの気遣いが心に染みる反面
事務員さんがわざわざ休憩時間に買いに行ってくれたんだろうなと想像すると、それだけで感謝の気持ちがこみ上げてくる。でも同時に、事務所で祝われることが「全て」になってしまっている自分の状況に気づいてしまう。それが寂しさや空しさをより際立たせる。誰かと祝うのではなく、祝われることすら“業務の一環”に感じてしまうのは、もしかしたら私の心がすり減っている証拠かもしれない。
同年代の友人との疎遠さと心の距離
昔はそれなりに友達もいた。でも、司法書士として独立してからは疎遠になった。向こうは結婚して家庭があり、子育てや仕事に追われている。誘うことも減ったし、連絡も取りづらくなった。祝ってくれないことを責める気はない。むしろ、こちらが「友人であること」を放棄してしまった気すらする。距離を取っていたのは自分だった。そういう事実に、誕生日という日は無理やり向き合わせてくる。
自分の誕生日すら予定が詰まっている日常
誕生日だからといって特別扱いされることは、もちろんない。むしろそんな日に限って、補正書類が返ってきたり、クレーマー対応に追われたりする。あれこれと手を動かし、電話を取り、書類を見直しているうちに、「ああ、今日誕生日だったな」と気づくこともある。そんな時は、自分自身に対して申し訳ない気持ちにすらなる。
依頼と登記で埋め尽くされたスケジュール
朝一番の相談から始まり、登記申請、確認作業、郵送手配、電話対応。昼ごはんを食べる暇もなく、気づけば夕方。スケジュールは常にびっしりだ。事務員さんが少しでも気を利かせて時間を空けてくれたとしても、「じゃあその隙にあれやっちゃおう」と思ってしまう。結果、誕生日らしいことなど何一つないまま一日が終わる。
「祝われる側」より「祝う側」に徹する矛盾
皮肉な話だが、お客さんや知人の誕生日にちょっとした贈り物をするのは得意だ。自分が「祝われない」分、人に何かしてあげたい気持ちが強いのかもしれない。でも本当は、自分だって祝われたい。少しくらい、特別扱いされたい。そんな気持ちを抑え込んで、祝う側に徹してしまうのは、照れ隠しと自衛本能が混ざった結果なのだと思う。
なぜ司法書士は孤独になりやすいのか
司法書士は信用商売。お客様との距離感や信頼関係が命だ。だからこそ、必要以上に人と深く関わるのを避けるようになってしまう。そして、気づけば自分だけ取り残されたような感覚に陥る。誕生日のような「プライベートな節目」でそれが浮き彫りになるのは、ある意味当然なのかもしれない。
信頼と孤立は紙一重
クライアントにとって「信頼できる人」でいるためには、余計な感情を見せないほうがいい。そう教わってきたし、実際それが功を奏する場面も多い。でも、その積み重ねが、誰にも本音を話せない状態を生む。信頼されることと、孤立していくことは、案外すぐ隣にあるのだと最近よく思う。
距離感を保つことで築ける信頼
「あの人は余計なことを言わない」「冷静で感情に流されない」——そんな評価を得ることで、業務は円滑に進む。でも裏を返せば、「何を考えているかわからない」とも言われる。信頼とは矛盾を抱えたものだ。人と近づきすぎないことで得られる安心感がある反面、心のつながりを拒否してしまっているのかもしれない。
プライベートを犠牲にする専門職の宿命
この仕事は、平日も土日も関係ない。案件があれば対応するし、書類が揃えば提出期限に間に合わせる。それをやってのけてこその司法書士。でも、だからこそプライベートはどんどん後回しになる。自分の時間が確保できず、気づけば「人と関わる時間」自体が激減してしまう。誕生日に誰とも会わないのは、その延長線上にあるのだろう。
仕事中心の生活がもたらす人間関係の希薄さ
気づけば、話す相手は事務員さんとお客様だけ。しかもその会話の大半は業務的なもの。ふとしたときに、「最近、誰かと他愛もない話をしただろうか」と自問することがある。答えは、ほとんど「NO」だ。これが今の自分の現実なのだと、誕生日が教えてくれる。
交友関係より「案件関係」が広がっていく現実
昔の同級生や趣味仲間とは、連絡を取ることも減った。一方で、仕事上の知り合いは増えていく。だがそれはあくまで「案件」でつながった関係。何かを一緒に笑い合うような仲ではない。むしろ、仕事が終われば一切連絡を取らない関係がほとんど。人との関係が「成果物ありき」になってしまうのが、この仕事の厳しいところだ。
意識しても難しい「友人作り」への一歩
「友人が欲しい」と思ったとき、すぐに誰かと仲良くなれるような年齢ではない。飲み会にも行かないし、趣味の集まりに出ることもない。結局、現状維持に流されてしまう。孤独を感じても、その一歩を踏み出すのがとても難しい。だからこそ、意識しないと何も変わらないまま時間だけが過ぎていく。
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事務員さんとの関係性を見直すという視点
唯一誕生日を覚えてくれている事務員さん。その存在を「孤独の象徴」と捉えるか、「ありがたい味方」と捉えるかで、気持ちはずいぶん変わる。私は後者でありたいと思う。日々支えてくれているその姿にもっと感謝し、こちらからも何かを返す意識を持つことが、心のバランスを保つ鍵になる。
感謝を伝えるという小さな革命
ふだん言えない「ありがとう」を、勇気を出して伝えてみる。たった一言で、事務所の空気が和らぐことがある。感謝は見せることで、相手の中にも温かい感情が芽生える。相手を思いやることで、孤独感が和らぐというのは、不思議なことだけれど、経験上まちがいない。
「ありがとう」の言葉がもたらす安心感
「当たり前」に思っていたことでも、「ありがとう」と言われれば人は嬉しい。それは自分自身も同じ。だからこそ、自分から感謝を伝えることが、お互いの孤独を癒すきっかけになる。特別な贈り物でなくていい。言葉一つで、誕生日の孤独は少しだけやわらぐ。
一緒に過ごす時間を意識してみる
業務以外の話をしたのは、いつだったか。昼休みに少しだけ、世間話をする。それだけでも、心がふっと軽くなる瞬間がある。私たち司法書士は「効率」を追い求めすぎるあまり、人との時間の価値を見落としがちだ。事務員さんと同じ空間で働く意味を、もう一度見つめ直したい。
日常業務の中にある「人間らしさ」への回帰
書類、登記、チェック、申請——すべて正確にこなすことは大事。でもその中に、笑い合う瞬間や、声をかけ合う余白を持つことも、きっと同じくらい大切だ。事務員さんと「人と人」として関わることができたとき、仕事も少し楽になる。それは、孤独を和らげる一歩でもある。
乗り越えるための工夫と視点の転換
誰にも祝われない誕生日。そこに落ち込むのではなく、どう向き合うかを変えてみようと思った。自分で祝う、自分で機嫌を取る。小さなご褒美を自分に用意するだけで、心の中に灯がともる。少しずつ、視点を変えることで、孤独の中に希望を見出すこともできるのだ。
自分で自分を祝うという選択肢
今年の誕生日、初めて自分でケーキを買った。誰に見せるでもなく、一人でローソクを立てて、火をつけた。少し滑稽だったけれど、なんだか嬉しかった。自分をねぎらうという行為が、思った以上に心に効いた。誕生日を祝う相手がいないなら、自分がいればいい。
誕生日に仕事を休んでみる勇気
忙しいのは分かっている。でも、思い切って誕生日に休みを入れるという選択肢もあっていい。誰にも会わなくてもいい。自分だけの時間を過ごすことで、「祝ってもらえない寂しさ」を、「自分をいたわる時間」へと変えることができる。休むことに罪悪感を覚えすぎてはいけない。
同業者とのつながりを作る方法
司法書士同士のつながりは、実はとても大切だ。お互いの孤独や大変さを理解できるからこそ、共感も生まれやすい。最近はSNSや勉強会で気軽につながれるようになった。年に一度、誕生日の話ができるような関係性も、意識してつくっていきたいと思う。
SNSや勉強会を活用して孤独を減らす
「こんな時どうしてる？」と気軽に聞ける同業者がいるだけで、心の支えになる。誕生日の投稿を見て「おめでとう」と一言コメントがあるだけでも、救われる。オンライン上でもいい、人とのつながりを意識的に持つことで、孤独は確実にやわらいでいく。
「誕生日です」と言える関係を築くために
「今日、実は誕生日なんです」とポロッと言える相手がいるだけで、心があたたかくなる。そのためには、日頃からの関係づくりが大事だ。少しずつでも人とつながっていく勇気。それが、孤独を乗り越える唯一の方法なのかもしれない。
