予定表を開いたら、クリーニング屋だけだった
朝、コーヒーを飲みながらスマホでGoogleカレンダーを確認する。青く染まった時間帯には、打ち合わせや法務局、銀行への訪問がびっしり入っている。けれど、その下にある「プライベート」の枠を見ると、一週間でひとつだけ、「クリーニング屋」とだけ書かれた予定がぽつんとある。それを見た瞬間、なんともいえない虚しさが押し寄せてきた。俺の生活、こんなにも仕事一色だったのかと。
気づけば、カレンダーが真っ白
独立して十数年。がむしゃらに働いてきたつもりだ。最初は仕事を得るために、休日も時間も削って動いた。それがいつしか「当たり前」になり、今では週末もほぼ仕事。ふとカレンダーを眺めても、休みの日にプライベートな予定が入ることはない。学生時代はあんなに友達と遊び回っていたのに、今や連絡を取る相手すら思い浮かばない。
打ち合わせ、登記、決済…それ以外は空欄
司法書士の仕事は、いろんな種類の手続きがあって忙しい。登記関連の案件や、時には相続の相談、債務整理の手続きなども入ってくる。その合間に法務局へ行き、書類をチェックして、ミスがないか確認し…と日々の業務は多岐にわたる。でも、逆に言えばそれだけで自分の時間が埋まってしまっている。気づけば、仕事以外の時間を「自分の意思」で使うという感覚を忘れていた。
「誰かと会う予定」が仕事以外にない現実
カレンダーに名前が載るのは、依頼者か取引先ばかり。「誰かと食事に行く」「友達と映画を見る」なんて予定はもう何年も書いた覚えがない。予定表に「クリーニング屋」だけが残っているというのは、つまりそれ以外に自分が出かける必要がないということだ。人と会う機会すら自ら作ろうとしなくなった現実に、思わずため息が漏れる。
クリーニング屋が、週で一番のイベントになる日
情けない話だが、最近は「シャツを受け取りに行く日」が一番のイベントになっている。白シャツの襟にうっすらと残る黄ばみを見ながら、「ああ、これも戦いの勲章だ」と思うようになってきた。店に行ってシャツを受け取り、次の洗濯を出す――そんな簡単なことなのに、どこか救われている気がするのは、自分の生活があまりにも味気ないからかもしれない。
シャツを受け取りに行くだけで、なぜか緊張する
店の自動ドアが開くと、なんとなく背筋が伸びる。年配の女性店員さんが「こんにちは」と挨拶してくれる。自分も慌てて「いつもお世話になってます」と返す。この短いやりとりの中で、ほんの少し社会と繋がっているような感覚がある。忙しさにかまけて誰とも会話しない日が続くと、人と話すこと自体に構えてしまう。
店員さんと交わす数秒の会話に癒される
「今日、少し風が強いですね」「この前のシャツ、きれいになってますよ」…たったそれだけの言葉で、少しだけ心が軽くなる。事務所では淡々と仕事をこなすだけの毎日。だからこそ、こうした日常のひとコマが、不思議と染みてくる。誰かと話すということ自体が、今の自分には貴重なことなんだと気づかされる。
「また来てくださいね」が、心に刺さる
シャツを受け取って帰るとき、店員さんが言う「また来てくださいね」が、なぜか胸に残る。仕事では「またお願いします」とか「よろしくお願いします」と言うけれど、それは義務や契約の範疇。でも、店員さんの言葉は、ほんの少しだけ“個人”として見られたような気がして、そんな小さなことに救われている自分が、少し哀しい。
独身・中年・地方暮らしの司法書士という肩書き
45歳。地方都市で独立して10年以上になる。家族はいない。恋人もいない。婚活をしていた時期もあったが、結局「忙しくて続かなかった」で片付けてしまった。司法書士という職業自体、なかなか女性ウケがいいわけでもないし、年齢を重ねるごとに、むしろ「それでなんで独身なの?」という空気を感じるようになってきた。
友人は家庭持ち、遊びに誘えない
学生時代からの友人たちは、今や皆家庭を持ち、週末は家族サービスが当たり前。こちらから連絡しても、「あ、また今度ね!」と流されるのが日常になった。誘わないことが気遣いのようになり、気づけば完全に“ひとり時間”に慣れてしまった。寂しいとは思う。でも、それをどう変えればいいのかも、もうわからない。
マッチングアプリも続かない
一念発起して始めたマッチングアプリも、仕事の合間に返信するのが億劫になり、すぐにフェードアウト。写真を選ぶ段階で自分に嫌気がさし、やりとりで気を遣い、結局「仕事の方が楽だ」と思ってしまう始末。こんな調子では、誰かと暮らす未来なんて、夢のまた夢なのかもしれない。
結婚相談所にすら申し訳ない気がしている
一度、地元の結婚相談所に話を聞きに行ったことがある。でも、自己紹介をしながら、「自分の何に価値があるんだろう」と考えてしまった。仕事の話ばかりになり、趣味も対して広がりがなく、気づけば「これで相手に興味持ってもらえるのか?」と自問自答。帰り道、なんだか疲れてしまって、そのまま登録せずに終わった。