朝起きて「今日も一人か」と思う日々
朝の空気が少し冷たく感じる季節になると、なんだか余計に寂しさが身に沁みる。「今日も一人か」とつぶやきながら、ポットに湯を沸かし、トーストを焼く。世間の多くの人は家族に「いってらっしゃい」と声をかけられ、職場で同僚に「おはようございます」と返される。でも一人事務所では、そんなやりとりはない。事務所に着いても、自分の声が室内に反響するだけ。誰とも喋らずに始まる一日は、やる気を削がれるには十分だ。
仕事の前にまず孤独と向き合う
出勤時間を誰かに合わせる必要もないし、遅れても怒られることもない。それが楽だと思っていたはずなのに、今では逆にそれがきつい。「自分がいなくても世界はまわる」そんな実感が、日を追うごとに重くのしかかる。特に忙しい朝、誰かと「今日もがんばろう」と言い合えるだけで違うのにと、思わずため息が出る。仕事以前に、「孤独とどう折り合いをつけるか」が一日の最初の仕事になっている。
カレンダーに自分の予定しかない寂しさ
スケジュール帳を開いてみても、そこにあるのは全て自分で入れた予定だけ。「〇〇様来所」「登記申請」「法務局へ」…ぜんぶ自分で組んだ、自分のための予定。それがびっしり詰まっていても、誰かに頼まれているわけじゃない。なんだか「誰のために生きてるんだろう」なんて哲学的な気持ちになることもある。他人と関わらずに回ってしまう世界は、意外と息苦しいものだ。
同業者と比べても意味がない、でも比べてしまう
他の司法書士のSNSやホームページを覗いては、「うわ、立派なスタッフがいるな」とか「おしゃれな事務所だな」なんて羨んでしまう。でも比べたところで、何かが変わるわけじゃない。自分は自分、と言い聞かせながらも、心のどこかでは「自分ももうちょっと上手くやれたんじゃないか」と思ってしまう。承認欲求というものは、本当にやっかいだ。
全てをこなす万能人間にはなれなかった
司法書士の仕事は、調査から申請、書類作成、相談対応までとにかく幅が広い。それに加えて掃除やお茶出し、備品の管理まで自分でやっていたら、あっという間に一日が終わる。理想の「一人事務所経営者」は、スケジュールも管理も全部スマートにこなしているはずだった。でも現実は、何かをこなすたびに何かが抜け落ちていくような感覚。効率化にも限界がある。
司法書士であり、事務長であり、掃除係である
朝、事務所に入った瞬間、まず目に入るのは散らかった書類と溜まった埃。書類を片付け、掃除機をかけ、お茶を準備する。電話が鳴れば対応し、郵便が届けば開封し、すぐに登記申請の準備へ。気がつけば午前中は全部「雑務」で消えている。それでも誰かに任せることができないというのは、信頼の問題もあるし、経費の問題もある。だから、結局全部自分がやるしかない。
「これくらい自分でやれよ」と自分に言い聞かせる日々
毎回、「誰か雇いたいな」と考えては、「でも今はまだ」と引っ込める。事務員さん一人いるだけでもありがたいと思わなければと自分に言い聞かせる。誰かに頼ることに慣れていないのも、自分で何でもやるのが当たり前になってしまっているのも、全部自分の責任なのに、なぜか腹が立ってしまう。自己責任という言葉が一番つらく刺さるのは、たぶんこういう瞬間だ。
外注しようとした瞬間、「そんな予算はない」と我に返る
「業務効率化しよう!」と思い立ち、行政書士業務の一部を外注したことがある。でも見積書を見た瞬間に青ざめた。「いや、今月赤字になるじゃん」と。結局、自分で深夜までやることにした。効率化とは、時間をお金で買うこと。でもそのお金がなければ、結局時間も失う。どちらを取るかと聞かれても、どっちも欲しいのが本音だ。
誰にも相談できない重さ
一番しんどいのは、「しんどい」と言えないことかもしれない。知人に話しても「自営業でしょ?自由でいいじゃん」と言われるのがオチ。家族がいるわけでもない。相談できる同業者もいない。相談するほどのことでもない、でも、毎日少しずつ心が削れていく。そんな日々が、ずっと続いている。
「聞かれても困る」悩みほど話せない
「最近どう?」と聞かれて、「まぁまぁです」と答えるしかない。この返事の裏にあるのは、受任件数の不安定さや、未収金のストレス、将来の漠然とした不安。そんなことをいちいち話すわけにもいかない。聞かれても困るし、話しても相手も困る。だから結局、一人で抱えたまま過ごしていくしかない。
事務員さんに愚痴るわけにもいかず
唯一、近くにいる事務員さん。だけどこの人に仕事の愚痴は言えない。雇っている立場なのに、「しんどいんですよね」なんて言おうものなら不安にさせてしまう。むしろこっちが「大丈夫ですよ」と安心させる立場。とはいえ、自分の中に溜まるモヤモヤの出口はどこにもない。どこかにそっと愚痴っても許される場所が欲しい。
メールの「よろしくお願いします」がしんどい
普段、なんてことのない業務連絡。けれど、相手の一言に自分の不調が揺さぶられることもある。「〇日までにお願いします」と言われて、「あ、また急ぎだ」と気づいたとき、肩が重くなる。たった一文にすら、耐えられないくらいに疲れている自分がいる。こんな時、「もう無理」と声に出したくなる。でもその声を聞いてくれる人がいない。
休みの日が怖くなってきた
日曜日、外は晴れ。久々の休日。なのに心が重い。「今日は誰とも喋らないな」という確信がすでに胸の中にある。仕事が忙しいときには「休みたい」と思うのに、いざ休みになると、自分の存在の薄さが怖くなる。予定もなく、連絡も来ず、ただ時間だけが過ぎていく一日。そんな日が増えていくと、どこか自分が透明になっていくような気さえする。