全部捨ててしまいたくなる瞬間

全部捨ててしまいたくなる瞬間

全部投げ出したくなる日は、突然やってくる

「ああ、もう全部やめてしまいたい」と思う瞬間が、不意に訪れることがあります。司法書士という仕事は一見地味で堅実に見えるかもしれませんが、その実態は予想以上にハードで、心が折れそうになることも日常茶飯事です。事務所をひとりで回しながら、事務員のサポートを得て、日々の案件に追われていると、自分のキャパを超えてしまう瞬間があるんです。その日は決まって突然やってきて、準備も心構えもないまま、ぐらっと足元をすくわれるような感覚に襲われるんです。

朝からつまずいた時の絶望感

朝、目覚ましを止めてから二度寝してしまい、気がついたら予定の30分前。慌てて身支度をして出勤し、事務所のドアを開けた瞬間、机の上には昨日積み残した書類と、投函された郵便物の山。「またこれか…」とため息が漏れる。まだ業務が始まってもいないのに、すでに心は折れかけているんですよ。

郵便受けに積まれた未処理の郵便物

開封するのが怖くなるくらい、見覚えのある封筒たち。相続の催促、登記の補正依頼、役所からの連絡…。それを一つ一つ開けて中身を確認していく行為は、まるで地雷原を歩いているような気分です。「これは今日中に返さないとマズイな」「これはあの案件のやつか…」といちいち神経を削っていると、始業前から疲弊しきってしまいます。

また督促状か…自分の無力さに呆れる

封筒の中に入っていたのは、補正じゃなくて“督促状”。一度目を通していたはずなのに、処理し忘れていた自分のミス。「どうしてあの時、ちゃんと対応しなかったんだ…」と後悔しても遅い。たった一枚の紙切れが、こんなにも自分を責める材料になるとは思いませんでした。

事務員との噛み合わない会話に心が折れる

「この案件、進んでませんけどどうなってます?」と事務員に言われて、思わずムッとしてしまったことがあります。いや、それは俺が手をつけるはずだった案件で、あなたには言われたくなかったんだよ…。でも、言い返すと雰囲気が悪くなるし、かといって黙っているとモヤモヤする。そんな人間関係のすれ違いが、地味に心を削っていくんです。

忙しさの渦中で自分を見失う

ひとつ終わればまたひとつ、立て続けにやってくる案件たち。依頼人の顔を思い出しながら、書類を作って、役所に提出して、電話対応して…。それらをこなしているうちに、「自分は何のためにこの仕事をやってるんだろう?」という疑問がふと頭をよぎります。忙しさは目の前を埋め尽くし、未来が見えなくなっていく。

案件に追われ、電話が鳴り止まない

午前中は役所、午後は面談、夕方は書類作成の予定だったのに、電話が鳴って全部崩れる。しかもその電話が「今すぐ対応してほしい」という内容だったりすると、さらに混乱。「一人でやってるんで…」と丁寧に断っても、理解されないことが多くて辛い。電話のベルが鳴るたびに、ビクッと反応してしまう自分がいます。

「今じゃなきゃダメなんですか?」と心で叫ぶ

実際に口に出せないこの言葉が、何度も喉元まで出かかります。「今、目の前に他の仕事があるんです」「順番に対応しています」と言いたいけれど、依頼人は自分のことで頭がいっぱい。こちらの事情は関係ないんですよね。理解を求めたい気持ちと、プロとして応えなきゃというプレッシャーの板挟みに苦しみます。

昼食を抜いたのに感謝もされない

昼食を食べる時間すら惜しんで対応した案件。その日、やっと終わらせて依頼人に連絡したところ、「もっと早くできなかったんですか?」という言葉が返ってきたときは、さすがに心が折れました。「いや、俺、昼も食べてないんだけど…」とつぶやきながら、ぬるくなったお茶を飲み干した午後。人知れず頑張ったことって、本当に誰にも伝わらないものですね。

「司法書士を辞めたい」と呟いた夜

疲れきった一日の終わり、ふと湧き上がる「もう、辞めたい」の気持ち。別に事件があったわけでもない。ただ、蓄積されたストレスと孤独と虚しさが、ある一線を越えた瞬間に噴き出してくるんです。机に突っ伏したまま、暗い部屋でぼんやり天井を見上げながら、「もう十分頑張ったんじゃないか」と、自分を慰めるしかない夜があります。

誰にも弱音を吐けない孤独

「疲れた」と言っても、返ってくるのは「大変ですね」の一言だけ。誰かに「じゃあ代わろうか?」なんて言ってもらえることはない。周りの友人たちは会社員で、守られた環境にいるように見えて、話してもどこか噛み合わない。専門職の孤独って、理解されにくいんですよね。

友達はみんな会社員で、悩みの種類が違う

「それは大変そうだねー」とは言ってくれる。でも、じゃあ一緒に考えてくれるかというと、そうでもない。そもそも「補正」とか「登記識別情報」とか、話の前提を説明するだけで疲れてしまって、相談する気力がなくなるんです。結局、吐き出す場所がなくて、自分の中に溜め込むしかない。

「わかるよ」と言ってくれる人が欲しかった

「それ、俺もある」と言ってくれる誰かがいたら、もう少し気が楽になるのに。頑張ってるのに報われない、そんな瞬間に「俺も同じだよ」と隣に立ってくれる誰かがいれば、どれだけ救われるだろうか。結局、自分で自分を励ますしかないのが現実なんですよね。

疲れても、誰も「おつかれさま」と言ってくれない

一日の終わりに、ただ「お疲れさま」と言ってくれる人がいるだけで、心の疲れが少し和らぐ気がします。でも、それすらもない日々が続くと、無力感に襲われてしまいます。テレビをぼんやり見ながら、何をしてるんだろう…と考えてしまう、そんな夜もあるんです。

モテない日々に滲む自己否定

別にモテたいわけじゃないけれど、ふとした時に「自分は社会に必要とされてないのでは?」と思ってしまう。仕事では専門家として頼られているはずなのに、プライベートでは誰にも見向きもされない。そんなギャップに、自信を失ってしまう日があるんです。

週末に予定がない独身の現実

金曜日の夜、「明日はなにしよう」と考えても、別に会う人もいない。婚活も何度か試したけど、司法書士って仕事、あんまりピンと来てもらえない。仕事ばかりの人生になってしまったことに、ふと寂しさを感じる瞬間があります。

「頑張ってるね」よりも「なんでそんなに疲れてるの?」

たまに誰かに会っても、「顔色悪いよ」とか「ちゃんと休んでる?」なんて言われる。こちらとしては頑張ってるつもりなんだけど、それが伝わっていない気がして悲しくなる。もっと、頑張ってることを見ていてほしい。ただ、それだけなんです。

でも、捨てきれなかった小さな光

全部を放り出したくなった日も、なぜか翌朝には机に向かっている。そんな自分が不思議でもあり、誇らしくもある。心のどこかで、まだこの仕事に意味を見出しているからこそ、続けているのかもしれません。小さな光のような出来事が、沈みかけた心をそっと照らしてくれることがあるんです。

依頼人の「ありがとう」に救われる日

ある日、相続の手続きを終えた高齢の依頼人から「本当に助かりました。ありがとうございました」と言われたとき、思わず泣きそうになりました。形式的なお礼ではなく、心からの感謝。その一言が、全部捨てたくなった自分を、もう一度机に向かわせるんです。

事務員の何気ない気遣いに泣きそうになる

「今日、忙しそうだったのでおにぎり作ってきました」と渡された小さな包み。そんなつもりじゃなかったのに、じんわり涙が出てくる。「ちゃんと見てくれてる人がいるんだな」と思える瞬間に、また少しだけ頑張ってみようという気持ちになります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。