登記簿が招いた影
午後の来訪者
ある暑い午後、うちの事務所の扉が重々しく開いた。年配の女性が一人、何かを抱えるようにして入ってきた。手には古びた封筒を握りしめ、眉間に深い皺を寄せていた。
謎の土地名義変更
「この土地、夫が亡くなる前に名義が変わっていたんです」と、彼女はぽつりとつぶやいた。登記簿を確認すると、確かに死亡の数週間前に第三者の名に移っていた。不自然さが鼻についた。
不自然な委任状の発見
添付された委任状の筆跡が明らかに本人のものと異なっていた。印鑑も滲んでおり、やけに新しく見える。「サザエさんの波平さんならこんなの一目で怒るでしょうね」と心の中で苦笑した。
書類の違和感とサトウさんの一言
昭和の記録と現在の齟齬
古い登記簿を閲覧していると、昭和期の所有権移転には特異な流れがあった。特に一度失効したはずの委任状が、数年後に再び使われていたのだ。そこに現れたサトウさんがぽつりと言った。「これ、偽造じゃないですか?」
名義変更の背景に潜む事情
名義が移った先は、依頼人の亡夫の従兄弟だった。しかしその人物は数年前に夜逃げして行方知れずになっている。動機と機会があまりに揃いすぎているのが逆に不気味だった。
町内会長の微妙な証言
近所の町内会長に話を聞くと、「そういえばあの人、葬式の前に一度見かけたよ」と驚きの発言。死亡届の提出とその目撃証言の日付が合わない。死んだはずの人間が歩いていた?
隠された遺産の存在
死亡届より先に動いた手続き
登記の申請日が死亡届の提出よりも前だった。死んだことにしておいて、実はどこかで生きているのでは。どこかで聞いたような手口だ。コナンくんでもこういう回、あったな。
亡くなったはずの男の足跡
調べを進めると、数年前に同じ名前で開設された銀行口座が別地域で見つかった。住所は架空、でも使われた印鑑は一致。どうやら誰かが“彼”を演じていたか、あるいは…。
法務局で掘り起こされた真実
登記官の記憶と古い印鑑証明
法務局の登記官が言った。「ああ、この人、来たよ。顔が妙に隠れてて、書類だけ出して帰った。」その提出された印鑑証明書には確かに彼の名前。しかし発行元の市役所に問い合わせると、記録にない。
売買契約書の矛盾点
契約書を読み返していて、ふと気づく。「これ、相手方の住所が合ってない。」その後押入れから出てきた古い契約書と見比べると、明らかな偽造だった。だが、誰がこんな巧妙な細工を…。
真犯人は誰か
二重登記のカラクリ
実は元の所有者が生きており、もう一つ別の登記が行われていた。目的は詐欺。死んだふりをして遺産を回避し、自ら土地を別会社に売却していたのだ。
相続人が語らなかった過去
依頼人は夫の過去を何も知らなかった。サラ金への多額の借金、別居していた隠し子の存在。すべてが今回の偽装の動機になり得た。彼女は、ただ黙って涙をこぼした。
サトウさんの冷静な推理
書類の端の小さな印
「これ、コピーのインクですね。」サトウさんの目は鋭かった。偽造された書類の一部がFAXで送信された痕跡。これが決定的な証拠となった。
司法書士の責任と覚悟
「やれやれ、、、司法書士ってのは紙の探偵みたいなもんですね。」と、冗談めかして呟きながら、僕は報告書をまとめた。誰かが気づかないと、真実は帳簿の奥で静かに消えてしまう。
結末とその後
逮捕劇と遺された土地
元夫は数県先で身分を偽って暮らしていた。逮捕の瞬間は、まるで刑事ドラマの一幕のようだった。土地は無事、相続人に戻った。だが、そこに人の温もりが戻る日は遠い。
やれやれの午後三時
すべてが片付いた午後三時、僕はぬるい缶コーヒーを手に、椅子に深く腰掛けた。サトウさんは無言でプリンターを整理している。「……やれやれ、、、今日もまた、一つ地味な事件が終わった。」