目を疑った登記簿
所有権の名義が変わっていた理由
その日の午後、ひとりの中年男性が事務所に飛び込んできた。「この登記、俺の土地の名義が変わってるんだ!」と興奮気味に叫ぶ。書類を広げてみると、確かに名義人が見知らぬ人物に変更されていた。
依頼人の言い分と不審な点
話を聞く限りでは、依頼人は土地を売った覚えがないという。だが、登記簿にはしっかりと原因証書の記載があり、署名押印も整っている。念のため原本の請求をかけたが、不審な違和感が胸に残った。
古い家と古い因縁
解体予定の家に現れた男
問題の土地には取り壊し寸前の古民家が建っていた。現場に赴くと、そこにはぼろぼろの帽子をかぶった男がいた。「ここは俺の家だ、誰にも渡さない」とつぶやくように言う。どうやらこの土地には昔からの因縁があるようだった。
土地の境界をめぐる争い
近所の住民の話では、隣地の地主とたびたび揉めていたらしい。特に井戸の位置をめぐっては、昭和の時代から続く争いがあったという。サザエさん一家ならご近所トラブルで済んでいたかもしれないが、こちらは命がけだ。
消えたはずの書類
登記原因証明情報の謎
法務局から取り寄せた写しには、確かに過去の売買契約書が添付されていた。だが依頼人はその日付に入院していた証明書を持参してきた。「俺はその日、ベッドの上だった」と。これは何者かが偽造した可能性が出てきた。
登記官の不可解な対応
さらに妙なのは、登記官の一言だった。「うちは正当な手続きに基づいて受理しました」。書類の不備を見抜けなかったとは考えにくい。もしかすると、内部に何らかの手引きがあったのかもしれない。
サトウさんの冷静な推理
登記簿と事件の接点
黙ってパソコンに向かっていたサトウさんが、ふと口を開いた。「この印影、別の事件で見た気がします」彼女の記憶は驚くほど鮮明だった。過去に処理した詐欺事件の書類と同じ書式が使われていた。
書き換えられた日付の意味
登記簿に記された日付は、被害者が入院していた時期。しかし、その1週間後には死亡届が提出されていた。つまり、誰かが被害者の死を知りながらも、生存中に売買したように偽装したのだ。
司法書士シンドウの失態
やれやれ、、、つい印鑑を押してしまった
過去の案件を洗い直すと、あろうことか自分が関与していた書類に同じ登記原因証明書が紛れていた。うっかり印鑑を押してしまっていたことに気づき、顔から血の気が引いた。「やれやれ、、、こんなオチは週刊ポストでも載らないぞ」
過去の案件に潜んだミス
記憶をたどれば、あの案件も書類の提出がやたらと急だった。たまたま多忙だった自分は、内容の確認を後回しにしてしまった。あれが、事件の始まりだったのかもしれない。
死亡届と登記簿のすれ違い
書類が届いたのは事件の翌日
市役所に照会すると、死亡届は売買契約書の日付よりも後に提出されていた。つまり、登記上は生きていたことになっていたわけだ。だが、実際にはその時すでに被害者は死亡していた。
生きていることになっていた被害者
誰かが、そのタイミングを狙っていた。被害者が死亡した直後、関係者が手続きを進めたのだ。目的は明白、土地の名義変更によって不動産を手に入れることだった。
忘れられた仮登記
二重売買の影にある意図
さらに調査を進めると、20年前の仮登記がそのまま残っていたことが判明する。その仮登記の名義人が、なんと今回の「買主」と一致していた。偶然ではない、これは仕組まれた計画だった。
過誤ではなく仕組まれたもの
名義人の変遷を追うと、すべて同一の人物による申請だった。別々の名義を使い分けて、登記を重ねていたのだ。単なる過誤登記ではない。これは意図的な犯罪だった。
古井戸から発見された遺体
記録と現実が一致する瞬間
警察の捜索により、古民家裏の井戸から白骨死体が発見された。検視の結果、死亡時期は売買契約書の日付の直前。すべてが符号する。登記簿に書かれた罠は、命を奪うための仕掛けだった。
登記の記録が語る殺意
登記は真実を写す鏡ではあるが、それを操る者の意図が加われば、刃にもなる。犯人はその仕組みを知り尽くしていた。書類ひとつで、人の命と土地を手に入れる。その冷酷さに寒気がした。
つながった証拠の糸
名義変更が指し示す犯人
最後のピースは、ある名義変更の直前に犯人が不動産業者に連絡を取っていた記録だった。その後すぐに登記が行われていた。すべての手口が一致していた。
真犯人は身近にいた人物
そして、その人物は最初に依頼してきた「中年男性」の兄だった。彼が裏で操っていたのだ。あの焦った演技も、兄を庇う芝居だった。
登記が暴いた真実
サトウさんの一言で全てがひっくり返る
「登記は嘘をつきませんが、嘘を写しますからね」。サトウさんのその言葉が、事件の本質を突いていた。証拠の山を前に、犯人は観念した。
司法書士が解決する殺人事件
やれやれ、、、本業は登記の手続きなのに、気づけば殺人事件の真相解明までやってしまった。だが、これも司法書士の意地だろう。静かにペンを置き、次の依頼に備えた。