添付書類が消えた日
平凡な朝と一通の電話
朝9時過ぎ、コーヒーを淹れようとしたタイミングで、電話が鳴った。 受話器の向こうの担当者は、無機質な声でこう言った。「添付書類が入っていなかったようです」 一瞬、頭が真っ白になる。まさか、そんな馬鹿な。確かに入れたはずだ。
申請書類の再確認
事務所に戻ると、サトウさんがすでにファイルを広げて待っていた。 「登記原因証明情報、印鑑証明書、代理権限証書…控えは揃っています」 彼女は淡々と、しかし冷ややかに告げた。「で、入れたっていう証拠はあるんですか?」
消えた書類と消えない記憶
「いや、確かに封筒に入れたはずなんだよ。封印した後に、郵便局の窓口で…」 言いながら、机をガサゴソと漁る。思い込みかもしれない、という不安が胸をよぎる。 やれやれ、、、と独り言が漏れる。まるで波平のハゲ頭が風に揺れるような、頼りなさを感じた。
郵便局とのやりとり
近所の郵便局で、投函記録を確認してもらうが「中身の確認まではしておりません」とのこと。 「じゃあ、本当に封筒に何が入ってたかなんて誰にも分からないってことか…」 郵便局員の困った顔が、妙にサザエさんの郵便屋に似ていて腹が立った。
登記申請人の怪しい反応
申請人に電話を入れると、「あ、そうですか、じゃあまた改めて」と軽すぎる返事が返ってきた。 普通なら焦るはずの場面で、この反応はおかしい。むしろほっとしているようにも聞こえた。 「ねぇ、なんか引っかからない?」とつぶやくと、サトウさんがすかさず「はい、引っかかります」と返す。
サトウさんの一言
「この人、前にも添付書類が紛失したって言ってました」 データベースから過去の申請記録を掘り出すと、確かに同じような経緯が記録されていた。 彼女の記憶力には、毎度のことながら驚かされる。
不自然な依頼の共通点
過去の数件を調べると、いずれも金融機関が絡んでいた。しかも登記原因が複雑なものばかり。 そして全てが、最終的に申請中止か取り下げとなっていた。 偶然にしては出来すぎている。
偽装登記と証拠隠滅
添付書類をわざと送らず、後から「やっぱり申請やめます」と言うことで、履歴だけを残す。 虚偽登記の準備行為に見せかけて、実質的には証拠を消すためのトリック。 それはまるで、ルパンが金庫の中身だけをすり替えるような鮮やかさだった。
再度の面談と録音の罠
依頼人と会う際、さりげなくレコーダーをポケットに忍ばせた。 「どうせまた使い回すだけだったから、入れなくていいと思った」と奴が漏らした瞬間、ガッツポーズ。 録音はしっかり取れていた。
サトウさんの勝利宣言
「やっぱり、ですね」 あくまで感情を見せずに、書類の山から法務局提出用の報告文を作成するサトウさん。 チョコを一粒、口に放り込む音だけが静かに響いた。
法務局への報告と結末
録音と調査経過を添えた報告書を法務局に提出。案件は特例の調査対象として記録された。 見た目は地味でも、こうした地道な対応が業界の信頼につながるのだ。 正義は、書類の中に静かに記されている。
事件後の昼下がり
午後、再び封筒に新たな申請書類を詰めていたら、背後から声が飛んだ。 「それ、明日の分ですよ」 また間違えたかと頭を抱えつつ、シンドウは笑う。「もう、ダメだな俺…やれやれ、、、」