感謝の気持ちはあるのに言葉が出ない
「ありがとう」って、たった五文字の言葉なのに、なぜか喉元で止まってしまうことがある。仕事をしていると特にそうだ。言わなくても伝わると思っていた。けど、伝わらない。むしろ、言わなかったことが余計な誤解を生むことすらある。自分では心の中で感謝していたつもりでも、それが態度や表情に出ていないと、相手には「冷たい人」と映ってしまうんだろうな。
頭ではわかっているのに、なぜか言えない
感謝は大切だ、と言われて育ってきたし、実際その通りだと思っている。けれど、現実にはなかなか言えない自分がいる。忙しさにかまけて、余裕をなくして、感謝よりも「早くして」とか「どうなってるの?」が先に口から出てしまう。言いたいのに言えない、そんな自分に何度も自己嫌悪した。相手が優しいほど、自分の不器用さが浮き彫りになるのがつらい。
ありがとうって、簡単なようで難しい言葉
「ありがとう」は、言う側が強くならなければ言えない言葉なのかもしれない。感謝は弱さじゃない。むしろ、ちゃんと認めて、口に出せる人こそが強いのだと思う。でも自分は、強がってしまう。司法書士という仕事柄、常に冷静でいなきゃと力んでいるうちに、素直な感情を押し殺してきた。そんな自分を変えたい気持ちと、変われないままの現実がせめぎあっている。
素直になれなかった自分が悔しい夜
夜、ふと静まり返った事務所で、事務員さんが帰った後の空間に一人でいると、「あのとき、ありがとうって言えばよかった」と後悔が押し寄せる。何でもない一日の終わりに、ちょっとしたフォローや気遣いをしてくれたことに、本当はすごく感謝していたのに。自分の心の中だけで終わらせてしまったことが、今でも胸に残っている。もう一度だけ、その瞬間に戻れたら、きっと言えるのに。
忙しさに追われて、気持ちを置き去りにしてしまった
仕事が立て込むと、どうしても「ありがとう」よりも「次の書類は?」が優先になってしまう。気づけば相手の顔も見ずにやり取りしていたりする。事務員さんも、最初の頃は「はい」と返事をしてくれていたけど、最近は無言で書類を渡してくることが増えた。それはきっと、僕の態度が変えたんだろうと思う。言葉をかけなくなると、関係まで乾いていくように感じる。
事務所の中のたった一人の支えに
事務所には僕と事務員さん、二人だけ。彼女がいなかったら、正直この仕事は回らない。登記の手配、書類の整理、電話対応まで、僕が気づかないところまで目を配ってくれている。けれど、それが当たり前になってしまうと、感謝することすら忘れてしまう。「できてて当然」という傲慢な考えがいつの間にか根を張っていて、自分でも情けなくなる。
言葉じゃなく態度で伝えたつもりだったけれど
「ありがとう」って言わなくても、仕事のやりとりで伝わるだろう。そんなふうに考えていた時期があった。でも、言葉じゃなきゃ伝わらないこともある。ある日、事務員さんがこぼした一言。「私、何かまずかったですか?」——その言葉に、ガツンとやられた気がした。無言の圧って、案外伝わってしまうものなんだなと痛感した。
口にしないと伝わらないという当たり前のこと
ありがとう、ごめんね、お疲れさま。そんな当たり前の言葉たちが、どれほど人間関係を滑らかにしてくれるか。頭ではわかっているのに、それを日常の中で丁寧に扱えない自分がいる。だから、意識して口にする練習をしようと思った。「今日も助かりました」「いつもありがとう」——たったそれだけの言葉で、お互いの距離がふわっと近づく瞬間を、大切にしたい。
誰かの「ありがとう」に救われたこともある
実は自分も、誰かの「ありがとう」に心を救われた経験がある。依頼人から、登記完了後にふと漏らされた「助かりました、本当にありがとう」の一言。それだけで、「やっててよかったな」と思えた。人に感謝されるということは、自分の存在が誰かの役に立ったという証明だ。その喜びを知っているからこそ、自分も誰かに同じ思いを届けられる人間でありたいと思う。
依頼人からの何気ない感謝の言葉
登記が終わり、説明がすべて終わった後、ふっと依頼人が笑顔を見せて「ありがとう」と言ってくれた。それは義務感ではない、本心からの言葉だったように思う。その一言を聞いたとき、自分がどれだけ日々の仕事で感謝されることを求めていたのかに気づかされた。誰もがそうだ。承認されたい、必要とされたい——その気持ちがあるからこそ、感謝の言葉には意味がある。
「言われ慣れていない」と気づく自分
そのとき気づいたのは、自分は「ありがとう」と言われ慣れていないということ。逆に言えば、人にそう言われるような関係を築くことを、怠っていたのかもしれない。感謝されるには、まず自分が相手に寄り添わなければならない。信頼されるには、信頼を返す覚悟が必要なのだと思う。感謝の言葉は、一方通行では成立しない。だからこそ、日々の積み重ねが大事なのだ。
もらった言葉の重みを胸に刻む
あの日の「ありがとう」は、今でも自分の胸の中に残っている。仕事に迷ったとき、誰のために頑張っているのか見えなくなったとき、ふとその言葉を思い出す。感謝の言葉は、形には残らない。でも、心には確かに刻まれる。そんなふうに人の心に残る言葉を、自分も誰かに届けていきたいと思う。だからこそ、次こそは——ちゃんと、ありがとうを言おうと思う。