「今日はコンビニ店員とだけ喋った」——司法書士ひとり事務所の現実と救い

「今日はコンビニ店員とだけ喋った」——司法書士ひとり事務所の現実と救い

誰とも会話しない一日があるという現実

「あれ、今日誰とも喋ってないな」──こんなことに気づく瞬間が、司法書士のひとり事務所には意外とある。朝から黙々と書類作成や調査業務をこなし、気づけば夕方。電話も鳴らず、来所もなし。外に出たのは昼のコンビニだけという日もある。都会の喧騒から離れた地方の事務所では、誰とも接しない一日が現実として存在する。人と会話をしないと、何となく存在を忘れられたような気分になるのが不思議だ。

「今日は誰とも喋っていないな」と気づいた瞬間

その日は、朝から何となく調子が悪かった。気分が沈んでいるのか、疲れているのか、それすらもよくわからない。ただ、気づけば午後になっていて、デスクから一歩も動かずに作業を続けていた。電話も来なかったし、メールのやりとりだけで全てが済んでしまった。ふと手を止めて、「今日、誰とも喋ってないな」と思ったとき、なんとも言えない虚しさが胸に広がった。

電話も来客もゼロの日常

繁忙期は別として、意外とこうした「静かな日」はある。静かすぎて時計の針の音が気になるくらいだ。電話が鳴らないというのは、ある意味では平和なのだろう。でも、誰かに頼られることもなく、相談もされず、ただ事務処理をしているだけだと、なんのためにやっているのか分からなくなる瞬間がある。

人と接することのない孤独感

人と話すことで、自分がこの世界にちゃんと存在していると感じられる。逆に、話さなければ、まるで透明人間になったような感覚になる。自営業の孤独さは覚悟していたつもりだったが、声を出さない一日は、心まで黙り込んでしまいそうになる。事務員も早上がりの日などは、いっそう静けさが増す。

コンビニ店員との「いらっしゃいませ」が唯一の会話

そんな日、昼に出かけたコンビニで聞いた「いらっしゃいませ」の声が、やけに沁みた。レジで「温めますか?」と聞かれて、思わず「はい」と答えた自分の声が妙にぎこちなく感じた。まるで、久しぶりに言葉を発した人みたいに。ほんの数秒のやりとりなのに、妙に嬉しくなってしまう自分がいた。

愛想笑いすら沁みる夜

「ありがとうございました〜」と笑顔で言ってくれたレジの店員さんに対して、こちらもつられて少しだけ笑ってしまった。たったそれだけなのに、その夜はなぜか少し気持ちが穏やかだった。人の声って、やっぱりあったかい。自分の生活に足りなかったのは、もしかするとそういう「ちょっとした会話」だったのかもしれない。

その一言で少し救われた気がした

コンビニの一言で救われるなんて大げさだと思うかもしれない。でも、声をかけられたという事実が、その日一日の「空白」を埋めてくれるようだった。誰かと会話したことで、「今日もちゃんと存在できた」と思えたのだ。こういう些細なことで救われる感覚は、ひとり事務所だからこそ、より強く感じるのかもしれない。

ひとり事務所という選択の裏側

自分で選んだ道だったはずなのに、孤独や不安がじわじわと染みてくる日がある。開業当初は「自由にできるし、気楽だし」と思っていたが、自由には責任がついてくる。そして、その責任を背負うのは、たった一人、自分だけ。ときどき、「本当にこれでよかったのか」と自問自答する。

経費削減のはずが、精神削られてる

事務所を回すうえで、経費を削ることは必要だ。だから最初はスタッフを雇わず、ひとりでなんでもやっていた。電話対応、書類作成、相談業務、掃除……全部ひとりでやるのは効率も悪いが、人件費がかからない分、安心感があった。けれども、気づけば削ったのは経費ではなく、自分の心だった。

人件費を抑えても寂しさは膨らむ

一人で何でもこなせば、確かにお金は残る。でも、笑い合う相手も、雑談を交わす時間もなくなった。そういう「無駄」と思われがちな時間が、実は心のバランスを取ってくれていたんだと気づくのに、だいぶ時間がかかった。仕事はこなせても、人間として何かが欠けていくような感覚がある。

「気軽に話せる誰か」がいない日々

仕事に行っても誰にも会わず、帰ってきても誰もいない。ひとりの時間が好きなはずだったけれど、こんなに毎日が無音だと、頭の中が反響してしまう。職場と家、両方に話し相手がいないというのは、思っていたよりもしんどいことだった。気軽に「今日ちょっと聞いてよ」と言える相手がほしいと思うようになった。

事務員との距離感の難しさ

ひとりだけ雇っている事務員さんとの関係は、悪くはない。でも、愚痴をこぼしたり、弱音を吐いたりするには、少し遠慮がある。仕事をお願いする立場として、あまり弱さを見せたくないという気持ちが邪魔をするのだ。結果的に、日々のストレスは自分の中にどんどん蓄積されていく。

愚痴をこぼす相手すらいない

「なんか最近疲れたなぁ」と呟いても、返事をしてくれる人はいない。もちろんSNSでつぶやくこともできるけど、それは一方通行だ。誰かに「大変だったね」と言ってもらえるだけで、ずいぶん救われることもあるのに。愚痴って、実は大事なガス抜きだったのだと、今さらながら思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。