今日は何回印鑑くださいって言ったんだろう

今日は何回印鑑くださいって言ったんだろう

印鑑くださいが日常のBGMになっている

今日も朝から「印鑑ください」——この言葉を何度口にしただろう。もはや自分の声のイントネーションすら、印鑑を求めるとき専用になっている気がする。地方の小さな司法書士事務所で、たった一人の事務員に何度も声をかけて、印鑑を預かって、押して、返して……この一連の流れが毎日のように繰り返される。業務の効率を求めたい気持ちはあるが、何かを省くとすぐに役所から突き返される現実がある。だから結局、今日も律儀に「印鑑ください」なのだ。

気づけば一日が「印鑑ください」で始まり「印鑑ください」で終わる

朝イチで出す登記申請書、その準備段階から印鑑ラッシュは始まる。朝のコーヒーよりも早く、「印鑑ください」と口にしている日だってある。午後になっても、送られてくる追加書類に目を通しては印鑑、クライアントが持ってきた委任状に目を通しては印鑑、終わる気配がない。気づけば、今日の発言ランキングの1位どころかベスト5を「印鑑関連ワード」が独占していた。こんなに印鑑に執着してるの、日本くらいじゃないかと思いながらも、結局また口が動く。「印鑑、お願いします」

もはや事務員との会話の半分がそれ

「これ、押しといてもらえますか」「はい、印鑑ください」このやり取りだけで、どれだけの会話を消費しているのだろう。事務員の顔を見るたびに印鑑を頼んでいるせいか、たまにふとした雑談をしようとしても、「また印鑑ですか」と先回りされる始末。コミュニケーションというよりは、業務反射。昔はもう少し和やかだった気もするが、仕事に追われる今では、会話は簡略化され、印鑑が言葉の中心になってしまった。なんだか寂しい気もするが、それが現実だ。

AIも自動印鑑押してくれたらいいのにと思っている

デジタル化が進んでいるとはいえ、こと司法書士の世界では印鑑文化がなかなか根強い。電子署名?電子認証?たしかに制度はあるが、役所の窓口に行くと「実印をお願いします」とにっこり言われると、全てが台無しになる。AIが進化しても、押印作業を完全に代替する未来はまだ遠い気がする。せめてAIが「ここに印鑑必要だよ」と教えてくれればいいのに、と一人つぶやきながら、また朱肉を手に取っている。

「何のための確認か」分からなくなることもある

確認して押印して、また確認して…その繰り返しが一日中続く。だが、ふと気づくのだ。「これ、本当に自分が全部内容をチェックして押してる意味ある?」と。疲れた脳に、ルーチンワークは容赦なく襲いかかってくる。気を抜いたらミス、それがこの仕事の宿命だ。だけど、チェックした本人がその内容を正確に覚えていないことだってある。印鑑を押すという行為に、自分の責任を押し込めているようで、時々怖くなる。

書類が多すぎて、内容より印鑑の数が気になる

登記申請の添付書類、契約書、委任状、印鑑証明……これだけ毎日見てるのに、内容より先に「印鑑足りてるか?」が気になるようになってしまった。逆に言えば、印鑑がなければ申請は進まない。だからこそ印鑑に対して神経質になる。書類の束を見て、「あ、あと3回は印鑑押さないと」なんて数えるようになると、もはや何の仕事をしてるのかわからなくなってくる。

確認作業はもはや惰性との戦い

毎日同じような書式、同じような流れ。確認作業は惰性になりがちだが、それをやらないと痛い目を見るのがこの仕事だ。特に、押印漏れ。たった1つの印鑑が抜けていただけで申請却下。泣きながら事務所に戻ったこともある。だからこそ、確認に確認を重ねるのだけど、その繰り返しが心をすり減らしていく。誰かが代わってくれたらいいのに、と思っても、それができないのが司法書士という職業のつらいところだ。

「印鑑」ってそんなに必要か?と毎日思ってる

印鑑が法的効力を持つ日本独自の文化には、それなりの理由があるのだろう。でも、それにしても多すぎる。もう少し簡略化できないのか、もっと効率的にできないのかと、日々思わされる。紙の書類と印鑑に縛られる毎日が、昭和の時代から抜け出せないような閉塞感を漂わせている。ときどき、無人島で暮らしている方が気楽じゃないかと思うほどだ。

本当にそれ、実印じゃないとダメですか?

銀行印、認印、実印、シャチハタ——種類は色々あれど、使える場面は明確に分かれている。だが、現場では「実印でお願いします」と言われるたびに、本当にそれ必要?と疑問が湧く。特に高齢のお客様にとって、実印の管理は難しい。それでも、実印じゃないとダメなんですよね…と言いながら説明するのは、こちらも胸が痛む。制度と現実のギャップを感じながら、今日もまた「実印いただけますか」と頭を下げる。

シャチハタで押したい気持ちをぐっとこらえる

一人で事務所にいて、急ぎの書類が積まれているとき、ふと「これ、シャチハタでちゃちゃっと…」という悪魔のささやきが聞こえる。でも、それをやったら終わりだと分かっている。だからこそ、シャチハタは引き出しの奥にしまってある。見えると誘惑されるからだ。シャチハタに手を伸ばす瞬間は、ルールとスピードのはざまで揺れる人間らしさが出てしまう。

役所の壁は厚くて重たい

書類を出しに行って、「あ、これ印鑑違いますね」と言われる瞬間の絶望は、慣れていても心にくる。こっちは徹夜で作った書類、向こうは一言で返却。そのギャップが悔しい。でも、役所側もルール通りにしか動けないのは理解している。だからこそ、もう少し制度自体を柔軟にしてくれたら…と願ってしまう。壁は厚い。だからこそ、乗り越えるのが苦しい。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。