心が風邪ひいても誰も気づかない町の司法書士
朝から倦怠感司法書士にも疲れる日がある
いつものように目覚ましのベルが鳴ったが、まぶたが持ち上がらない。頭の中に霧がかかっている。体温計を口にくわえても、36.4度。熱はない。だが、どうにも動きたくない。「心が風邪ひいたんじゃないですか?」かつて読んだ漫画の台詞が頭をよぎる。
事務所へ向かう道、町並みはいつもと同じ。だけど自分だけがモノクロの背景に立っている気分だ。
いつものようでどこか違う朝
「おはようございます」
サトウさんの明るい声が、今日はやけに耳に刺さる。「顔色、悪いですよ?」と言われたが、「寝不足なだけです」と適当にごまかす。そう、司法書士には診断書なんてない。気力で帳尻を合わせる仕事なのだ。
サトウさんの視線がやけに鋭い理由
「なんか今日、変ですよ」
書類を並べながらサトウさんが言う。サザエさんで言えば、波平が定年後の進路に迷ってるみたいな顔してるらしい。なんだその例え。けど確かに、鏡を見れば、やる気のない中年男がいた。
体ではなく心が咳き込む感覚
肩が重い。ため息がやたら出る。書類の誤字脱字を3回も見逃した。あぁ、やれやれ、、、今日はダメかもしれない。
依頼人の不自然な態度が事件の匂いを連れてきた
そんな中、一人の依頼人が訪れた。相続登記の相談。内容自体はシンプルだったが、何か引っかかる。説明を聞く依頼人の目が泳いでいた。必要以上に早口なのも気になる。
土地登記の相談に隠された違和感
「兄が去年亡くなって…」
依頼人が出した死亡診断書を見て、首をかしげた。日付が違う。登記のために提出された日と、役所の発行日が妙にずれている。これは…。
「兄が亡くなった日」が2つある矛盾
一つは3月、一つは5月。しかも遺言書の提出日もその間だった。これは時間のズレを利用して何かを隠そうとしているのでは。まるで『金田一少年の事件簿』のトリックのようだ。
古い地図と新しい地図に刻まれた真実
昔の地積測量図を引っ張り出して照らし合わせてみた。すると、本来別の人名義の土地が兄名義に変更されていたことがわかる。不正な登記が行われていた。
サトウさんの推理が冴え渡る日
「これって過去の登記簿も見た方が良くないですか?」
サトウさんの一言で事態は動いた。登記原因の確認日付に不備があることが明らかになった。
「これって、過去の登記簿も見た方が良くないですか」
司法書士には警察のような逮捕権はない。だが書類の“ズレ”を見抜く目だけは鍛えられている。サトウさんの発言で、状況は一気に進展した。
司法書士事務所は時に探偵事務所になる
まるで『キャッツアイ』が証拠を盗むかのように、こっそりと法務局で調べた。すると不自然な名義変更と、依頼人の関与が浮かび上がってきた。
心が疲れていても見落とさなかった一文字
書類の中にあった誤字。それが決め手になった。筆跡を鑑定にかけると、遺言書は偽造されたものであることがわかった。
真犯人は書類の中で笑っていた
依頼人は事実を認めた。「兄が先に死んだら、全部弟の俺のものだと思ったんだ」
そんな動機だった。あっけない結末に、逆に疲労感が増した。
不正な登記に隠された家族の争い
人間の欲望は、時に紙の上で暴れだす。相続は争続とも言う。今回の件は、その典型だった。
遺言書の筆跡が暴く嫉妬と欲望
筆跡は兄のものではなかった。しかもワープロ文字と手書きが混ざっており、不自然さ満載。これじゃまるでコナン君のトリックの初歩だ。
印影と過去の記録が語る“動かぬ証拠”
印鑑も微妙に傾いていた。過去の印影と比較すれば一目瞭然。司法書士の地味な執念が勝利した瞬間だった。
やれやれ俺の休みはいつ来るのか
依頼人が帰ったあと、俺は天井を見上げた。心の風邪はまだ治らない。けれど、少しだけ誇らしい気持ちもあった。
事件が解決しても心の風邪は治らない
燃え尽きた感覚。だけど、明日もまた誰かが「先生、ちょっと相談が…」とやってくるのだ。
サトウさんのコーヒーが今日も沁みる
「ブラックにしときました」
サトウさんが淹れてくれた一杯をすする。甘くはないが、なんだか沁みた。
誰にも気づかれないまま日常に戻る
そしてまた書類の山に埋もれていく。サザエさんのエンディングのように、今日も静かに一日が終わる。「やれやれ、、、」とつぶやきながら。