朝イチの電話からすでに波乱の予感
今日も朝のコーヒーを口にする間もなく、一本の電話で一日が始まった。何度も経験しているが、予想外のトラブルというのはなぜか朝に集中する。特に月末や連休前、ただでさえ気持ちが急いている時に限って、そんな連絡が舞い込む。電話の内容は「書類に不備があるようです」とのこと。昨日確認して完璧だと思っていたのに。寝ぼけていたわけでもない、チェックリストも使っていた。それでもなぜか、見落としがあったらしい。司法書士になって20年近く、こういうことに慣れる日は来ない。
予定通りに進んだ日はない
自分の中で「今日は予定通りいけそうだな」と思う日ほど、現実は裏切ってくる。誰かの都合、書類の遅れ、依頼者の思いつき。まるで「隙があったら突っ込んでやろう」と天が監視しているかのような日々。昔、野球部で「油断するな」と監督に口酸っぱく言われたけど、今こそその言葉が身に沁みる。けれど、こちらがどれだけ完璧を心がけても、相手がいる以上「予定通り」はほぼ都市伝説。事務所のカレンダーはきれいに色分けされているけど、実態はほぼカオスだ。
スケジュール管理の無力さを痛感
予定表アプリもToDoリストも使っているけれど、どうしても「予定どおり」に収まる日は少ない。今日やるべきことの8割は、朝の時点では見えていなかったこと。お客さんから「すぐに登記して」と言われ、急いで役所へ、でも窓口で「この書類が足りません」と返される。その往復だけで午前中が潰れる。こんな状況が続くと、スケジュール管理そのものが意味を持たなくなってくる。まるで、バケツで砂を運んでいるような虚しさを感じることもある。
「急ぎ」と「至急」の違いに翻弄される
依頼者が言う「急ぎでお願いします」は、実際には「今すぐやれ」に近いことが多い。でもその「急ぎ」は、本人にとっての話であって、他の誰かには違う意味がある。さらに、法務局や他の関係機関の「至急対応」は、こちらの「至急」とは時空が異なる。そんな中で、複数の「急ぎ」に対応していると、どれが本当に急ぎだったのかすら分からなくなってくる。結果として、対応順を間違えたような罪悪感と、自分に対する苛立ちが残る。
よくあるトラブルよりも厄介なのは「予想外」
ある程度想定できるミスなら、まだ心の準備ができる。でも本当に厄介なのは「まさかそんなところが?」という、完全に想定外の出来事。たとえば、提出書類のフォーマットがこっそり変わっていたとか、依頼者の名字が戸籍上と一致していなかったとか。こちらがいくら注意していても、他人の情報までは完璧には拾えない。そういった見落としが重なると、「もうこれは運なのか?」という気分になってくる。
原因不明の書類トラブル
ある日、登記申請した書類が法務局で突き返された。理由を聞いても、担当者も「うーん、なんか…気になる点があって」と言葉を濁す。書式は合っている、添付書類も完備、何がいけなかったのか分からない。時間をかけて調べて、ようやく「あの欄は手書きじゃないとダメ」というローカルルールに行き着いた。マニュアルには書いていない、でも「前からそうなんです」と平然と言われる。こういうのが一番堪える。納得がいかないし、またどこかで同じことが起きそうで不安になる。
誰のせいでもないからこそ辛い
こういうトラブルって、誰かがミスしたというより、全体の歯車がちょっとずつズレていただけ。誰かを責めれば楽なんだろうけど、それは結局、自分に返ってくる。だからこそ、黙って受け入れるしかない。でも、黙っていても心の中ではモヤモヤが渦巻く。「こんなことがまた起きるのか」「防げたのではないか」と自問自答する毎日。そのうち、自分の見る目や感覚にまで疑いを持ち始める。まるで足元の地面が崩れていくような、不安定さを感じる。
「なんで今それ?」と思うタイミング
一番集中しているときに限って、タイミング悪く電話が鳴る。しかもそれが「今じゃなくてもいいだろう…」という内容だったりする。そんな時に限って、依頼者はやたらと饒舌で、こっちの状況を一切気にせず話し続ける。電話を切った後、「あれ、今何してたんだっけ」と思い出せなくなってしまう。ちょっとした割り込みでも、集中力はガクッと下がる。そしてその影響でミスをし、「またトラブルか…」と、悪循環に陥るのだ。
焦っても状況は悪化するだけ
焦ると判断力が鈍る。たとえば、書類を持って走って出かけたはいいが、肝心の印鑑を忘れて戻る羽目になるとか。焦って対処した電話の内容が実は違っていて、結果として二重対応になってしまったり。これが重なると、自分自身の信用まで揺らいでくる。周りには「いつもバタバタしている人」と思われていそうで、それがまたプレッシャーになる。結局、トラブルを早く片付けようとすればするほど、新たなトラブルを生む。皮肉な話だ。
事務員さんがいてくれて本当に助かっている
この事務所で唯一の救いは、長年一緒に働いている事務員さんの存在だ。細かい気配り、的確なサポート、そしてこちらが不機嫌になっても動じない対応力。何度助けられたか分からない。だけど、一人ではどうにも手が回らない部分もある。書類の準備から依頼者対応、雑務まで幅広くやってもらっているが、それでも限界はある。二人だけのチームでは、対応できる仕事量にはどうしても制限がある。
でも手が足りないのは現実
「もう一人雇えば?」とよく言われる。でも、地方の司法書士事務所にとって、それは簡単な話じゃない。人件費、教育時間、仕事量の波…。そもそも応募すらなかなか来ない。人手不足の中で、どれだけ丁寧に仕事をこなせるかが勝負になる。最近は、効率化のためにクラウドや自動化ツールも試しているけど、根本的に「人の手」が必要な部分は減らない。手を抜けばトラブルになるし、慎重になれば時間がかかる。この板挟みが一番つらい。
一人事務所の限界と葛藤
業務量が増え続ける中で、一人事務所という形態に限界を感じることがある。「もう法人化すべきか」「業務を絞るべきか」と悩むが、どれも簡単には決められない。これまでのやり方を変えることに対する不安、リスク、責任の重さ。でも今のままでは、心身ともにいつか壊れてしまいそうだ。そんな思いを抱えながら、今日もまた予想外のトラブルに振り回されている。