どうしてこうなったのかという話
司法書士という仕事をしていると、日々いろんな種類のストレスと向き合うことになります。登記の申請書ひとつとっても、書類の正確性、期限、そしてお役所とのタイミングの綱渡り。その中で「うっかり」とか「たまたま」は許されない世界です。そんな中で起きた、提出5分前に申請書を自分の手でビリッと破ってしまったあの日のこと。あれは今思い出しても冷や汗が出るほどの体験でした。誰にでも起こりうる…かもしれないし、誰にも起きてほしくない、そんな悲劇の始まりです。
朝から怪しかった空気とコーヒーの苦さ
その日の朝はいつもより早起きできて、天気も良かったはずなんです。でもなぜか気持ちは晴れなかった。コンビニで買ったコーヒーも、いつもより苦く感じたのを今でも覚えています。事務所のドアを開けた瞬間に「あ、今日はダメかも」と根拠のない直感が走る。そんなこと、よくあるじゃないですか。妙にコピー機の音が大きく聞こえたり、事務員さんの「おはようございます」がどこか機械的に聞こえたり。そんな空気の中で始まった1日でした。
印刷ミスの連続で嫌な予感はしていた
提出予定の申請書は、前日の夜に一度印刷を終えていたのに、朝になって見返すと日付が間違っていた。焦って再印刷したら今度は物件の地番が前の案件のまま。そんなミスが3回も続いたところで、もう完全にリズムは崩れていました。時間に追われながら、確認も不十分のまま書類をプリンタにかける…そんな自分を「ダメだなあ」と思いつつも、提出の時間は刻々と近づいてくるわけです。
誰にも邪魔されたくない時に限って電話が鳴る
ようやく全ての書類が整い、印鑑も押して封筒に入れようとしたその時、事務所の電話が鳴りました。着信音がやけに耳障りで、一瞬手が止まりました。無視すればいいだけなのに、なぜか出てしまう。電話の相手は取引先の営業担当で、急ぎでもなんでもない話を長々と…。電話を切った瞬間、気持ちを切り替えて作業を再開しようとした手元が、ほんの少しズレてしまったんです。
申請書が破れるまでの地獄の30分
人生には「あ、終わったな」と思う瞬間が何度かあります。その日のそれは、間違いなくそのひとつ。封筒に入れようとした申請書の角が微妙に引っかかって、それを無理に引き抜こうとした拍子に、「ビリッ」という音が…。静まり返った事務所にその音だけが響きました。目の前には、右上が斜めに裂けた申請書。パニックになりかける自分を、必死に抑えようとした30分間の話です。
印刷してハンコを押して封筒に入れて
基本の流れは何度もやっている作業です。慣れているからこそ油断する。印刷も終わり、印鑑も押し、封筒に入れる――ただそれだけ。なのに、ちょっとした引っかかりに苛立って力任せに引いたあの瞬間。紙ってこんなに簡単に破けるものだったか、としばらく現実が受け入れられませんでした。何とかなる…わけない。でも諦めるにはまだ早い。手は震え、頭はフリーズ。とにかく、もう一度やるしかなかったんです。
事務員さんの声で一瞬手元が狂った
不思議なことに、人の声って予想しないときにすごく影響を与えるんです。私が封筒に手を伸ばしたまさにその瞬間、事務員さんが「さっきの申請書、日付は直したんですか?」と聞いてきた。その声に反応して一瞬手が緩んだ。その一瞬で、紙が裂けた。何の罪もない事務員さんに八つ当たりするわけにもいかず、ただ自分の中で小さく「うわぁ…」と叫ぶだけでした。地味にきつい、そういうやつです。
ビリッという音だけが耳に残っている
破けた紙の音って、なぜあんなに耳に残るんでしょう。静寂の中で、それだけがはっきりと記憶に刻まれている。再印刷すれば済む話…かもしれません。でもそのときの私は、「今日の俺はもうダメだ」と決めつけてしまっていた。間に合わない、提出できない、信用を失う…そんな考えが頭の中をぐるぐる回って、冷静さなんてどこにも残っていませんでした。
いややっぱり今も笑えない
この記事を書いてる今、少し笑い話にしようとしてますが、正直まだ全然笑えません。傷は浅くないです。申請書は再提出できましたし、依頼者にも迷惑をかけることはありませんでした。でも、あのとき感じた自己嫌悪と孤独感は、簡単には消えません。たかが一枚の紙かもしれないけれど、そこに込めた時間や責任が破れたわけですから。
役所の閉まる時間が妙に早く感じた
再印刷を終えて役所に向かう途中、やけに時間が早く進んでいるように感じたのを覚えています。信号も全部赤だったような気がするし、駐車場もいっぱいだった気がします。たぶん全部、気持ちの問題なんでしょうけど。無事に提出できたときは心底ホッとしましたが、代償にものすごく疲れました。「あの五分」が、人生の三時間分くらいに感じました。
それでも提出しなきゃ終わらない
いくら自分を責めたところで、誰かが代わりに提出してくれるわけじゃない。破れた申請書を前にして、やるべきことはひとつ。再印刷して、再捺印して、再封入して、走る。それしかありません。愚痴は後回し。反省は後回し。仕事ってそういうものなんだなと、あらためて思い知らされました。
破れた紙を見ながら自分を責める
破れた申請書はゴミ箱に捨てられず、しばらく机の端に置いてありました。見るたびに「お前が破ったんだぞ」と責められているようで、なかなか処分できなかったんです。でもそれって、自分が自分を許せなかっただけなんですよね。今思えば、もっと早く捨てて、さっさと次に進めばよかった。だけど、そのときは無理でした。
誰も悪くないけど自分は許せない
この仕事、誰かのせいにできることってあまりないんです。書類ミスも、遅延も、忘れ物も、基本は自分の責任。だからこそ、自分を責める癖がついているのかもしれません。今回の件も、誰も悪くなかった。でも「なんであのとき電話に出たんだ」とか「確認ちゃんとしとけば」とか、頭の中で自分を何度も責めてしまう。それがきついんですよね。
誰かに言いたかっただけかもしれない
こんなこと、誰かに話したからって状況が変わるわけじゃない。でも、それでも言いたい。誰かに笑ってほしい。共感してほしい。「俺もやったことあるよ」と言ってほしい。そんな気持ちで、この記事を書いています。共感してくれる誰かがいてくれたら、少しだけ救われる気がします。
共感してくれる誰かがいると思いたい
独身だし、話す相手もそんなにいないし、愚痴ってもどうせ「気にしすぎ」って言われるだけ。それでも、この記事を読んでくれた誰かが、「ああ、俺もやったな」とか「わかるよ、その感じ」と思ってくれたら、それで十分です。共感の力って、思ってる以上にすごいですから。
また一つネタが増えたと前向きに言えたら
こんな話でも、いずれ「それでね、ビリッて破っちゃったんだよ」って笑って言える日が来るかもしれません。…いや、まだ無理か。でも、ネタにできるようになる日はきっと来る。そのときには、またこうして記事にして、誰かと一緒に笑えるようになっていたいです。