終わりの頁に記された罪

終わりの頁に記された罪

登記簿と冷めたコーヒー

午前九時の小さな違和感

冷めきったコーヒーをすすりながら、シンドウは目の前に積まれた謄本の束にため息をついた。 その中の一通、どこか引っかかる登記内容に眉をしかめるが、すぐに電話対応に追われて忘れてしまう。 忙しさにかまけて、妙な違和感を放置してしまうのはいつものことだった。

サトウさんの無言の一言

塩対応に混じる真実

「この謄本、何かおかしいですね」 机にそっと置かれたその書類を指差し、サトウさんはいつものように感情のこもらない声で言った。 その目だけが、明らかに何かを見抜いているようだった。

墓地の土地と消えた所有者

誰の墓なのか分からない

謄本に記された土地は、町外れにある古い共同墓地。 だが、そこに登記されている名義人は十年前に死亡しているはずの人物だった。 しかも、最新の登記で所有者が変更されていたのだ。

やれやれ、、、不穏な相談者

突然の訪問と葬儀の香り

黒いスーツを着た中年の男が突然やってきて、登記内容の訂正を依頼してきた。 「前の司法書士がミスしまして」と笑う男の口元に、不気味なほど白い歯が見えた。 その瞬間、コナン君なら一発で疑っているはずだ、とシンドウは思った。

謄本の最後のページの余白

記録されたはずの無言

最後のページだけ、明らかに用紙の種類が違っていた。 しかも他の登記にはあるはずの記録欄が空白になっている。 「まるで、意図的に余白を残したみたいですね」とサトウさんがぽつりと言った。

不在者財産管理人の影

名前だけ残った代理人

数年前の登記に現れた「不在者財産管理人」という肩書きの人物。 調べてみると、その司法書士の名前は既に業務を廃業していた。 なぜ既に消えたはずの司法書士が関与していたのか、シンドウの胸に不安がよぎる。

サトウさんの深夜リサーチ

地味にすごいその腕前

翌朝、事務所に入ると既に調査済みの資料がデスクに積まれていた。 「気になって眠れなかったので」とサトウさんは淡々と言うが、目の下にはくっきりとクマがあった。 その資料には、かつてこの土地で失踪事件があったという新聞記事のコピーが挟まれていた。

昔の事件とリンクする登記

十年前の足跡

失踪したのは、まさにこの土地の元所有者だった。 遺体は見つからず、死亡宣告もされていないまま不在者財産の処理だけが進んでいた。 つまり、生死の確定もないまま土地だけが売買されたことになる。

消されたページに潜む嘘

偽造された記録の罠

法務局に保管されていた過去の謄本を照合したサトウさんが、小さくつぶやく。 「このページ、スキャンじゃなくてコピーです。原本じゃありませんね」 決定的な一言だった。真相は、誰かが謄本そのものを差し替えていたということだ。

シンドウのうっかり反撃

ポケットの中の真実

机の上に置き忘れていたメモ紙。それはシンドウが前にコピーした控えだった。 そこには、差し替えられる前の登記記録がしっかりと残っていた。 「やれやれ、、、ゴミ箱に捨てるところだったな」と額の汗をぬぐった。

法務局の沈黙

行政のグレーな部分

事情を説明しても、法務局の担当者は「こちらでは分かりかねます」の一点張り。 だがその表情には、何かを知っている者の緊張がにじんでいた。 「闇は、書類の奥にこそ潜むんですよ」とシンドウはつぶやいた。

犯人は誰よりも近くにいた

最後の仕掛け人

登記を申請した男の正体は、かつてその土地で管理人をしていた元行政書士だった。 失踪した所有者の印鑑を偽造し、不正登記を行っていたのだ。 それも、すべてがバレないよう「最後のページ」だけを改ざんして。

謄本が語る真実

紙が語った声なき証言

登記簿は口を開かない。 だが、一枚一枚を読み解けば、その記録には意思が刻まれている。 そして今回は、その意思が彼らの罪を暴いた。

それでも終わらない仕事

通常業務という現実

事件が片付いても、机の上には今日中に処理すべき相続登記の山。 「もう刑事の方が向いてるんじゃないですか」とサトウさんに言われても、返す言葉もない。 やれやれ、、、それでも司法書士は辞められない。

サトウさんの冷たいエール

その笑顔はレア級

「まあ、今回は役に立ちましたね」 そう言ってサトウさんは、ほんの少しだけ口元を緩めた気がした。 それはまるで、怪盗キャラが去り際に残す一輪のバラのようなエールだった。

やれやれ、、、また次の登記か

新たな一歩の始まり

机の上には、新たな謄本と委任状が置かれていた。 「次は遺産分割協議書ですね」とサトウさんが告げる。 やれやれ、、、事件がなくても、この仕事は謎だらけだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓