恋愛よりもクライアントを優先してきた結果
司法書士という仕事をしていると、「一体いつ休んでいるの?」と聞かれることがあります。実際、土日祝も関係なく依頼が入り、恋愛どころか家族との時間すらまともに取れない時期が長くありました。特に独立してからというもの、全ての責任が自分にかかってくるため、恋愛にかまける余裕などありませんでした。気がつけば、女性とのやりとりよりも、クライアントからのメールや登記申請システムの画面の方が親密になっていました。
気づけば誰よりも返信が早い男になっていた
あるとき、知人に「お前ってLINEの返信めちゃくちゃ早いよな」と言われて気づいたのですが、それって全部、仕事のやりとり限定なんですよね。プライベートの連絡は既読スルーしてしまうことが多く、でもクライアントからの連絡には秒速で返す癖がついてしまっている。最初は意識的にやっていたんですけど、今はもう完全に条件反射。デート中でも電話が鳴れば「すみません」と言って出てしまう。これじゃ誰かと一緒にいる意味がないですよね。
恋人からのLINEよりクライアントの電話が気になる
過去に何度か交際のチャンスはあったんです。だけど、たまたまその人とのやりとりの途中で急ぎの案件が飛び込んできて、返信を後回しにしているうちに向こうの気持ちが離れていった。そんなことを繰り返していると、自分でも「誰かと関係を深めることに自信が持てなくなって」きます。結局、心の中にあるのは「このクライアントの対応が遅れたら損害が出るかも」という恐怖感。それに恋愛が勝てたことは、ほとんどありません。
着信音で鼓動が乱れるのは恋じゃなくて登記の催促
スマホの通知音が鳴るたびに、心臓がドキッとすることがあります。でも、それは好きな人からの連絡じゃないんです。たいてい「至急この登記をお願いできませんか?」とか「FAX届いてませんが」とか。そんな日々が続くと、誰かの愛情を受け取る感覚すら鈍ってくる。昔は通知音にときめいたこともあったのに、今では「面倒がまた来たな」と構えてしまう。通知音が恋の合図だった日々が懐かしく、少し寂しい気持ちになります。
書類には丁寧でも人間関係は雑になる
仕事柄、誤字や不備は命取りですから、書類作成にはものすごく神経を使います。でも、皮肉なことに、人間関係にはその丁寧さがまったく反映されていない。むしろ、余裕がなくなるとプライベートでのやりとりは雑になる一方で、どこか「気を遣いたくない」という気持ちが先に立ってしまう。恋人が欲しいと思う一方で、人と関わるエネルギーを注ぎたくない、という矛盾をずっと抱えています。
「ご返信ありがとうございます」には真心を込めて
クライアント宛てのメールには「丁寧だね」とよく言われます。「ご返信ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします」この定型文にも、なんとなく心を込めてしまう。変な話ですが、事務的な文面に人間関係のバランスを保つ術を見出してしまっている。これが唯一の人間関係の潤滑油になっているというのは、ちょっと寂しいことかもしれません。
それ以外の言葉はだんだん省エネになっていく
一方で、プライベートなメッセージはどんどん素っ気なくなっていくんですよね。「うん」とか「了解」とか、スタンプ1つで済ませてしまうこともある。相手が不満を持っても、「しょうがないよね」と心の中で片づけてしまう。きっとそれは、エネルギーを仕事に使いすぎて、他人に丁寧に向き合う余白がなくなっているからなんでしょう。書類には細かくても、会話はどこか粗い。そんな自分に気づいても、なかなか修正はできません。
野球部魂が変な方向に生かされてしまった
中学高校と野球部で鍛えられた根性は、確かに今の自分の土台です。理不尽な練習にも耐えたし、猛暑の中でも声を出して走っていた。でも、その根性、今では「深夜まで申請書を作る精神力」に使われてしまっている。あの頃の自分に「将来こんな使い方するぞ」と言ったら、たぶん泣くと思います。汗と泥じゃなくて、インクと疲労臭にまみれている日々。なんか違うなと思いながら、それでもやり抜いてしまうのが元野球部の悪い癖です。
泥まみれのグラウンドから書類まみれの机へ
昔はチームメイトと一緒に泥まみれになりながらボールを追いかけていたけれど、今は一人で山積みの登記簿と向き合っている。体を動かすことも減り、気づけば運動不足と肩こりがセットでやってくる。グラウンドの声援が恋しいわけじゃないけど、机の前にずっといると「人と一緒に頑張る」って感覚がだんだん薄れてくるんですよね。孤独な闘いには慣れたけれど、たまには誰かと「頑張ったな」と言い合いたくなるときもあります。
根性と返事の早さだけが武器だった
今も昔も、自分にあるのは根性と即レス能力だけです。恋愛もうまくできない、オシャレでもない、話もそんなに面白くない。でも、「助かりました!」と言われるとそれだけで報われる。恋人に褒められるより、クライアントに感謝されることの方が多い人生。それが良いのか悪いのかは分かりません。ただ、こんな自分でも必要とされている場所があると思えることは、たしかに救いでもあるんです。