夜に持ち込まれた登記識別情報
雨音と共に訪れた封筒
激しい雨が屋根を叩く夜だった。時計の針は午後7時を回っていたが、まだ事務所で残業をしていた。そこへ突然、ドアがノックされ、黒い傘を畳んだ男が封筒を差し出してきた。
封筒の中の異物
封筒の中から出てきたのは、登記識別情報の用紙。だが、それは妙に蛍光がかっていて、暗がりでもぼんやりと青く光っていた。思わず「光ってる…」と呟いたその時、背後でサトウさんの冷ややかな声がした。
サトウさんの冷静な観察
沈黙の中の分析
「紙が光るなんて、化学薬品でも塗ったんですかね」とサトウさんは言いながら、書類に目を通していた。彼女の視線は一カ所で止まり、眉がわずかに動いた。やはり何かに気づいたらしい。
違和感の正体
「この日付、おかしくないですか?」とサトウさんが言った。署名欄の日付と、申請書に記された日付が一致していないのだ。しかも、使われている印影が過去の資料と微妙に異なっていた。
不自然な申請書類
消えた筆跡と複製印影
申請人の筆跡を照合すると、過去の登記のものとは微妙に違っていた。登記識別情報そのものも、光るインクで再印刷されていたようで、まるで舞台用小道具のような奇妙な質感を持っていた。
書類のトリック
「まさかとは思いますが……偽物かも」とサトウさんが言った。彼女の目が光るときは、だいたい事件が始まるときだった。サザエさんでいえば、カツオが宿題を忘れた回の冒頭のような空気だ。
登記官からの電話
法務局との矛盾
「シンドウ先生、ちょっと気になることがありまして…」登記官からの電話は、意外にも声が硬かった。同一不動産に対し、別の識別情報が届いているという。しかも、それはまったく異なる提出者からだった。
法務局の異変
法務局側では、同じ不動産について二通の登記がほぼ同時に申請されていた。どちらも登記識別情報を提示しており、形式上は一見問題がないように見えるというのだ。
二重申請の罠
交錯する二つの真実
過去の登記簿を調べると、問題の物件には以前相続登記がされていた。しかし、そのとき再発行された登記識別情報が、なぜか再び提出されている。つまり、どちらか一方が偽物だ。
過去の申請者の影
調査の結果、再発行された際の受領者と、今回の提出者が一致していないことが判明した。だとすれば、誰かが過去の情報を悪用して偽の識別情報を作成した可能性が高い。
浮かび上がるもう一人の所有者
相続トラブルの種
事件の核心にあったのは、実は小さな相続トラブルだった。故人には腹違いの兄弟がいて、正式な手続きを踏まずに登記を試みていた。まるで名探偵コナンの犯人のように、ちょっとした影をまとっていた。
消された申請履歴
犯人は以前の申請履歴を把握し、コピーされた登記識別情報を提出していた。しかも、提出先を分けることでバレにくくしていた。だが、シンドウ事務所の地道な調査の前には、それも無意味だった。
サトウさんの推理
封筒の中の矛盾
「この封筒、以前の登記のときと同じメーカーの封筒ですね。でも、以前の登記者は地元の文房具店で買っていたはず。今回の封筒には都内の文具チェーンのシールが貼られてる。つまり――」
完全なトリックの暴き
サトウさんは、登記識別情報の封筒と印影の相違から、犯人が誰かを特定した。「手が込んでましたけど、甘かったですね」と、冷たくも淡々と語った。
登記官の協力での対峙
真実への誘導尋問
犯人を法務局に呼び出し、登記官立ち会いのもとで尋問が行われた。証拠を突きつけられた犯人は観念し、すべてを白状した。動機は、たったひとつの土地をめぐる兄弟間の確執だった。
うっかりと決め台詞
一段落ついた帰り道、シンドウは深いため息をついた。「やれやれ、、、俺、また印鑑逆さに押してましたよ」と呟くと、サトウさんは「いつものことですね」と冷ややかに返した。
真正な登記完了と後始末
封印された光る識別情報
事件に使われた光る識別情報は、法務局で証拠品として保管されることになった。登記は真正な権利者のもとで無事完了し、一連の騒動もようやく幕を閉じた。
静かな事務所に戻る日常
翌朝、何事もなかったかのように、事務所にはコーヒーの香りが漂っていた。書類の山の中、シンドウはつぶやいた。「たまには、普通の登記だけで終わる日があってもいいんだけどな…」