登記簿が示した嘘の家

登記簿が示した嘘の家

登記手続きの依頼と違和感

奇妙な依頼人の態度

「この家、早めに名義を変えておきたいんです」と依頼人は言った。 一見、よくある相続絡みの依頼に思えたが、その眼差しは妙に焦っていた。 まるで誰かに追われているような落ち着きのなさが気になった。

古い家屋と新しい名義

登記簿を見ると、築70年は経っているであろう家屋に、数日前に設定されたばかりの所有権移転が記録されていた。 「この立地で今更?」という違和感。 それを言葉にする前に、サトウさんの冷たい視線が刺さる。

サトウさんの無言の指摘

登記簿の記載に潜む矛盾

「登記識別情報が古い形式のままなのに、新しい様式の日付が入ってますね」 サトウさんは淡々と言った。こちらが気づくよりも早く異変を感じていたらしい。 ぼくは返す言葉もなく、ただ頷いた。

サトウさんのチェックリスト

彼女の机には、赤字でびっしりと書かれた疑問のリストが並んでいた。 それはまるで推理漫画の一場面のようで、ひとつひとつが事件の核心に迫っていた。 「やれやれ、、、また厄介な依頼だ」と独り言が漏れる。

司法書士シンドウの調査開始

前所有者の失踪記録

役所に問い合わせたところ、元の所有者は10年前に失踪届が出ていた。 行方不明扱いで処理され、相続登記は手つかずのままだった。 「じゃあ、どうやって名義が変わったんだ?」と、ぼくの中で警戒のランプが灯る。

名義変更の時系列の不自然さ

移転登記はつい最近。しかし、その直前の登記原因証明情報が妙に簡素だった。 いわゆる「便宜的な売買」のような書式。 本来であれば詳細な契約内容が必要なはずだ。

過去の登記記録からの手がかり

合筆と分筆に仕込まれた細工

登記履歴を辿ると、5年前に合筆、その翌年には分筆されていた。 目的が不明な構成変更に、作為を感じざるを得ない。 「これは……不動産の履歴トリックだな」と呟いた。

抵当権の抹消漏れの意味

さらに奇妙だったのは、既に返済済みとされる抵当権が抹消されていない点だった。 普通なら即手続きをするはず。それをしない理由は? 何かを隠すための「演出」だと気づいた。

関係者への地道な聞き込み

近隣住民の証言が示す真実

「え? あの人、そんな簡単に売るわけないでしょ」 近所の年配女性は、前所有者が家に異常な執着を持っていたことを教えてくれた。 つまり、任意で売ったとは思えない。

元所有者の娘が語ったこと

彼女は言った。「父は家を手放すつもりなんてなかった。むしろ、誰にも渡さないと……」 泣きながら語る姿に、こちらも胸が詰まる。 彼は、誰かに奪われたのかもしれない。

サトウさんの冷静な推理

登記に現れない家族の事情

「名義人が実は養子縁組をしていた場合、相続順位が変わります」 淡々と語るサトウさん。ぼくが野球部時代、サインすら読めなかったのとは大違いだ。 まるでコナン君のように、ロジックを積み上げていく。

偽装された遺産相続の影

結論として出たのは、相続放棄を偽って登記を進めた可能性。 相続人の一人が、他の相続人に無断で処理した可能性が高かった。 つまり、これは登記簿を使った「遺産の横取り」だった。

シンドウが掴んだ決定的証拠

登記簿と筆界未定地の接点

ふと気になって確認した「筆界未定地」。その一部が登記された家屋の敷地と重複していた。 これは、境界未確定の土地を「意図的に」巻き込んだ証拠だ。 「やれやれ、、、完全にクロだな」とぼくはため息をついた。

法務局の古い謄本が語った事実

法務局の倉庫で発見した昭和時代の謄本には、確かに別の名義人が記録されていた。 そこから先は訂正の連続。 これは登記簿を塗り替えるための「改ざんの歴史」だった。

依頼人の正体とその動機

なぜ彼は名義を書き換えたのか

彼は亡き兄の遺産を独占するため、相続人を装い、登記簿の虚構を作り上げた。 そのために、古い書類を偽造し、相続放棄の書面までねつ造していたのだ。 「こうでもしなきゃ家は手に入らなかった」と本人は言い訳した。

その家に隠されたもう一つの目的

実はその家、来年度に予定されている開発計画の中心エリアだった。 買収対象として見込まれていたため、価値は一気に跳ね上がる。 彼の目的は「家」ではなく「土地の利権」だった。

シンドウの選んだ解決方法

司法書士としての矜持

ぼくは法的手続きを通じて、登記を一時凍結し、関係者に通知を出した。 その上で、偽装された相続の証拠を検察に提出した。 「司法書士にできるのはここまでだが、ここまでは絶対にやる」と決意した。

やれやれ、、、最後は登記がすべてを語った

結局、登記簿こそが全ての物語を語っていた。 証拠も、動機も、そして嘘も。全てが法務局に眠っていたわけだ。 やれやれ、、、やっぱり紙の山が一番の名探偵なのかもしれない。

事件の終わりと静かな日常

サトウさんの塩対応と一杯のコーヒー

「まだ終わってませんよ。次の相談者、待ってます」 コーヒーを一口飲んだサトウさんが、冷たく告げた。 ぼくは、カップを持つ手を震わせながら、今日もまた机に向かう。

今日もまた誰かの登記が物語を始める

登記簿は語る。ただし、それを読み解く者がいればこそ。 この町の司法書士として、また事件の扉が開く気がしてならない。 そう思いながら、そっとファイルを閉じた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓