相続の手続きをしながら自分の未来が怖くなる日

相続の手続きをしながら自分の未来が怖くなる日

相続の手続きが日常になって気づいたこと

司法書士として日々、相続のご相談を受ける中で、ある種の「慣れ」が生まれてきました。誰かが亡くなり、残された家族が遺産を整理する——そんな風景が自分にとっては日常です。でも、ある日ふと、「自分が亡くなったとき、誰がこの手続きをしてくれるんだろう」と思ってしまったんです。自分の未来が、ぽっかりと空白になっている感覚。その瞬間、目の前の書類がやけに冷たく感じました。

誰かの人生の終わりを毎日見ているということ

相続の仕事って、いわば「終わった人生の整理整頓」です。人の人生のラストを淡々と処理していく。亡くなった方の生き方が見えてくる書類たち。でも、ふと立ち止まると、そこに映るのは他人の人生ばかり。自分のこととなると、まるで見えてこない。誰かの最後を片づけながら、自分の「終わり方」を考えてしまうことが増えました。

死後の整理を淡々とこなす自分

例えば、ある日依頼された案件。長年ひとりで暮らしていた男性が亡くなり、遠縁の親戚が手続きを依頼してきた。家の中は片づいておらず、遺品も誰も引き取らない。形式的に書類を進める中、ふと「これ、将来の自分かもしれない」と思ってしまったんです。誰かの死が、自分の未来の写し鏡のように感じられて、背筋が寒くなりました。

感情を置き去りにしたプロとしての顔

もちろん仕事ですから、感情を引きずっていたら進まない。でも、「淡々と処理する」ことが、自分の感情を押し殺してるように思える時もあります。お客様の前では平然を装っていても、帰り道にコンビニのビール片手に、どっと疲れが出るんです。「自分はこのままでいいのか」って、問いが浮かんでも、答えを出す時間も気力もない。そんな日々です。

書類を作りながらよぎる「自分はどうなる」の不安

たとえば遺産分割協議書を作っている時、ふと「自分には分けるほどの財産なんてないな」と思うことがあります。マンションもなければ、子どももいない。通帳を見ても、日々の生活で消えていく金額ばかり。「先生はしっかりしてるから将来安泰ですね」と言われた数分後、自分の年金定期便を見て青ざめる。このギャップに、気持ちが沈むこともあるんです。

他人の未来は整理できるのに自分の未来は見えない

仕事では「この家は売却して相続税対策をしましょう」なんて提案もします。でも自分はというと、老後の住まいすら決めていない。この業界に入った頃、「いずれは法人化して職員を増やして…」なんて夢もあったけど、気づけば事務員さんひとりと回している小さな事務所。それも大事だけど、ふと「これでいいのか」と思ってしまう瞬間があるんです。

老後のイメージがまったく湧かない

テレビでは「老後2000万円問題」が流れていても、なんだか他人事のように聞いてしまう。でも現実には、国民年金だけで暮らす未来はかなり厳しい。かといって投資に回す余裕もないし、今の仕事がいつまで体力的に続くのかもわからない。だからと言って何もできず、ただ時間だけが過ぎていく。そんな焦りが、じわじわと心を締めつけてきます。

事務所を支えるという責任とプレッシャー

独立してから十数年。なんとか事務員さん一人を雇って回しているけど、正直、ギリギリです。人件費、家賃、光熱費、広告費、すべてを一人で背負っている感覚。毎月の入金が遅れるだけで胃が痛くなる。それでも「先生、今月もよろしくお願いします」と笑ってくれる彼女に、せめて安定した環境を保ちたいと必死です。

事務員の生活を背負う重さ

ある日、「実家に帰るか迷ってるんです」と事務員さんに言われたことがありました。頭の中で「やめないでくれ」と叫びながらも、「そうなんだ、無理はしないでね」としか言えなかった。もし彼女が辞めたら、事務所は一気に回らなくなる。業務の大半が自分一人にのしかかる。その不安が、夜中にじわじわ襲ってくることもあります。

「辞めたい」と言われたらもう回らない

事務員一人で回してる事務所って、実はめちゃくちゃ脆いです。風邪で一日休まれるだけでも、スケジュールがズレ込む。でも、求人を出すお金も余裕もない。今の人材に甘え続けるのも限界がある。じゃあ、自分がもう少し余裕をもてば?と問われても、そんな簡単に変われるほど、司法書士の仕事は甘くないと感じています。

守る人がいるのに自分は守られていない

誰かを雇うってことは、守る責任が生まれる。でも、ふと我に返ると「自分を守ってくれる人って誰だろう」と思う。家に帰っても誰もいない、LINEを開いても業者からのメッセージばかり。事務所では“先生”でも、家ではただの一人の男。誰にも弱音を吐けないまま、ビール片手にパソコンの前で一人愚痴ってる夜が、積み重なっています。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓