登記簿が暴いた沈黙の家

登記簿が暴いた沈黙の家

依頼人は涙をこらえていた

古びた一戸建てと不審な登記

静まり返った事務所に、ぽつりと一人の女性が現れた。 手にした封筒からは、数年前に取得したという登記事項証明書が覗いていた。 「この家、私の母のものだったはずなんです……でも、知らない名前が載っていて……」

サトウさんの塩対応と観察眼

「お掛けください」サトウさんが機械的に促しながら、書類に一瞥をくれた。 その眼差しは、まるでルパン三世を追う銭形警部のように鋭い。 「これ、登記日付と売買契約日が一致してませんね。何か変です」

不自然な共有名義

二人の所有者とその関係

登記簿には二人の名義が記されていた。依頼人の母と、聞き覚えのない男性の名。 しかも、その男性は依頼人と血縁もなければ、過去に接点もないという。 「誰かが勝手に書類を作って、名義をねじ込んだのかもしれませんね」と私は呟いた。

名義変更の痕跡と時系列の違和感

登記の日付は、母親が入院した直後にあたる。 まるで意識が薄れたその隙を狙ったかのようなタイミングだった。 「やれやれ、、、また胡散臭いのが出てきたな」私は思わずため息をついた。

近隣住民の証言

鍵をかけない家の謎

「この家、鍵が開いてるんだよ、ずっと」そう言ったのは向かいの老婦人だった。 「たまに人の出入りがあるけど、見たことない顔ばかりでねえ」 所有者が不在のはずの家に、誰かが自由に出入りしているという証言が得られた。

毎晩鳴っていたピアノの音

「夜中にピアノが鳴るんだよ。しかも、同じ曲ばかり」 まるで同じテープを流しているような音、という言葉がひっかかった。 サザエさん一家が何度も同じ曜日に夕食を囲むように、繰り返される違和感のあるループ。

相続登記に潜む矛盾

失踪届と死亡届の違い

確認すると、母親の死亡届は出されていたが、失踪届も数年前に提出されていた。 つまり、二重の記録があったのだ。これにより、登記上の混乱が生じていた。 「どう考えても、不自然です。意図的に作られた矛盾だとしか思えません」サトウさんは言い切った。

法務局が見逃した一枚の用紙

登記申請書に添付されていた住所証明書。そこに記載された内容が、わずかに改ざんされていた。 コピーされた印鑑証明書は解像度が微妙に低く、原本と見比べると違和感があった。 「これ、偽造の可能性ありますよ」と、再びサトウさんの冷静な声が響いた。

サトウさんが見抜いた偽造の影

筆跡と印鑑の不一致

念のため、過去の契約書類を比較した。すると、そこにあるべき筆跡とは明らかに異なる文字が。 印影も一致していない。 「完璧な偽造なんて無理なんですよ。だって人間って、意外と雑ですから」

登記簿の奥に隠された事実

さらに詳しく見ると、登記簿の変更履歴に奇妙な動きがあった。 一度訂正され、翌日にはまた戻されている。これは内部の人間でなければできない手口だ。 私の背筋に冷たいものが走った。

司法書士シンドウの失敗

記載ミスが導いた再調査

「間違ってましたね、私。これ、評価額じゃなくて固定資産税額を参照してた」 思わず頭をかいた。こんな初歩的なミス、元野球部だったらノーサインで三振するレベルだ。 でも、そのおかげで古い登記情報が再確認できた。怪我の功名、というやつだ。

やれやれとため息をついた午後

「やれやれ、、、。でも、まだ終わってませんよ」 午後の陽が傾く事務所の中、私は冷めかけた缶コーヒーを手に立ち上がった。 過去の書類と現行の登記を突き合わせ、決定的な証拠を見つけるのはこれからだった。

空き家だったはずの家で見つかったもの

物置に残された鍵と血痕

現地調査で、私と依頼人が訪れたときだった。裏の物置にあった古い木箱から鍵の束が見つかった。 その中に一本、乾いた赤茶色の染みがある鍵があった。 「これは……ただの空き家じゃなかったってことですね」

ガス会社の記録が示す人物像

ガス会社に問い合わせたところ、最近まで月に一度、料金が引き落とされていたことが判明。 しかも、それは依頼人の母とは無関係の人物の口座だった。 名前を見て私は目を細めた。「この名前、登記簿に載ってた男じゃないか……」

怪しい兄弟と消えた母親

遺産分割協議書の偽造疑惑

突き止めたのは、依頼人の母の兄弟による書類偽造だった。 偽の協議書により、家の名義を自分たちのものにしようとしていたのだ。 「家族ってのは、血よりも欲でつながってることがあるんです」とサトウさんはつぶやいた。

電話に出なかった長男の動機

何度も連絡を無視していた長男は、後ろめたさを抱えていた。 母親が倒れてから、通帳を持ち出していたという事実が判明した。 自分だけが損をすると思い、勝手に書類を偽造したのだ。

登記簿が語った最後の真実

名義変更の裏にあった共謀

兄弟たちは結託し、家と土地を手に入れようと画策していた。 だが、登記簿はすべてを記録していた。日付も、印影も、訂正履歴も。 「真実は紙の中にあるんですね、やっぱり」と依頼人がぽつりと漏らした。

司法書士が追いつめた犯人の言葉

私が指摘したとき、彼らは言い逃れをしようとした。だが、既に証拠は揃っていた。 「どうしても欲しかったんだよ、兄貴だけズルいって思ってたんだ」 小さな嘘が重なって、大きな罪になった瞬間だった。

沈黙の家に灯る明かり

被害者が語った家族の崩壊

母親は生きていた。施設に保護され、認知症を患っていたのだ。 「家なんてどうでもいいの、私は家族が一緒に笑ってくれるなら」 その言葉は、依頼人の心に深く突き刺さった。

サトウさんのため息とコーヒーの香り

「まったく、無駄に長い事件でしたね」サトウさんがコーヒーを差し出してきた。 私はそれを受け取り、口に含む。「苦いけど、落ち着くな」 「味ですか?それとも人生ですか?」その言葉に、私はまたため息をついた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓