誰にも頼れない感じがこの仕事の孤独さ
司法書士として地方で一人事務所を切り盛りする毎日。事務員こそ一人雇っているけれど、結局のところ責任のすべては自分の肩にかかってくる。仕事を通じて感じるのは、社会的な信頼と引き換えに背負う「孤独」だ。誰かに頼るという感覚が、どんどん遠ざかっていく。困っている人の手助けをする仕事なのに、自分が困っても誰にも助けを求められないという矛盾。優しさや共感よりも、ミスをしない冷静さを求められるこの職業において、「誰かに寄りかかる」という発想そのものが奪われていく気がする。
「先生」と呼ばれても、実際は全部ひとり
周りからは「先生」と呼ばれ、信頼されているように見えるかもしれない。でも、その肩書きが孤独の温床になるとは、司法書士になったばかりの頃は思いもしなかった。お客様は相談に来る。金融機関も役所も、こっちを「専門家」として頼ってくる。でも、こちらが何かに悩んでいても、それを表に出すことはできない。信用を失うからだ。何かがわからなくても、わかっているフリをしなければならない。つまり、見られている自分を演じることが求められる。これが続くと、本当の自分を置き去りにしてしまう。
気軽に弱音を吐けない「専門職」の空気
例えば、ちょっとした手続きミスが起きたとしよう。人間だから当然ある。でも、司法書士として「ミスしました」と言える相手は誰だろうか？お客さんにはもちろん言えない。金融機関には平謝り。事務員には「気にするな」と言ってみせる。でも心の中はモヤモヤしていても、それを口に出せる人がいない。結局、誰にも話せないまま自分の中で処理する。専門職というのは、知識や技術を誇る職業であると同時に、「完璧であること」を求められる職業でもある。だからこそ、弱音を吐ける場所が少ないのだ。
相談される側が、相談できない現実
矛盾しているのは、「相談に乗ること」が仕事である自分が、何かを誰かに相談するという発想すら忘れてしまっていることだ。先日、ちょっと精神的に限界を感じて、思わずGoogleで「司法書士 相談相手 いない」と検索してしまった。出てくるのは業界団体のページか、孤独に耐える方法の記事ばかり。結局、そこにも答えはなかった。誰かに頼るって、どうやるんだったっけ。そんな基本的なことすら思い出せなくなっているのかもしれない。
事務員がいても、本質的な孤独は変わらない
ありがたいことに、うちには事務員さんがいる。書類作成や電話対応など、いろいろと助けてもらっている。でも、「一緒に働いているから孤独じゃないか」と言われると、それは違う。むしろ、彼女に弱さを見せないように気を張る分、孤独感は増すばかりだ。自分がグラつけば、彼女の不安にもつながる。そんな思いが、さらに自分を追い詰める。
「仕事の重み」を共有できる人がいない
司法書士の仕事は、登記ミス一つで大ごとになる。「重たい仕事」を日々処理しているという意識は常にある。でも、そのプレッシャーを共有できる相手は、やはりいない。事務員には業務の一部しか任せられないし、専門的な判断はすべてこちらの責任。たまに「大変ですね」と声をかけられることもあるが、その大変さを“正確に”共有するには、同業者でないと無理なのだ。
愚痴をこぼす相手がいない生活
最近、愚痴をこぼすタイミングすら見失っている。昔は友達と飲みに行って、「いやー今日はやられたわ」なんて話していた。でも、独身のまま年を重ねて、周囲の友人たちが家庭を持ち始めると、誘いづらくなるし、誘われもしなくなる。結局、話し相手はスマホとテレビと、たまに届くDMくらい。そんな生活の中で、「今日も誰ともちゃんと話さなかったな」と気づく瞬間が、一番堪える。
他の司法書士との距離感が微妙な理由
「他の司法書士と情報交換すればいいじゃないですか」と言われることがある。確かにそれができれば理想だ。でも現実には、距離感が妙に難しい。ライバル意識や競争心が強くなると、相談どころか牽制し合って終わる。かといって、馴れ合いすぎるのも気が引ける。地域柄もあるのかもしれないけど、「つながること」にハードルがある業界なのだ。
横のつながりがありそうでない業界の性質
研修会や会合には一応参加する。でも、業務内容の話となるとみんな口が重くなる。表面的には笑顔でも、どこか腹の探り合いみたいな空気がある。「あの人、最近どうなの？」と他人を気にする会話が多くて、肝心な本音を話せる場にはならない。結局、名刺交換して終わるだけ。人との距離が縮まることはほとんどない。
飲み会では話せない、本当の悩み
たまには飲み会もある。でも、そこで話せるのはせいぜい業界の景気とか、行政の動きとか、そんな無難な話ばかり。例えば「最近、業務量に押し潰されそうで…」なんて本音を言ったら、場が凍るのが目に見えている。だから、悩みを抱えたまま乾杯して、また明日からひとりで頑張る。それの繰り返し。誰かと話していても、孤独って消えないもんなんだなと思う。
プライベートの孤独が、仕事に拍車をかける
仕事が忙しいのはありがたい。でも、ふと気づくと、土曜の夜も日曜の午後も一人きり。独身であることがこんなに孤独だったなんて、昔は想像もしなかった。家庭のある同業者を羨ましく思うこともある。「話せる相手」が家にいることの強さ。誰にも見せられない弱さを、家族にだけは見せられるという当たり前が、実はとてつもない支えなんだと痛感する。
結婚していれば変わっていたのか？
「家庭があれば違っていたかもな」と思うことは正直ある。結婚すればすべてが解決するわけではないけれど、孤独感に押しつぶされそうな夜に、誰かがいてくれること。それだけで心はだいぶ違ったはずだ。婚活も考えたが、仕事にかまけてタイミングを逃し続け、気づけばこの年齢。女性にモテない自覚もあるから、どこかで諦めている自分もいる。
「モテないこと」も地味に堪える
「どうせ俺なんて」と思ってしまうことがある。学生時代もモテるタイプじゃなかったし、社会に出てからも仕事一筋でやってきた。恋愛や結婚より、業務の正確さばかりを追い求めてきた結果が今の自分。でも、ふと街中で楽しそうなカップルを見たり、知人の結婚報告を聞いたりすると、やっぱり胸がチクリと痛む。人間関係の寂しさって、仕事では埋まらない。
