登記と納期に挟まれる人生

登記と納期に挟まれる人生

毎朝始まる“締め切りとの戦い”

司法書士として一日を始めるとき、真っ先に頭をよぎるのは「今日の納期は大丈夫か」という不安です。電話とメールで山積みの依頼、納期が重なる案件、そして予定外のトラブル。朝のコーヒーを飲む間もなく、すでに神経は張り詰めています。何とかその日を乗り切ったとしても、また次の締め切りが待っている。これは一種の“無限ループ”のようなもので、毎朝目覚めた瞬間からレースが始まる。そんな感覚です。

予定通りにいかないのが登記の常

登記の世界では、「予定通りに終わる」ことのほうが珍しいかもしれません。書類が一式揃っていると思っていても、細かい記載ミスや署名の不備でストップがかかる。しかも、その確認ができるのは提出後だったりします。登記の進行がスムーズだった日は「今日は奇跡だ」と感じるレベルです。実際、予定していた業務がすべて完了した日は、月に1、2回あるかどうかです。

予想外の書類不備に振り回される日々

以前、とある相続登記で、遠方にいる相続人の印鑑証明が必要になったことがありました。依頼者は「すぐ送ってもらえるはず」と言っていたのですが、結果として届くまでに10日以上かかり、納期に間に合わない恐れが出てきました。その間、こちらは役所や関係先に何度も状況を説明し、謝罪と再調整に追われました。結局ギリギリで間に合ったものの、精神的にはかなりすり減りました。

「また補正か…」とつぶやくのが日課に

補正通知を見るたびに、「またか…」とつい声が漏れます。法務局からの電話やFAXに心臓がヒヤリとするのは日常茶飯事。補正の内容が簡単なものであればいいのですが、時には根本的な部分に修正が必要な場合も。あれこれと手間をかけた結果が“やり直し”になると、自分の存在価値すら疑いたくなる瞬間があります。「何のためにここまで神経すり減らしてるんだろう」と、ふと天井を見上げてしまうのです。

役所の“休み”がこちらの首を締める

役所の休みがカレンダー通りなのは当然ですが、それに振り回されるのは我々です。祝日が多い月になると、実質的な業務日が減るため、納期調整が非常に厳しくなります。先日はゴールデンウィーク明けに複数の登記が重なり、地獄のようなスケジュールになりました。書類は揃っているのに提出できない、確認もできない、ただただ時間だけが過ぎていく。そんな焦燥感に耐えるのも、この仕事の一部なのです。

祝日カレンダーを恨めしく見る季節

手帳に赤い印が増えていくたび、「この日までに終わらせないと」と思考が加速していきます。年末やお盆前など、長期休暇が絡む時期には、納期もさらにタイトになります。そのたびに、カレンダーをにらみつけながら納期逆算のパズルゲームが始まるのです。「もっと余裕をもって準備すれば」と言う人もいるでしょう。でも、実際はお客様の都合や書類の遅れなど、こちらだけではどうにもできないことが山ほどあります。

お客様の期待と現実のギャップ

「登記って、すぐできるんですよね?」と聞かれるたびに、言葉を選ぶ必要を感じます。確かに登記手続きは一見シンプルに見えるかもしれません。しかし、その裏には多くの確認事項や書類のやり取り、法的な検討が必要です。お客様の感覚と実際の業務内容のギャップが広がれば広がるほど、説明と説得に時間を取られ、本来の作業が遅れていくというジレンマが生まれます。

「すぐ終わりますよね?」という無邪気な声

とあるお客様が「今日中に終わると思ってたんですけど」と言ってきたときのこと、すでに他の案件で手一杯だった私は、内心で「魔法使いじゃないんだけどな…」とつぶやいていました。登記は、ただ書類を出せば済むというものではありません。登記原因、権利関係の確認、本人確認…一つひとつの工程が複雑で、慎重さが求められます。それを“簡単な作業”と思われてしまうと、正直、少し虚しさすら感じてしまいます。

急ぎ案件に限って複雑な背景あり

急ぎの案件というのは、なぜか決まって複雑なケースが多いものです。共有名義の不動産や、亡くなった方の相続がらみなど、関係者の多さや書類の調整だけでも一苦労です。急がせる割に、関係者の調整は依頼者任せだったりもします。最終的にはこちらが全体を取りまとめることになり、「誰もやってくれないなら自分がやるしかないか」と、結局すべて背負い込んでしまうのです。

お客様の“簡単”はこっちの“地獄”

「簡単な案件ですから」と言われて受けた仕事ほど、地雷が埋まっていることが多いです。たとえば住所が違っていたり、前提となる登記が未了だったり。しかもそれを指摘すると、「そんなことまで必要なんですか?」と逆に驚かれる。こちらとしては、“当然の確認”が、“予想外の障壁”として跳ね返ってくる。そのたびに、説明と説得に追われて、本来の作業時間がどんどん削られていくのです。

納期に追われて消える「自分の時間」

司法書士として日々働く中で、一番感じるのは「自分のための時間」がどんどん減っているという現実です。平日は週末すら納期に引っ張られている。昔は読書や映画でリフレッシュしていた時間も、今や「いつでも電話に出られるように」と気を張ったまま。気が付けば、休日に何も予定を入れないことすら“戦略”になってしまっているのです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。