月末はだいたい魂が抜けてる

月末はだいたい魂が抜けてる

月末が近づくたびに感じる異様な重圧

司法書士として毎月感じることだが、「月末」という単語だけで胃がキリキリし始める。書類の提出期限、登記の締切、支払関係、すべてがこの時期に集中する。週の始まりが月末だった日には、朝から脳内がパンク状態だ。「今月も無事に終えられるのか?」そんな不安が一日中つきまとう。気がつけば眉間にシワを寄せてパソコン画面に睨みをきかせている自分がいる。誰に強いられたわけでもないのに、なぜここまで自分を追い込んでいるのか。月末は、そういう自問自答の季節でもある。

「もうこんな日か…」と気づいた瞬間に始まる心の準備

毎月25日を過ぎたあたりで、私はある種の儀式のようにスケジュール帳を眺めては深いため息をつく。「やばい、もう月末じゃん」このセリフは私の口癖のようなものだ。気が付けば、数日前に依頼を受けた案件が5件ほど未処理のまま山積みになっている。焦る気持ちとは裏腹に、手はなかなか動かず、時間だけが過ぎていく。学生時代、夏休みの宿題を8月30日に一気にやっていた自分を思い出す。変わってないな、と苦笑しつつ、またパソコンに向き直る。

カレンダーに怯える毎月のルーティン

カレンダーを見るのが怖い。ふとした瞬間、壁掛けのカレンダーに目をやると、赤く囲った「30」「31」の数字がやけに大きく見える。まるで「お前、まだ終わってないよな?」と責められているようだ。それまでに手を打っていれば良いのだが、月初の「余裕あるから大丈夫でしょ」はだいたい裏切られる。案件は不意にやってきて、不意に滞り、気がつけばもうギリギリ。カレンダーは私にとって、ただの予定表ではなく、心理的な圧迫装置なのかもしれない。

月初に立てた計画がどこかへ消える現象

月のはじめ、「今月は余裕を持ってスケジュールを組もう」と計画する。それなりに細かくタスクを書き出し、優先順位までつけて、デスク横に貼り出す。が、月の終わりにはその紙すら見当たらないことがある。「え、こんなにやることあったっけ?」と焦るが、そもそも忘れていた時点でアウトだ。計画性のない自分に嫌気がさしつつ、なぜか毎月これを繰り返している。反省はしている、でも改善は難しい。それが現実である。

書類の山と格闘する日々

司法書士の仕事において、書類は命。だが、その書類に月末は容赦がない。登記関係や報告書、顧客への確認書類が一気に押し寄せてくる。しかも、提出期限を過ぎたら大問題になるものばかり。まるで紙の洪水に飲み込まれているような錯覚に陥る。しかも、書類の一枚一枚に人の人生や財産が関わっているのだから、手も気も抜けない。

「なんで今出すんだよ」と心で叫ぶ提出ラッシュ

「月末だから急いでください」と依頼者から言われるたび、正直なところ内心では叫びたい。「なんで月初に言ってくれなかったの!?」と。でも、言えない。言わない。言ったところで関係が悪くなるだけだとわかっているから。だから笑顔で「承知しました」と言いつつ、心の中では机をひっくり返している。そういう二面性が、いつのまにか板についた。

補正通知と不備書類の応酬

月末に限ってやってくるのが、法務局からの補正通知。ようやく出し終えた書類が「これでは通りません」と戻ってくる。この瞬間ほどやる気を削がれることはない。急ぎの案件を抱えながら、戻された書類の対応に追われると、まるで自転車を全力で漕ぎながら、後ろから誰かにブレーキをかけられているような感覚に陥る。進まない、でも止まれない。

まるで書類に呪われたかのような気分

夢にまで出てくる、登記申請書の記載ミスや日付の誤記。夜中に目が覚めて「あれ、あの案件大丈夫だったっけ?」と布団から飛び起きることもある。そんなことが月末には頻発する。書類がただの紙ではなく、呪いの札のように感じられてくるのだ。恐怖すら覚えるが、それをこなさないと給料も事務所も回らない。仕事とはいえ、精神的コストは相当だ。

人とのやりとりに疲れ果てる

月末は自分だけが慌ただしいわけではない。役所もお客さんも、なぜか一様に焦っている。その焦りが伝播して、電話の一本、メールの一通にも殺気立った空気を感じるようになる。「今すぐ確認してくれ」と言われれば、こちらもつい早口になってしまう。自分のペースがどんどん乱されていく。

電話が鳴るだけで心がすり減る

本当に疲れている時、電話の呼び出し音が拷問のように感じられる。「何かトラブルかな」「また急ぎの話かな」そんな予測が頭をよぎって、受話器を取る手が震えることもある。話し終えた後、ぐったりとイスにもたれる姿は、まるで全身のエネルギーを吸い取られたようだ。

役所もお客さんも月末モード

役所からの返答が遅れれば、その分こちらの業務も遅れる。とはいえ、催促しすぎても関係が悪化する。お客さんも同じ。月末に急に連絡をよこしてきて「明日までに」と無茶を言う人もいる。でも、ここで「できません」とは言えない立場。それがフリーランス司法書士のつらさである。

事務員さんの「また来ました」の一言に救われる

そんな中で唯一、癒しになるのが事務員さんの何気ないひとこと。「また来ましたよ、補正通知」「おつかれさまです、チョコどうぞ」その一言が、どれだけ救いになっているか。たったひとことに、なんとか明日も頑張ろうと思える。私にとっては、彼女の存在がいなければたぶん、とっくにこの仕事を辞めていたかもしれない。

魂が抜けるとはこのこと

月末が終わった日の夜、事務所を出た私は、もう何も考えられなくなっている。疲れすぎて夕飯も買わず、布団に倒れ込む。魂が抜けた、というより、どこかに置き忘れてきた感覚だ。なぜこんなに自分を追い込んでまで仕事をしているのか。答えは出ないが、翌朝にはまた同じように机に向かっている。これが司法書士という仕事の、現実であり、人生なのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。