真夜中に遺産を継ぐ者

真夜中に遺産を継ぐ者

真夜中に遺産を継ぐ者

深夜の来訪者

時計の針が午前零時を指したとき、うちの事務所のチャイムが鳴った。 こんな時間に客が来るなんて、デスノートの死神くらいしか考えられない。 重たい体を引きずってドアを開けると、そこには喪服姿の中年男が立っていた。

古びた封筒

男は無言で茶封筒を差し出してきた。裏には「至急確認のこと」とだけ書かれている。 中身を見ると、古いタイプライターで打たれた遺言書と、数枚の謄本が入っていた。 「この遺言が有効かどうか調べてほしい」とだけ言い残して、男は去っていった。

謎めいた依頼内容

依頼書もなければ本人確認書類もない。 しかも遺言の日付は5年前、作成者はすでに死亡済。 どうやらこの話、ただの相続手続きでは済みそうにない。

遺言書が語るもの

内容を読むと、遺産の全てをある「隠し子」に譲ると書かれていた。 しかし、その名前には聞き覚えがない。戸籍にも記録はない。 これはまるで、ルパン三世が残したダミーのメッセージのようだ。

二重の名義と消えた証明書

登記簿を確認すると、問題の土地は既に別の人物の名義になっていた。 しかもその変更登記には、どう見ても偽造された印鑑証明が添付されている。 これは「相続登記詐欺」の可能性がある。

サトウさんの冷静な分析

「この印鑑証明、フォントが平成書体ですね。偽造の可能性大です」 サトウさんはパソコンと拡大鏡で見比べながら冷静に言った。 僕がコナンだったら、「お見事」と言って倒れる場面だ。

鍵を握る古い登記

さらに調べると、昭和時代に一度だけ抹消登記がされていたことが判明した。 そのときの登記官のミスで、一筆の土地が分断された可能性が高い。 まるでキャッツアイが盗んだ宝石が、あとで見つかるような妙な感覚。

隠された家族関係

戸籍を数代さかのぼると、依頼人の祖父に認知されていない子どもがいた記録が見つかった。 その人物こそが「隠し子」であり、本来の相続人だった。 つまり今の所有者は、まったく無関係の人物だったのだ。

午前二時の対決

僕は依頼人に連絡し、所有者を事務所に呼び出した。 「登記の正当性について確認したい」と伝え、法的根拠を突きつける。 男は観念し、登記の無効と名義の回復に同意した。

逆転の一手

すぐに更正登記の準備を進め、家庭裁判所にも資料を提出。 その日の夕方には、法務局から職権更正が認められるとの連絡があった。 たまには僕もやるときはやるのだ。

遺産に群がる者たち

相続が正式に開始されたとたん、今度は別の親族たちが名乗りを上げ始めた。 「私にも取り分があるはず」と言ってきたが、遺言書には一銭も書かれていない。 まるでサザエさんのタラちゃんが急に大家族に囲まれたような展開だ。

裏切りの真相

実は最初の来訪者は、偽の依頼人だった。 本当の相続人を装って僕を利用し、不正登記の罪を逃れようとしていたのだ。 やれやれ、、、こっちは野球で言えばノーアウト満塁のピンチだよ。

やれやれと言いたくなる夜

深夜に始まったこの騒動も、ようやく決着を迎えた。 僕はコーヒーをすすりながら、サトウさんの無表情な顔を見る。 「少しは寝てください」と言われ、言葉を返す気力もなかった。

静けさを取り戻した朝

事務所の窓から差し込む朝日が、何もなかったかのように机を照らす。 依頼人からの手紙が一通、ポストに入っていた。「ありがとうございました」とだけある。 今日もまた、誰かのために遺産と戦う日々が始まるのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓