静けさすら感じない夜に
夜になると本来は静けさが訪れるはずなのに、最近の私はそれすらも感じられなくなってきた。時計の針の音も、冷蔵庫の低いうなり声も、かつては「一人でいるな」と思わせてくれた小さな音だったはずだが、いまはただの背景音になってしまった。日中の業務に追われすぎて、頭の中で一日中タスクのリストがぐるぐる回っている。眠る前のほんのひとときさえ、自分を取り戻す暇がない。
帰宅しても気持ちのスイッチが切れない
夜、事務所を閉めて家に帰っても、身体だけが帰宅して心はまだ仕事場に置いてきてしまったような感覚になる。昔は夕飯を作る気力くらいはあったけど、最近はコンビニ弁当と缶ビールが定番になってしまった。椅子に座ったまま気づいたら1時間、スマホをぼんやり見ているだけ。なんとなく「これでいいのか」と思う瞬間はあるが、変える気力もない。
仕事のことを考えるクセが抜けない
業務終了後も「あの登記の添付書類に不備なかったか」「依頼主への返信は明日で大丈夫か」などと、頭の中でチェックが止まらない。たとえば元野球部だった頃は、試合が終われば「おつかれ!」で切り替えができた。でも今の仕事は、その切り替えのタイミングが曖昧すぎる。終わった気がしない。翌日の準備を始めてしまうから、終わりがない。
机の上の書類が頭の中にも積もっている
デスクの上にどんどん積み重なっていく書類。それを見ているだけで、頭の中にも同じように積もっていく感じがする。「あれも」「これも」と思考が分裂していく。事務員にはあまりプレッシャーをかけたくないから、自分で抱えてしまう。結果、夜になっても片付かず、自宅にいても頭は完全に事務所モード。これでは寂しさにすら気づけない。
寂しいはずなのに寂しくない
本来なら「ひとりの夜」は寂しいものだ。でも最近は、そんな感情を感じる余裕すらなくなっている。それが逆に恐ろしくなってくる。昔は、孤独な夜に誰かの声が聞きたくなったりした。友人に電話をかけることもあったし、SNSで誰かとつながることに安心したこともある。けれど今は、誰にも連絡をとろうという気持ちすら湧いてこない。
感情を置き去りにして進む毎日
忙しさに飲まれてしまうと、自分の感情を観察する時間がどんどんなくなっていく。怒りも悲しみも、うれしさでさえも、鈍感になってきた。何かが麻痺してしまったような感覚。このまま感情を失ってしまったらどうなるんだろう。依頼者の気持ちには敏感でいようとしているのに、自分の心の声は聞こえなくなっている。
「忙しい」ことに守られている気がしていた
もしかしたら、自分で「忙しさ」という盾を使って、寂しさや空虚さから目を逸らしているのかもしれない。四六時中スケジュールが埋まっていれば、「ひとり」であることに気づかずに済む。けれど、それは「心が元気な状態」とは言えない。誰にも頼らず、誰にも頼られず、ただ時間を消費しているだけのような日々。
だけど本当は誰かと話したい夜もある
たとえば夜中にふと目が覚めたとき、「誰かが隣にいればな」と思う瞬間がある。そんな時、自分が本当は寂しがり屋だったことを思い出す。誰かと何気ない話がしたい。くだらない冗談で笑いたい。でも現実は、寝る前に独り言で「明日の登記は午前中か…」なんてつぶやいて終わる。
誰にも頼れないという思い込み
事務所の責任者という立場である以上、弱音を見せられないと勝手に思い込んでいる。事務員にまで気を遣わせてしまったら意味がないと考えて、ますます自分を押し殺してしまう。けれど、本当に誰にも頼れないのだろうか。もしかしたら、ただ自分がそう決めつけているだけなのかもしれない。
地方の事務所で感じる閉塞感
都会のように情報があふれているわけでもなく、気軽に飲みに行ける相手も少ない。近所の飲み屋は常連ばかりで、入りづらい雰囲気もある。気づけば家と事務所の往復だけ。景色が変わらない日々に、何かを変えたいと思うことすらなくなってきている。
事務員の前では気丈に振る舞ってしまう
事務員の子は若くてしっかりしている。でも「先生、大丈夫ですか?」と聞かれても、「全然平気」と反射的に答えてしまう自分がいる。本当は疲れていても、それを見せたくない。年上としてのプライドや、上司としての責任感が、素直になることを邪魔してくる。
それでも明日は来る
どれだけ疲れていても、どれだけ心が空っぽでも、朝はまた来る。郵便受けに書類が届き、電話が鳴り、登記の準備が始まる。淡々と日々が続くけれど、その中で少しずつでも「自分を取り戻す時間」を増やしていけたら、また違った夜がやってくるかもしれない。
朝が来ることに感謝できる日を目指して
今はまだ「朝が来るのが憂鬱だ」と思ってしまう日が多い。でもいつか、朝の光をありがたく思える日がくると信じたい。そのためには、もう少し自分に優しくしてもいいのかもしれない。少し早く帰る日を作る。夕飯を温かいものにする。そんな小さな積み重ねが、きっと夜の孤独をやわらげてくれると信じている。