「また電話を取れなかった」──それが今日も心に残る
司法書士として独立し、地方で事務所を構えて10年以上が経つが、いまだに「電話を取れなかった」というだけで一日中落ち込むことがある。特に重要な案件が続く日には、手が離せない時間も多く、その間にかかってきた電話に出られなかったことが、どこかで信用を損ねているのではないかと考えてしまう。電話というのは一瞬の出来事だが、司法書士という職業にとっては、その一瞬が信頼を左右しかねない。それがわかっているからこそ、余計に心が重くなるのだ。
ほんの数秒が命取りになる業務の現場
不動産登記の書類を作っているとき、ちょうど法務局の申請タイミングと重なる。そんなときに電話が鳴る。あと5分、いや2分でも遅ければ出られたのに、ということがよくある。司法書士にとって、書類ミスは致命的だ。確認作業中に集中を途切れさせるわけにはいかない。とはいえ、依頼人にとっては「電話に出ない司法書士」という印象が残ってしまう可能性もある。そのジレンマが日々のストレスの種となっている。
タイミング悪く手が離せなかった言い訳
「その時間、法務局に行ってまして……」「すみません、相談中で……」。そんな言い訳ばかりしている自分に自己嫌悪することがある。でも、本当にどうしようもない時間帯ってあるのだ。例えば、面談中に鳴った電話。依頼人の前で出るわけにもいかず、放置するしかない。せめて折り返しを早くしようと努力はするが、それでも「何度もかけたのに」と責められると、なんとも言えない気持ちになる。
登記簿と電話、どちらも重い責任を伴う
登記の手続きは緻密で、ミスが許されない。電話はリアルタイムの対応が求められる。このふたつの狭間で、自分は常に引き裂かれている感覚がある。登記簿の記載ミスがあれば責任問題になるし、電話対応が遅れればクレームになる可能性もある。どちらもおろそかにできないが、体はひとつ。ひとりでやっている身としては、どうしたって限界があるのだ。
取引先や依頼人からの信頼の崩れは一瞬
特に新規の依頼人にとって、第一印象は電話対応で決まる部分が大きい。「忙しいのはわかりますが、何度もかけたのに…」という言葉に、心の奥がズシンと重くなる。たとえこちらが悪くなくても、「電話に出ない人=頼りない」というレッテルを貼られてしまえば終わりだ。信頼の回復には時間がかかるが、失うのは一瞬。だからこそ、電話に出られなかった自分を責めてしまう。
なぜ自分ばかり電話を気にしているのか
同業者と話すと、「電話なんて後でかけ直せばいいじゃん」と軽く言われることもある。でも、自分にとってはそれができない。気にしすぎだと言われても、やっぱり気になる。もしかすると、誰よりも自分が自分を信用していないのかもしれない。だからこそ、出られなかった電話1本にこんなにも振り回されてしまうのだ。
一人事務所の悲哀──頼れるのは自分だけ
事務員さんは一人いるが、電話を任せるには難しい内容もある。結局、自分で対応するしかなく、外出時や集中作業時は「出られなかったらどうしよう」と常に不安を抱えている。ワンオペの厳しさはこういうところにある。「ひとりでやっているのだから仕方ないよ」と言ってくれる人もいるが、依頼人にはそんな事情は関係ない。
事務員さんに任せきれない小心者の性分
本当はもっと電話対応を任せられたらいいのだろうけど、自分が心配性すぎて、つい「それは自分がやる」と抱え込んでしまう。事務員さんにも申し訳ないと思いつつ、結局自分の手を離れない。誰かに任せる勇気、それが足りないせいで、ますます自分に負荷がかかってしまっている。
「またか」と思われている不安との戦い
着信履歴を見るたび、「また逃した…」と心がざわつく。何度目だろう、この感覚。特に夕方、疲れがピークに達している時間帯に見る不在着信は、精神的なダメージが大きい。「またか」と思われているんじゃないか、という不安に駆られ、仕事が手につかなくなることもある。
不在着信を見るたびに胃が痛む
スマホの画面に着信履歴が並んでいるだけで、なんだか責められているような気がする。実際に責められたわけでもないのに、勝手に自分を責めてしまう。1本の電話に、これだけ気を揉むのは、自分が「完璧でありたい」と思っている証拠なのかもしれない。でも、そんな自分に疲れているのも事実だ。
一件の電話が取り返しのつかない事態を生むことも
実際に、電話を取り逃したことでトラブルになったことがある。遺産分割協議に関する急な相談だったが、タイミング悪く出られず、そのまま他の事務所に依頼された。あと5分早ければ対応できたかもしれない。そう思うと、「あのとき電話を取っていれば…」という後悔ばかりが募る。
実際に起きた“たった一度の失敗”の顛末
そのときの依頼人から、「電話に出てくれない人には頼めない」と言われたのが、未だに胸に刺さっている。どれだけ誠実に仕事をしても、対応の一瞬で評価は変わってしまう。そんな不安と向き合いながら、毎日電話の音にビクビクしている自分がいる。
電話に出ることが仕事の一部なのか
司法書士の本来の仕事は書類作成や登記申請、法律相談だと思っている。でも、現実には「電話対応」も評価対象のひとつだ。これを無視してはいけない時代なのだと、わかってはいる。ただ、それを割り切れずにモヤモヤしながら電話と向き合っている。
本業は書類作成と申請、なのに……
電話対応に追われ、集中すべき書類作成が思うように進まない日もある。そうなると、自分は何をやっているのか、何を優先すべきなのか、わからなくなってくる。効率も悪くなるし、イライラも募る。理想と現実のギャップに、ただただ疲れる。
「電話に出ない=やる気がない」そんな誤解も
やる気がないわけではない。ただ、出られなかっただけなのだ。でも、そうは伝わらない。特に新規の方にとっては、第一印象がすべてになる。電話に出る・出ないが「信頼」や「能力」の指標になってしまうこの世の中の風潮に、なんとも言えない息苦しさを感じている。
どうすれば「電話を取れなかった罪悪感」から逃れられるのか
完璧にはなれない。それを受け入れるしかない。けれど、少しでも安心できる方法はないか、日々考えている。仕組みでカバーし、少しでも「電話に出られなかった」ことによるダメージを減らす。そういう工夫を、自分なりに重ねてきた。
一人事務所だからこそ仕組みでカバーする
電話に出られない時間を予測して、あらかじめ「この時間は対応が難しい」と案内を出すようにした。また、Webからの問い合わせフォームも強化し、できるだけ電話に頼らない形に変えていっている。まだ完璧ではないが、以前よりは気が楽になった。
留守番電話とメール誘導、意外と機能する手法
留守番電話に「○時以降に折り返します」と具体的に残すだけでも、クレームが減った。そして、メールでの問い合わせ誘導も意外に好評だ。「電話よりも落ち着いて書ける」と言ってくれる依頼人もいて、これはもっと活用していこうと思った。
タイムスケジュールで“出られない時間”を明示する勇気
ホームページやGoogleビジネスプロフィールに、「〇時〜〇時は外出中のため折り返します」と記載するようにした。最初は「そんなことして大丈夫か」と不安だったが、意外と理解を示してくれる方が多く、こちらの精神的負担もかなり減った。
共感してほしい、この仕事のしんどさ
司法書士は、書類を整えるだけじゃない。人との関わり、時間との戦い、そして何より「信頼を守る」ことに神経を使い続ける仕事だ。電話一本にすら、命を削っているような気がしてしまうときがある。
「電話を取る余裕があるのは暇な証拠」なのかもしれない
忙しすぎて電話に出られない。それはある意味、事務所が回っている証拠でもある。でも、それを依頼人に理解してもらうのは難しい。だからこそ、こうして文章にして吐き出している。
それでも責められるのが司法書士の現実
どれだけ頑張っても、たった一度のミスで信用を失う。それがこの仕事の厳しさだと思う。だけど、同じように悩んでいる人がいるなら、少しだけ心が軽くなる。だから、今日もまた電話を逃してしまったことを、ここに正直に書いておく。