「最近どう?」って聞かないでくれ――司法書士の日々と孤独の話

「最近どう?」って聞かないでくれ――司法書士の日々と孤独の話

その言葉に、返す元気がない日もある

「最近どう?」って、軽いあいさつなんですよね。分かってはいるんです。でも、なんでしょうね。あれを言われると、急に心がざわつくことがあるんです。特に、うまくいっていない日とか、心がささくれてるとき。なんだか、人生をざっくり要約して一言で返さなきゃいけないような、妙なプレッシャーを感じるんです。

たとえば、依頼が立て込んで夜遅くまで登記の書類を作ってるときに、LINEで「最近どう?」って来ると、「いや、聞かないでくれ…」と、つぶやきたくなる。こっちは今、必死なんですよって。そんなとき、雑談すら贅沢に思えてしまいます。

「最近どう?」の破壊力は侮れない

一見、なんてことない会話の導入なんですが、「最近どう?」には、思った以上に心を揺さぶる力がある。たぶん、その人にとっての「現在地」を問うからなんでしょうね。「今のあなた、大丈夫?」って聞かれてるような気がして、つい身構えてしまう。

うまくいっているときは、多少なりとも話すネタもあります。でも、何もかも中途半端だったり、誰にも見せたくない状態のときに「最近どう?」って聞かれると、まるで人に見せられない部屋を急に訪ねられたような気分になるんです。慌てて隠して、取り繕って、笑って…疲れます。

実際、うまくいっていないときってどう答える?

正直、「最近どう?」に対して、「最悪です」なんて答えられませんよね。せいぜい「まあまあかな」とか「ぼちぼちやってます」とか。自分でも何を言ってるか分からなくなるような、空気みたいな言葉でごまかしてしまう。

だけど、本当は答えたくないんです。「最近どう?」なんて、一言で説明できるほど、人生は整理整頓されてない。仕事は山積み、書類はぎりぎり、肩こりは限界。体調だって、ずっと微妙。でも、それを言っても仕方ない。そう思うと、答えずに済む距離感が一番楽です。

笑ってごまかすのも、だんだん下手になる

昔は、「まあね〜」と笑って流すのが得意だったんです。でも最近、笑顔がうまく作れないことが増えてきました。電話口でも、対面でも、どこかで心が引っかかる。「なんで、こんなに疲れてるのに、笑わなきゃいけないんだろう」と。

ある日のこと。古い友人と久しぶりに再会して、「最近どう?」と聞かれて、「まあ、死んでないよ」と冗談めかして返したんです。相手は笑ってました。でも、自分の中ではけっこう本気だった。そんな自分に、あとでしんみりしたのを覚えています。

司法書士という仕事のリアル

司法書士って、外から見ると「きちんとしてそう」とか「堅実」とか言われることが多い。でも実際は、全然そんなことない。日々の業務はバラバラで、思ったようにいかないことばかり。登記のミスは致命傷だし、書類は時間との戦い。おまけに、相談業務では相手の人生を預かるような気持ちにもなる。

正直、精神力の消耗がすごいんです。表に出さないだけで、毎日ギリギリです。だからこそ、「最近どう?」と聞かれても、「生きてるだけで精一杯です」としか答えようがない日もあります。

業務は多岐にわたるが、華やかさはゼロ

不動産登記、相続、商業登記、成年後見、遺言の相談…。いろいろありますが、どれも地味な作業の積み重ね。達成感はあっても、「わぁ、かっこいい!」と言われることはまずありません。書類の山と、チェックの繰り返し。誰かに見せたいような仕事じゃない。

それでも続けるのは、誰かの助けになっている実感があるから。でも、その実感が持てない日は、ひたすら自分との戦いになります。まさに、耐える仕事。

頼られても、誰にも頼れない日常

「司法書士さんにお願いしてよかったです」と言われることもあります。それは本当に嬉しい。でも、その一方で、こちらが誰かに頼りたいときは、誰にも頼れない。事務員さんも一人だけ。体調を崩したときなんて、休む余裕すらない。

一人で全部抱えることのしんどさは、誰にも話せません。人を雇う余裕も、育てる余裕もない。結局、自分がやるしかない。そうやって積もった疲れが、ふとした一言で溢れ出すんです。「最近どう?」――その一言で。

事務所経営は「一人相撲」

地方の小さな司法書士事務所なんて、本当に個人商店です。電話も、郵送も、面談も、会計も、すべて一人で回すようなもん。たとえるなら、土俵の真ん中で自分で自分に張り手しているような日々です。

相談が重なって気持ちが滅入ることもある。とくに相続や借金の話なんて、こちらも感情を揺さぶられる。誰かに「ちょっと代わって」って言えたらどんなに楽か…。でも、現実はそうもいかない。だから「最近どう?」なんて聞かれても、何から話せばいいのか分からなくなるんです。

事務員さんには気を遣いすぎてしまう

事務員さんが一人いるのはありがたいことです。でも、その分、気も遣います。こっちが忙しくて余裕ないときに、冷たい言い方しちゃったんじゃないか…ってあとから自己嫌悪。彼女が辞めたらどうしよう、といつも不安です。

頼りたいけど頼れない。仕事を振りたいけど、全部説明してる時間もない。結局、やっぱり自分でやる。そんな日々が続くと、どうしても孤独感が濃くなっていく。「最近どう?」と聞かれて、「孤独です」と本音を言えたらどんなに楽か。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。