誰も見ていない深夜のテレビに慰められる夜
仕事を終えて帰宅する頃には、街はもう静まり返っている。コンビニで買った弁当を片手に、テレビをつけるのがいつものルーティンだ。誰かと話すでもなく、音のない部屋に映像が流れはじめる。深夜帯にやっている恋愛ドラマ。普段は見向きもしないようなジャンルだが、なぜかその日はチャンネルを変えなかった。何も期待していなかったけれど、心が少しだけあたたかくなった気がした。「ああ、誰かの物語に浸れる時間があるって、悪くないな」と思ってしまったのだ。
恋愛ドラマが流れる時間帯にしか癒されない現実
昼間は仕事に追われ、感情を押し殺して日々をこなす。そんな自分にとって、深夜のテレビは現実から逃げるための唯一の隠れ家かもしれない。恋愛ドラマは、嘘くさい展開や甘すぎるセリフが多いとわかっていても、なぜかそれがちょうどいい。現実では言えない言葉や、もらえない優しさがそこにはある。疲れた心にとって、現実味のない優しさは、意外にも癒しになる。笑われるかもしれないが、「バカバカしいな」と言いつつ毎週録画してしまっている自分がいる。
仕事終わりの深夜は孤独のピーク
司法書士という仕事柄、人と接する機会は多い。だが、それはあくまで業務としての関係であって、プライベートな孤独を埋めるものではない。夜遅くに帰宅して部屋の電気をつけた瞬間、部屋の空気が冷たく感じることがある。冷蔵庫を開けても何も入っていない。カーテンを閉める手が、妙に重たく感じる日もある。そんなとき、何気なくつけたテレビが、自分の気持ちを少しだけ救ってくれるのだ。
自分とは真逆の恋愛模様に涙が出る理由
画面の中の二人が、互いを思い合って不器用に近づいていく。その姿を見て、なぜか胸が締めつけられる。自分にはもう遠い話だと思っていた恋愛。でも、羨ましいと思ってしまう感情は、まだ心の奥に残っていたのだと気づかされる。誰かと心を通わせることが、こんなにも温かいものだったと、忘れていた気がする。ドラマの中の彼らが、まるで自分に足りないものを見せつけてくるようで、泣けてしまうのだ。
誰にも言えない気持ちを画面の中に重ねる
「大丈夫そうに見える」とよく言われる。でも本当は、毎日いっぱいいっぱいで、余裕なんて全然ない。誰かに弱音を吐くこともできず、ただ黙ってやり過ごすだけ。だからこそ、恋愛ドラマの登場人物たちが泣いたり、怒ったり、ぶつかったりしている姿が、やけにまぶしく見える。自分の中にある感情を代弁してくれているようで、つい見入ってしまう。
仕事で背負った疲れと向き合う時間
昼間は理性的にふるまい、業務をきちんとこなすのが当たり前だ。でも、その裏で処理しきれなかった感情が、夜になるとむくむくと湧いてくる。怒りや焦り、不安、寂しさ。それらを無理やり抑えつけたまま布団に入ることも多い。だが、ドラマの中で感情をぶつけ合うシーンを見ていると、少しずつその蓋がゆるむ気がする。画面越しに、ようやく「今週もしんどかったな」と認められるのだ。
「こんなふうに優しくされたい」と思ってしまう夜
疲れているとき、ふとしたセリフに涙が出そうになることがある。「君は頑張りすぎてるよ」「無理しないで」。そんな言葉を現実で言われたことがないからこそ、ドラマの中で聞くと、心にずしんと響く。自分だって本当は誰かに甘えたいし、受け止めてほしいと思っている。でもそれを口にするのは、恥ずかしくて怖い。だからこそ、ドラマの中にその願望を投影してしまうのかもしれない。
元野球部の自分が泣くとは思わなかった
高校時代、野球部で泥まみれになって走り回っていたころは、まさか将来、自分が恋愛ドラマを観て泣くようになるとは思ってもいなかった。「泣くのは負けだ」「甘えるな」。そんな言葉を浴びて育ってきた自分にとって、涙は弱さの象徴だった。でも、大人になってわかったのは、涙は我慢の果てに出るものだということ。そしてその涙は、どこかで誰かに見つけてほしいという願いでもある。
「男は泣くな」と教わった過去
昔の指導者や親から、「男は感情を表に出すな」と言われて育った。泣くことは恥ずかしいことだと思い込んでいた。実際、感情を押し殺してきたことで、仕事でうまく立ち回れた部分もあった。でもその分、心のどこかで感情が凍りついてしまっていたのかもしれない。だからこそ、テレビドラマのセリフ一つに涙があふれてしまうのだと思う。無意識に抑えてきた気持ちが、ドラマの中で解き放たれるのだ。
無意識に張ってきた見栄とプライド
「大丈夫です」と笑うクセがついてしまっている。仕事ではそれが必要だし、信用にもつながる。でも本当は、見栄を張っているだけなのかもしれない。「司法書士としてこうあるべき」「男としてこう見られたい」——そんなプライドが、気づかないうちに自分を縛っていた。恋愛ドラマの中で、不器用に気持ちを伝え合う登場人物たちを見ると、自分のプライドが馬鹿らしく感じる瞬間がある。
それが崩れるのは静かな部屋のテレビの前
仕事場では見せない自分が、夜中のテレビの前では出てしまう。ふとしたセリフに心を揺さぶられ、気づけば目が潤んでいる。誰にも見られない場所で、やっと自分を取り戻せるのかもしれない。ドラマは、物語を通じてこちらの感情を肯定してくれる。そしてその時間が、また明日を乗り切るための支えになっている。部屋の中でただ一人、自分にだけ流れる救いの物語。それが、夜中の恋愛ドラマだ。