ドラマみたいな展開なんて、ひとつも起きないまま今日が終わる

ドラマみたいな展開なんて、ひとつも起きないまま今日が終わる

ドラマみたいな展開なんて、ひとつも起きないまま今日が終わる

派手なセリフもBGMもない日常

司法書士として働いていると、現場は静かすぎるくらい静かです。朝、パソコンを立ち上げる音とプリンターの駆動音だけがオフィスに響く。それが、僕の1日の始まりです。テレビドラマのような勇ましい音楽もなければ、「よし!」と気合を入れる自分もいない。朝一のメール確認にため息をついて、昨日からの書類の続きを淡々と処理する。感情のアップダウンも抑えたまま、ただタスクを捌いていく。それが現実で、しかもそれがもう何年も続いている現実です。

静かな朝、音だけが仕事を始める

ドラマの中では、出勤前に気持ちを整えるシーンがよくあるけれど、こちらはそんなこと言ってられない。コーヒーを淹れる余裕もないまま、時間に追われてスーツに袖を通し、事務所のドアを開ける。気づけば、朝のニュースすら耳に入っていない。毎日がルーティンで、刺激というものが皆無。まるで繰り返し再生されるVHSみたいな日々。けれどそれでも、やるべきことは確実に積み上がっていくから、自分に気合を入れる暇すらない。音だけが、僕の朝の伴奏です。

「よし!」の声すら出ないまま始まる一日

気持ちの切り替えって、本当に難しい。やる気のある日は少ないけれど、やらないわけにもいかないから動く。ドラマの主人公みたいに「今日こそは!」なんて言ったら、逆に自分で引いてしまう。たぶん僕が朝一で発する声は、「あー…」とか「ふぅ…」とかそんなもんだ。小さくついたため息が、無言のスタート合図。モチベーションじゃなく、義務感だけで動いてる日もある。だけど、それでも一日は始まって、終わる。セリフがなくても、物語は続いているのです。

誰にも知られない努力とストレス

この仕事、見える部分はごくわずか。表に出るのは、お客さんに渡す書類や説明の一場面だけ。でも、その裏では何時間も法務局のシステムと格闘し、登記簿とにらめっこし、細かいミスに神経をすり減らしている。ひとつ間違えれば、案件が一週間止まることもある。その緊張感を、誰にも気づかれずに抱え続けている現実がある。「先生って楽そうですよね」なんて言われると、思わず笑ってしまいそうになる。どこが楽なんだと。

相談者に見せない“裏側”の積み重ね

たとえば、相続の相談ひとつとっても、聞き取りは1時間でも、調査と資料作成に3日はかかる。しかも、亡くなった方の戸籍が全国に散らばっている場合、1週間以上かかるのは当たり前。お客様には「大丈夫ですよ、こちらで対応します」と言いながら、頭の中では「今週中に届くか?いや、あの役所は遅いから…」と段取りでぐるぐるしている。でも、それを表に出したら不安にさせてしまう。だから黙ってやる。黙って、裏で走り回る。それが僕たちの“仕事”です。

電話一本で予定が全部崩れる日

計画を立てても、それ通りに進まないのが現実。朝イチで今日のスケジュールを確認して、「今日は比較的余裕あるな」と思った瞬間、一本の電話で全てが吹き飛ぶ。急な相続相談、銀行とのやりとり、登記の急ぎ依頼。予定表は真っ赤になり、午前の仕事は夜に持ち越し。結局、早く帰るつもりだったのに事務所を出るのは21時過ぎ。こういう日が週に2〜3回ある。もはや予想通りに進んだ日は“奇跡”扱いだ。

「簡単そうに見えるでしょ?」の内訳

不動産登記って、外から見ると「紙を出すだけの仕事」に見えるらしい。でも実際は、ミスを絶対に許されない作業の連続。日付、氏名、地番、法令チェック…確認項目が多すぎて、頭が冴えてないと致命的ミスにつながる。それでもお客さんから「思ったより簡単なんですね」と言われてしまうと、もう笑うしかない。簡単に見せるために、どれだけこっちが神経すり減らしてるか。まぁ、それがプロってことなんだろうけど。

事務員さん一人に支えられている現実

うちの事務所には事務員さんがひとり。彼女がいなかったら、もうとっくに回っていない。申請書の下書き、電話対応、郵送物の管理…。小さな事務所の全部を、二人で回している状態です。忙しさのピークが続くと、お互いに余裕がなくなって、無言の時間が増える。でも、それでも黙ってやってくれてる。正直、感謝してもしきれない。でも、口に出すタイミングって難しいもんで…。

感謝してるけど、言葉にする暇もない

忙しいと、言葉にする余裕なんてなくなる。「いつもありがとうね」って伝えたい気持ちはある。でも、「この書類明日までにお願いします」の方が先に出てしまう。たぶん、彼女も同じように感じてるんじゃないかと思う。感謝の言葉って、照れ臭いし、あまりに現実的すぎる職場では、言わないまま過ぎていく。でもそれでも、伝わっていてほしいと思ってる。せめてもの誠意として、ちゃんと手を抜かずに仕事を仕上げるようにはしてるつもりだ。

たまに聞く「ちょっと疲れてるんで」の破壊力

事務員さんが「ちょっと早めに帰っていいですか?」と口にした日は、僕の中でアラームが鳴る。普段、文句も言わずに働いてくれる彼女がそう言うということは、相当疲れているか、何かしら我慢していたサインだ。そうなると、次の日から僕が一人で回す覚悟が必要になる。書類の確認も、郵送も、スキャンも、すべて一人。司法書士だけど、雑用も含めて全部やる。そんな日は、特に静かだ。あまりに静かで、自分の足音すらうるさく感じる。

自分が休めないときに人を休ませる心境

誰かを休ませるというのは、優しさだけじゃない。実は、ちょっとした自己犠牲だ。自分が今、本当は休みたい。でも、その余裕がない。だからこそ、せめて他の人だけでも…という矛盾した気持ちになる。結果的に、僕はもっと疲れる。でも、そうでもしないと職場の空気が壊れてしまう気がして、無理を選んでしまう。仕事の効率より、空気の維持の方が難しいという現実が、ここにはある。

結局はひとり事務所と変わらない

結局、責任のすべては僕にある。ミスがあっても、遅れても、謝るのは僕。事務員さんがいても、最終確認や対応は僕がするしかない。だから、事務員さんがいても「楽になる」わけじゃない。でも、いないよりはずっといい。なんだかんだで、ひとり事務所の感覚は抜けない。孤独感も、緊張感も、いつも背中に貼りついている。静かで、地味で、それでも毎日は過ぎていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。