日々の業務は淡々と、それでも心はざわつく
朝の書類確認、電話応対、登記申請。業務自体はスムーズに回っている。経験年数だけはそれなりに積んでいるから、正直なところ、登記や書類仕事で慌てることはほとんどない。でも、それと反比例するように、心の奥ではざわざわと何かが渦巻いている。おかしいな、順調なはずなのに。案件が片付いても、何もスッキリしない。自分の人生にだけ「結了」が押せていない感じ。仕事は進んでいるのに、自分自身はどこに向かっているのかが見えない。そんな感覚に、日々襲われている。
申請書は通るのに、自分の気持ちは通らない
たとえば、不動産の名義変更の登記なんか、慣れたもので、必要な書類が揃っていれば、スルスルと進む。けれど、その一方で、自分の「寂しいな」という気持ちは、誰にも届かないし、届かせようとする相手もいない。久しぶりに話すのが郵便局員、なんて日もざらにある。ふとした瞬間、「あれ、俺って仕事の中でしか社会と接点ないのでは？」と気づくと、ガクンと気力が落ちる。書類にはルールがあって、手順を守れば結果が出る。でも、自分の感情にはルールもなければ、手続きも存在しない。
職印を押すときの虚無感
手続き完了の判を押すとき、事務的な動作でポン、と朱肉を乗せて書類に職印を捺す。その音が、事務所にポツンと響く。その瞬間、妙に「無」の時間が広がることがある。書類は確かに片付いた。でもその印鑑を押すたびに、「俺の人生に押すべきハンコって、どこにあるんだろう」なんて、バカみたいな考えがよぎる。たかが職印。されど、その重みが心に残る夜もある。
「完了」の文字に心が遠くなる
オンライン登記申請の画面に「完了」と出ると、ほっとする。でも、その「完了」って言葉、正直あまり好きじゃない。完了って、ひとつの終わりであって、でもそれが何の終わりなのか、よく分からない。依頼人の手続きは終わった。でも、自分の孤独は続いている。人生には「完了」ボタンなんてないんだと、思い知らされる。
誰かの人生を整えているのに、自分の生活は乱れっぱなし
司法書士の仕事って、人の人生の節目に立ち会うことが多い。相続、売買、離婚、会社設立。いろんな人の、いろんな事情に関わる。その中で「無事終わってよかったです」と感謝されることもある。でも、そのたびに、「俺の生活はどうなんだ？」と、自分に突っ込みたくなる。人の手続きはきれいに整うのに、自分の冷蔵庫の中はカラ。郵便物は積みっぱなし。部屋は散らかったまま。誰のために頑張ってるんだろう、とふと思う。
登記で感謝されても、家では誰も待っていない
決済が無事に終わり、「先生のおかげです」と笑顔で言われる。その瞬間、達成感がある。でも、事務所を閉めて一人帰る家には、誰も待っていない。暖かい夕飯も、迎えてくれる声もない。ただ、静かすぎる部屋に、自分の足音だけが響く。あれだけ人とやり取りしていたのに、一瞬で孤独に引き戻される。それが日常になっている。
一人分の晩ご飯がどんどん雑になる
昔は一応、自炊もしていた。でも今では冷凍うどんをチンして、ポン酢をかけて終わり。もしくは、カップ麺とコンビニのおにぎり。料理が面倒なのではなく、「誰かに食べさせたい」って感情がなくなると、自然と手間をかけなくなるんだと思う。栄養バランスよりも、空腹を埋めるだけの食事。そんな毎日が続くと、どんどん自分の存在が「仮登記」みたいな気分になってくる。
「独立して自由」なんて、幻想だったのかもしれない
独立したばかりの頃は、「自由だ、時間も自分で決められるし、やりがいもある」と思っていた。でも気づけば、自由という名の重荷を背負っていた。休めない、誰も代わってくれない、クレームも全部自分。自由って、なんでも自分で背負うことなんだと分かってきた頃には、疲れが抜けなくなっていた。
忙しいのに、孤独だけは増えていく
1日中バタバタしていても、ふとした瞬間に押し寄せる孤独感がある。事務所の中ではずっと電話や来客対応をしているけど、それが終わると一気に無音の世界に戻る。この音のない空間が、なんとも言えず寂しい。人と関わっているようで、実際は誰とも繋がっていないのかもしれない。
事務所で笑うのは依頼人だけ
依頼人が「先生って面白いですね」と笑ってくれることがある。でも、内心はちっとも面白くない。愛想笑い、営業スマイル、そういうのを日常的に使いこなすうちに、本当の自分の顔がどんどん分からなくなっていく。仕事では“ちゃんとした人”を演じていても、自分の中では常に、何かが置き去りになっている。
今日もまた、人生の答えは「保留」のまま
司法書士として、ある程度の実績は積んできた。でも、それが自分の人生の「答え」なのかと言われると、はっきりしない。なんとなくやり過ごして、気づけばまた週末。誰かに相談したいこともあるけど、そんな相手がいないという現実を直視するのがつらい。今の生き方が正解なのか、未だにわからない。
でも書類は今日中に仕上げなきゃならない
人生は保留でも、仕事は待ってくれない。明日提出の書類、今日中に送信しないといけない。どんなに気分が落ち込んでいても、どれだけ眠れてなくても、それだけはきっちり守る。それが司法書士という仕事。だけど、そんな真面目さが、自分をどんどん窮屈にしているような気もする。やらなきゃいけないことと、やりたいことの間に、自分が埋もれていく。
