登記申請書が語る言葉

登記申請書が語る言葉

封筒に入った謎の写し

朝の郵便物と見覚えのない登記申請書

盆明けの月曜日、事務所のポストに混ざっていた一通の茶封筒。差出人は記載なし。中には、コピーされた登記申請書が一枚だけ入っていた。
一見して、内容に異常はない。ただ、どこか引っかかる――そんな違和感を覚えたのは、書式の古さだ。令和の今に昭和の申請書とは。
日付は空白。氏名欄も二重線で消されており、その隣に奇妙な英数字の羅列が記されていた。

依頼人は現れず

連絡先に電話しても誰も出ない

同封されていた小さなメモには、ひとつの電話番号だけが記されていた。何度かけてもコール音のまま誰も出ない。
つながらないのが最近の詐欺の手口か、それとも――ただの不注意か。俺はしばらく受話器を握りながら考えたが、答えは出なかった。
やがて電話を切り、書類のコピーを机に置いた。これがただの間違いであることを願いながら。

サトウさんの冷静な指摘

「この数字、地番じゃありません」

コーヒーを片手に申請書を眺めていたところに、サトウさんがひょっこり顔を出した。
「これ、シンドウさんが見逃すようじゃ本当に不安ですよ」彼女は皮肉を込めて言いながら、申請書をひょいと取り上げる。
「この数字列、地番じゃなくて多分暗号です。文字変換してみましょうか?」俺は苦笑いするしかなかった。

やれやれ、、、また妙な仕事か

元野球部の勘が働く瞬間

書類を再確認すると、確かにその数字列は地番にしては不自然だった。
「あいうえお」順に変換してみると、なんと「サカイユキオ」という名前が浮かび上がった。
やれやれ、、、また厄介な話の匂いがする。俺は背筋を伸ばし、机の上を片付けた。

「昭和五十年」の記憶

かつて存在した地番と消えた家

法務局の古い地図を引っ張り出してみると、昭和五十年当時に確かに存在した地番がそこにあった。
ところが、今は区画整理で完全に地番ごと消えている。存在しない土地の登記申請?
それはつまり、過去の「記録」に対する何らかの意思表示だった。

再び現れた依頼人

「これは父の最後の願いだったんです」

午後になって、スーツを着た中年の男性がひっそりと訪ねてきた。名乗ったのは「堺幸男の息子」だという。
亡くなった父が生前、ある土地の登記にこだわっていたという。区画が消えても、どうしても残したかったらしい。
「法務局では取り合ってくれませんでした。でも、司法書士なら何か方法があるかもと……」

土地に刻まれた真実

登記簿にはない地目変更の痕跡

調べていくうちに、その土地にはかつて小さな神社があったことがわかった。
バブル期に無理やり潰され、今はマンションになっている。だが登記簿には、変更の記録が一切残っていなかった。
まるで、その土地が歴史ごと消されているようだった。

司法書士の最後の一手

故人の想いを届ける登記

俺は旧記録をもとに、事実証明に基づく陳述書を作成し、供託登記として申請する方法を提案した。
「正規の登記ではなくても、記録に残すことはできるかもしれませんよ」と伝えると、彼の顔に安堵の色が浮かんだ。
それだけでも、俺の仕事には意味があるのだと、久々に感じた瞬間だった。

サトウさんの一言で幕を下ろす

「少しは役に立ちましたね、シンドウさん」

書類を提出して帰ってくると、サトウさんが俺を見てニヤリと笑った。
「まぁ、たまには格好いいとこ見せてくれないと困りますからね」
皮肉を言われながらも、どこか嬉しかった俺は、思わず肩をすくめてごまかした。

そして日常へ

やれやれ、、、今日はカップ麺にするか

夕方、静かな事務所に戻って一息つく。冷蔵庫には何もない。
コンビニにでも行こうかと思ったが、もうその気力もない。
やれやれ、、、今日はカップ麺にするか。俺の日常は、こんなふうにしてまた戻っていくのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓