あたたかい布団だけが救いだった日々

あたたかい布団だけが救いだった日々

朝が来るのが怖いそんな気持ちになる日もある

司法書士という仕事は、時に「戦場」と言っても差し支えない。いや、戦場なんて言葉を使ったら本物の戦場にいる人に怒られるかもしれないけれど、それでもやっぱり「明日が来るのが怖い」と思ってしまう朝がある。書類の山、問い合わせの電話、期限ギリギリの登記、そして一人で抱える重圧。朝が来ると、それらが一気に自分の体にのしかかってくるのがわかる。だから目覚ましが鳴るその瞬間が、一日の中で一番嫌いだ。

目覚ましが鳴る瞬間の絶望感

毎朝5時50分。携帯のアラームが鳴る。「ピピピッ」というあの音が、心臓を刺すように響く。たぶん目覚まし時計のせいじゃない。鳴った瞬間に「また始まってしまった」と思ってしまう自分の心の問題だ。目を開けると、薄暗い天井と冷えた空気。もう少し寝たいけど、そういうわけにはいかない。布団の中のぬくもりと、これから向かう現実の冷たさの落差に、心がついていかない。

もうひと眠りが許されない職業

サラリーマン時代は「もう5分…」なんてスヌーズを押していたこともあった。でも、司法書士になってからはそんな余裕はどこかに消えた。今日中にやらなきゃいけない登記、役所へ出す書類、時間に間に合わなければすべて自分の責任。ひと眠りの代償が大きすぎる。だからどんなに眠くても、どんなに体が重くても、起きなきゃいけない。目を閉じたまま時計を見る時間が、一番現実逃避している時間かもしれない。

「休んだら誰がやるの」と自分に言い聞かせる

インフルエンザになったときも、喉が腫れて声が出なくても、結局は仕事をしていた。だって、休んだらその分の仕事が後に回るだけ。代わりはいない。事務員さんが一人いるけど、登記の内容まで全部任せるのは難しい。自分がやらなきゃ回らない。それが開業して一番感じた現実。「誰かに頼れる日が来るだろうか」なんて、ぼんやり考える朝もある。

あたたかい布団に包まれている間だけが平穏

事務所でバタバタしながら過ごす一日。家に帰ってやっとひと息つく。そして、夜、布団に入る瞬間がやってくる。冷えた足を布団の中に入れた瞬間の、あの何とも言えない安堵感。湯たんぽを仕込んだ夜なんて、もう天国のようだ。布団だけが、何も言わずに自分を包み込んでくれる。誰にも文句を言われず、責任もなく、ただそこにいてくれる存在。それが今の自分にとっての「救い」だったりする。

仕事中の冷えた心を溶かしてくれる唯一の時間

顧客とのトラブル、登記のミス、書類の催促。心が冷えていく日々が続くと、感情すらも麻痺してくる。そんな中でも、布団の中だけは無条件であたたかい。人の言葉には棘があるけど、布団のぬくもりには何もない。ただ静かに包んでくれる。元カノのことを思い出す夜もあるけれど、それさえも優しく受け止めてくれるのが布団だった。

布団にくるまる瞬間だけが無条件に優しい

布団の中では、自分はただの「生き物」に戻れる気がする。役職も責任もなく、元野球部だとか司法書士だとか、そんな肩書きがすべて消える。誰かに評価される必要もなく、自分を守る言い訳も不要になる。あたたかいというそれだけで、布団は優しい。仕事で冷たくなった手を温めてくれるそれだけで、少し涙が出そうになる。

独身という現実と向き合う前の小さな逃げ場

同級生はみんな家庭を持って、子どももいる。休日にSNSで家族写真を見かけると、苦笑いしか出てこない。でも、布団の中ではそんな現実からほんの少しだけ逃げられる。「ああ、誰かと一緒に眠れたらな」なんて思うこともあるけれど、それを布団に押し付けたっていいじゃないか。少なくとも、自分には「今日も頑張ったな」と言ってくれる誰かはいないんだから。

一人きりの夕飯と書類の山

夕飯はたいていコンビニ。自炊する気力は残っていない。家に帰ると、仕事の続きをちょこちょこと進めながら、冷えた飯を流し込む。机の上には書類が散乱し、片づける気も起きない。そのまま眠くなって布団へ直行する日もある。生活の質なんてどこへやら。だけど、誰かに迷惑かけてるわけじゃない。そう言い聞かせながら、また明日に向けて自分を騙す。

人恋しさはあっても繋がる元気がない

誰かと話したい、と思う日もある。でも、LINEを開いても送りたい相手がいない。マッチングアプリは気まずくて続かない。誰かに気を遣ってまで会話をする元気もない。事務員さんに相談するような内容でもないし、結局、心の中にしまいこんでしまう。せめて猫でも飼えたらと思うけれど、家を空けることが多くてそれも難しい。

事務所と自宅の往復だけの毎日

朝、事務所へ行って、夜、自宅へ戻る。それだけの毎日。変化のないルーティンに、心も体も少しずつ擦り減っていく。たまに気分転換しようと遠回りして帰ってみるけど、結局は何も変わらない現実が待っている。仕事があるだけマシだろう、と言われることもあるけれど、心の声は別だ。「もう少し、楽に生きられないかな」と、毎日どこかでつぶやいている。

誰かと笑いながらご飯を食べたいと思っても

元野球部だった頃は、仲間と一緒に食堂で大声で笑っていた。今じゃ、笑うことすら少なくなった。テレビのバラエティ番組を見て無理に笑ってみても、心はどこか乾いている。誰かと他愛もない話をしながら、あたたかいご飯を食べたい。ただ、それだけのことがとても難しい。そう思う自分に気づく夜、また布団に逃げる。

寝る前の愚痴とため息のルーティン

毎晩、布団に入ると一人反省会が始まる。「あれもできなかった」「また怒られた」「明日も同じことの繰り返しか」。ため息をついて、ふと天井を見上げる。こんな生活、いつまで続けるのかと思いながら、でも辞める勇気もない。愚痴ばかり言ってても仕方ないと分かっていても、口からこぼれる言葉はどれもネガティブだ。

「今日もダメだったな」と独り言

人間って、思っている以上に言葉に左右される。毎晩「ダメだったな」って言っていたら、本当にダメ人間になってしまいそうだ。でも言わずにはいられない。今日は誰とも話していない、誰にも褒められていない、誰にも感謝されていない。だったらせめて自分くらいは、自分の頑張りを否定してもいいだろう。そんな妙な理屈で、自分をいじめる。

夢にまで出てくる案件と電話対応

寝ているのに、夢の中でも登記簿を見ていたりする。お客さんからのクレーム対応が夢の中で始まって、汗をかいて目が覚めることもある。司法書士という職業は、仕事と生活の境界が曖昧すぎる。寝ても覚めても気が抜けない。朝起きた瞬間から緊張し、夜寝る前まで神経を張っている。そりゃ、心も体もすり減るよなと思う。

元野球部なのにこんなに弱くなったのか

高校時代、炎天下でグラウンドを走り回っていたあの頃。あのときの体力と根性はどこへ行ったんだろう。あの頃は、自分はもっと強い人間だと思っていた。今の自分を見たら、あの頃の自分はどう思うだろうか。だけど、もう昔には戻れない。今はこの現実の中で、あたたかい布団に救われながら、なんとか明日も生きようとしている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。