抹消登記に潜む真実の影

抹消登記に潜む真実の影

依頼人は香水の匂いを残して

怪しい登記抹消の相談

その女は事務所のドアを開けると、ふわりと甘い香水の香りを残して座った。 「この登記を抹消したいんです」 差し出された書類には、抵当権抹消の申請書が無造作にホチキス留めされていた。

初対面の違和感とサトウさんの冷静な目

依頼人の話は終始曖昧だった。 「元夫がいなくなって…まあ、いろいろあって…」と語る表情に焦点がなかった。 サトウさんはパソコンを見たまま、無表情に「本当の話ならいいんですけど」とだけ言った。

香りの残る登記識別情報

書類に漂う香水と違和感

数時間後、残された申請書類に目を通していた私は、思わず眉をひそめた。 紙の端から微かに香水の匂いが漂ってくる。 香り付きの紙など初めてだったが、それより記載内容がずさんすぎた。

抹消の理由は他人任せ

抵当権者の欄が空欄、登記原因証明情報も不完全。 「こんな書類、提出したら即補正対象だろ」と私はつぶやく。 「お任せします」と言っていた割に、こちらに丸投げすぎる。

調査開始と見えてくる関係図

元夫の名前に隠された背景

登記簿を辿ると、確かにその女性が所有権者として登記されていた。 が、直前の登記を見ると、その名義は一時的に元夫に移っていた形跡がある。 「離婚直前に何かあったな」と私は感じた。

離婚協議と登記の食い違い

役所に確認すると、離婚届が提出されたのは名義変更の数日後だった。 つまり、離婚前に夫が所有権を女性に戻していたことになる。 「順番が逆なら問題になるな」と、サトウさんが呟いた。

サトウさんの調査報告

権利証の真偽と申請人の謎

「この権利証、最近発行された複写ですね。しかも照合印がない」 サトウさんが言うと、私の胃に違和感が走った。 「つまり偽物か」思わず椅子の背に体を預ける。

登記原因証明情報の破綻

「登記原因日付が去年になってますが、離婚はその前ですよね」 つまり、成立しない登記原因で抹消をしようとしているということ。 香水の匂いは、事実の香りではなかったようだ。

依頼人の再訪と真相の匂い

同じ香りを纏う別人の影

数日後、同じ香水の香りを纏った別の女性が事務所に現れた。 「姉がこちらで…」と名乗ったが、声のトーン、目の動きがあまりにも似ている。 まるで、キャッツアイのように入れ替わって現れたかのようだった。

サザエさんの三河屋理論で整理

「来たタイミングが絶妙すぎますね。まるで三河屋さんの登場回並みに」 と私が冗談を言うと、サトウさんは「暇なんですね」と返してきた。 やれやれ、、、疲れる相手ばかりだ。

司法書士の仕事の本質

法の外で動く人の心理

「登記は真実を写す鏡ではない」と誰かが言った。 だが、それでも我々は鏡を曇らせる手伝いはできない。 登記官のように淡々と、そして厳しく線を引かねばならない。

シンドウのうっかりが導いた突破口

「ところでこの申請書、連絡先が空白だよ」 うっかり確認を忘れていたが、それが逆に功を奏した。 連絡先不記載のまま提出された申請が、役所で不備扱いとなりストップされたのだ。

真相は抹消されなかった

隠されていたのは意志

その後、女性は申請を撤回した。 「やっぱり、このままにしておきたいんです」 抹消したかったのは権利ではなく、記憶だったのかもしれない。

登記簿が語る別れの物語

登記簿に残された夫婦の名義変更の記録。 それは法的な証拠であると同時に、個人の歴史だった。 私は静かにファイルを閉じた。

やれやれな夜とサトウさんのひと言

事件のあとで残った書類

デスクには未提出の申請書類が山のように積まれている。 「今夜中にやります?」とサトウさんが訊くが、私は首を横に振った。 やれやれ、、、もう今日は帰ろう。

塩対応の中にあるほのかな温度

「明日も朝から来ますから、寝坊しないでくださいね」 サトウさんはそれだけ言って、帰り支度を始めた。 その背中を見ながら、私は少しだけ口元を緩めた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓