登記簿が告げる最後の証言

登記簿が告げる最後の証言

登記簿が告げる最後の証言

古びた家屋と謎の依頼人

小雨の降る月曜の朝、事務所の扉がギイと音を立てて開いた。 入ってきたのは、派手な花柄の傘をさした年配の女性。小柄で目がぎょろりとしていて、どこか舞台役者のような風格があった。 「亡くなった兄の家を処分したいんですけど、なんだかおかしくて…」と、彼女は書類を鞄から取り出した。

名義人は誰なのか

登記簿を確認すると、確かにその住所の不動産が載っていた。 しかし、所有者欄に記載されていた名前は、彼女の「兄」ではなく「義理の父」のものだった。 「おかしいですね…亡くなる直前に兄が自分の名義に変えたって聞いてます」と女性は首をかしげる。

サトウさんの無言の圧

「今どきそんな中間省略登記なんてあるわけないでしょ」と、隣でサトウさんがぼそりとつぶやく。 僕が口を開く前に、彼女はすでにPCで関係者の戸籍を検索し始めていた。 机の上には、あらかじめ用意されていたかのようにファイルと赤ペンが置かれていた。塩対応がここに極まる。

所有者欄に刻まれた違和感

所有権移転の記録が、どうにも不自然だった。 義父から兄に移転したはずなのに、その記録がどこにも見当たらない。 代わりに、古い売買による移転記録がポツンとあるだけだった。

隠された中間省略登記の影

これは、まさかの第三者を通さない「中間省略型」の取引か? 昭和の終わりごろにはよくあった手法だが、今は完全に違法となっている。 売買当事者が何らかの理由で移転を飛ばした可能性があると踏んだ。

売買契約書に潜む二つの矛盾

依頼者が見せてきた売買契約書の写しは、日付が不自然に薄かった。 しかも、買主の署名欄の筆跡が妙に幼い。これが大人の文字とは思えない。 「…これ、代筆ですね」と、サトウさんが冷静に言う。さすが名探偵サトウ。

やれやれ、、、またかよと心で呟く

「またこのパターンか…」と僕は心の中でため息をついた。 登記を軽視した結果、家族間での所有権の認識が曖昧になり、揉め事になる。 やれやれ、、、本当に多いんだよな、こういうの。

司法書士シンドウの現地調査

午後、僕は現地へと足を運んだ。 その家は、まるで時間が止まっているかのように朽ちていた。 軒下には、捨てられたような古いバインダーが転がっていた。

昔の登記簿の筆跡が語るもの

バインダーの中に入っていたのは、昔の登記申請書の控えだった。 そこには、依頼人の兄の筆跡で「代理人に任せる」と走り書きされたメモが。 しかし、その日付と印鑑の押し方が妙にずれていた。

暗号のような住民票の履歴

サトウさんが住民票の履歴をチェックした結果、 兄は一度、他県に転出してから、1ヶ月後にまた戻ってきていた。 しかも戻ってきた日と、売買契約書の日付がぴったり一致していた。

不自然な住所変更と死亡記録

驚くべきことに、義父の死亡届が出されたのは、その直後。 つまり、兄は生前の義父の印鑑を使い、本人になりすまして登記を進めた疑いがある。 まさに、登記簿が語る“証言”だった。

サトウさんの鋭い一言

「…登記簿は嘘つきませんから」と、サトウさんはPCを閉じながらつぶやく。 その言葉に、依頼者の女性は何も言えずうつむいた。 彼女もすでに、兄のやったことに気づいていたのかもしれない。

ルパン三世でもここまではやらない

「他人の名義を使って不動産を奪うなんて、怪盗ルパンもびっくりだよ」 冗談めかして言ったが、誰も笑わなかった。 そこにあったのは、財産ではなく家族の崩壊だった。

真犯人は権利証を持っていなかった

決定的だったのは、権利証が見つからなかったこと。 兄は手続きを急ぐあまり、正式な手続きを経ずに処分しようとしたのだ。 つまり、本当の所有者はずっと義父のままだった。

登記を通じて浮かび上がる動機

兄は借金を抱えていた。 名義変更さえ済ませば家を売却して資金を作れる。 その焦りが、違法な登記という道を選ばせてしまったのだろう。

最後にシンドウが見せたプロの一手

僕は淡々と、法的手続きの手順と是正登記の方法を説明した。 その姿に、依頼者の女性は何度も頭を下げた。 こういうときこそ、司法書士の出番なのだと僕は思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓