朝の法務局での違和感
夏の朝。蒸し暑さが残る空気の中、俺は法務局に出向いた。目的は登記完了証の受け取り。それだけのはずだった。 しかし、窓口の職員は妙にそわそわしていて、いつも通りの事務的な態度ではなかった。 まるで、こちらに何かを伝えたいようでいて、伝えてはいけないと自分に言い聞かせているようだった。
遅れて届いた登記完了証
提出から三週間、ようやく届いた登記完了証。だがそこに記された地番が微妙にずれている。 元の申請書と照合しても、俺の記憶に間違いはない。これは訂正されるべきミスか、それとも、、、。 妙な胸騒ぎを覚えながら、俺は事務所に戻った。
机の上の異変と忘れられた封筒
帰ると、サトウさんが俺の机の上を睨んでいた。そこには差出人不明の茶封筒が置かれていた。 「あなた、これ気づいてました? 郵便受けにはなかったのに、机の上にだけあるんです」 俺は答えに窮しながら、その封筒を手に取った。重く、そして妙に冷たい気配がした。
奇妙な電話と無言の主
事務所の電話が鳴ったのは、それからすぐのことだった。受話器を取ると、しばらく沈黙が続いた。 無言のまま、呼吸音だけが聞こえる。そして「…見ましたか」とだけ。 「何をだよ」と問い返しても、電話は切れていた。
応対したサトウさんの眉が動く
「さっきの声、女でしたよね?」サトウさんが珍しく興味を示した。 「でも、あれ…たぶん録音じゃないですかね。無音のタイミングが不自然でした」 この人、冷静すぎる…。俺はそう思いながらも、自分の感覚を信じきれずにいた。
発信元は法務局内だった
番号を逆引きしてみると、それは法務局の代表番号だった。 だが、今の時間は昼休みに入っているはず。誰が電話を掛けてきたというのか。 やれやれ、、、これは普通の書類トラブルじゃ済まなそうだ。
封筒の中にあった別の世界
恐る恐る茶封筒を開くと、中にはコピーされた登記簿謄本が入っていた。 だが、俺が提出したものとは異なる所有者名が記載されている。 さらには、すでに死亡したはずの人物が、代表者として記載されていた。
登記簿謄本に混入した不可解な資料
登記簿の裏には、手書きで「この登記は動かすな」と書かれていた。誰の筆跡かはわからない。 そして、その下には法務局の認証印が半分だけ写っていた。まるで誰かが慌てて封印したような痕跡だ。 「これは、、、誰かが何かを隠そうとしている」俺は呟いた。
あえて記載された誤字と日付の矛盾
不自然な誤字、そして未来の日付で書かれた登記日。明らかに操作された形跡がある。 登記官がこんなミスをするはずがない。 意図的に「間違えた」ことで、何かのメッセージを残しているようにも感じた。
現場へ向かう二人
封筒に記された住所へ、俺とサトウさんは向かうことになった。 彼女は助手席でGoogleマップを見ながら、「これって、前に取下げになったはずの土地ですよね」と言った。 確かに、一度申請が取消された土地だ。しかし、なぜ今さらこの資料が送られてきたのか。
やれやれと言いながらも重い腰を上げる
俺はあまり乗り気じゃなかった。暑いし、用事も溜まってる。 でもサトウさんに「行かないんですか?」と塩対応で言われると、断れなかった。 やれやれ、、、俺は結局、車をUターンさせて現地に向かった。
元野球部の脚力が生きた瞬間
現地は、草が生い茂る空き地だった。だが奥に見える物置の扉が、ほんの少し開いていた。 「待ってろ」とサトウさんに告げて、俺は全速力で走った。 久々に使った脚力が、なぜか冴えていた。あの物置には、何かがある。
沈黙する登記官の背中
物置の中にいたのは、かつて俺の登記を担当していた若い登記官だった。 彼は顔を隠し、声も出さず、背を向けて何かの書類を燃やしていた。 「やめろ!」と叫ぶと、彼は肩を震わせたが、それでも言葉を発しなかった。
昼休みを外して対応する理由
後日、彼は内部調査で姿を消したとだけ聞いた。 登記の誤りは、すべて上からの指示だったらしい。 その命令に逆らえば、自分のキャリアが消える。それだけの理由で彼は沈黙していた。
語られない過去とある死
調べを進めると、登記簿に記載されていた名義人は、旧地権者の孫だった。 その人物はすでに死亡しており、死亡届もきちんと提出されていた。 だがその死亡届が、なぜか法務局内部で「処理保留」とされていたのだ。
封印された登記の真実
すべては、不正取得をもみ消すための登記偽装だった。 ある政治家の親族が関わっており、そのため誰も声を上げられなかった。 証拠は、例の封筒にすべて揃っていた。
錯誤か偽造か誤魔化しか
それでも、登記官は口を閉ざし続けた。 「錯誤だった」とだけ書かれた内部報告書には、誰の署名もなかった。 本当に「錯誤」なのか、それとも「誤魔化し」なのか。それは誰にも語られない。
サトウさんが一言だけ言った
「これ、物語にしたら面白いですよ」 俺は返す。「こんなもん、笑えないってばよ」 だけど、帰り道でふと浮かんだ。『登記官は口を閉ざす』、悪くないタイトルかもしれない。