供託所の扉が閉じるとき
夜の電話と不穏な依頼
ある晩の九時を回ったころ、事務所の電話が鳴った。 こんな時間にかけてくるのは大抵ロクな用じゃない。受話器を取ると、男の低い声が耳に届いた。 「供託の件で、どうしても夜に会いたいんです。供託所で。」
忙しい事務所に届いた封筒
翌朝、出勤してきたサトウさんが何やら分厚い封筒を机に置いた。 「今朝ポストに入ってました。昨日の電話の件じゃないですか?」と、いつも通りの塩対応。 封筒を開くと、そこには供託番号と、ある不動産会社の登記記録の写しが入っていた。
サトウさんの冷静な観察眼
「この番号、去年の供託記録と違いますね」 サトウさんはさっとモニターに映るデータベースを指差した。 言われてみると確かに、似ているようで微妙に違う供託番号が存在していた。
不一致の供託記録
問題はそこにあった。供託金の納付日、金額、目的、すべて微妙に異なるのだ。 だが記録にある受領証明書は、同じ筆跡で書かれている。 まるで誰かが、意図的に似たような記録を作り上げたかのようだった。
深夜の供託所で起こったこと
その夜、依頼人の男と約束通り供託所で落ち合った。 彼はやたら周囲を気にしながら、小声で語り始めた。 「僕は、亡くなった兄の代わりに、ある供託金を動かしたんです。」
依頼人の過去と隠された動機
男の兄は数年前に自殺していた。しかし、兄の名義のまま残っていた供託金があった。 それを自分のものにしようとした彼は、似た番号で偽の供託記録を作って申請したのだった。 「でも、最近になって誰かにバレた気がして……怖くなったんです。」
古い供託簿の中の一行
供託所の奥にある古い簿冊をめくっていくと、奇妙な記録を発見した。 本来記録されるはずのない欄に「改訂申請済み」の朱印が押されていたのだ。 申請した司法書士の名前が、俺の知ってる人物のものだった。
供託番号と筆跡の謎
朱印の申請者は、俺が新人だった頃に世話になったベテラン司法書士。 彼は五年前に急逝しており、そんな申請をしたはずがない。 「やれやれ、、、幽霊が登記申請でもしたのか?」と思わず口にした。
隠された供託金の正体
サトウさんが言った。「この供託、相続放棄された遺産の受け皿として使われた形跡があります」 つまり、名義を変えず、供託されたまま放置された遺産が、悪用されたのだ。 その裏には、元の司法書士が意図して残した仕掛けがあった可能性が高かった。
サトウさんのひらめき
「改訂申請じゃなくて、訂正願いじゃないですか?」 彼女の一言で、謎がほどけ始めた。誰かが古い記録を訂正するふりをして、新たな記録を上書きしたのだ。 それは筆跡と記録を見比べれば明白だった。
シンドウの最後のひと押し
俺は供託所に正式な調査依頼を提出し、法務局とも連携を取った。 その後の調査で、依頼人の男が供託金の横領未遂で告発されることになった。 「俺の名前もこれでしっかり残ったか、、、記録にね」と皮肉交じりに笑った。
犯人が語った供託の真実
「俺がやらなきゃ、誰かがやると思ったんだ」 そう語った彼の顔には後悔というより、安堵の色が見えていた。 まるで告白することで、ようやく兄の影から逃れられたかのように。
事件後の静けさと再びの日常
供託所の照明が落とされ、扉が音を立てて閉まる。 サトウさんはいつも通りのテンションで言った。「で、今日の残業代、つきますよね?」 やれやれ、、、こういう時だけは誰よりもしっかりしてるんだから。
供託所の扉が閉じたあと
その日、供託所の扉は重たく閉ざされたままだった。 開かれるのは、おそらく次の誰かが記録を読み解こうとするときだろう。 そしてきっとまた、似たような事件が繰り返されるに違いない。